
こちらの記事の監修医師
東京医科大学八王子医療センター
脳神経外科科長 教授 神保 洋之 先生
こうじのうきのうしょうがい 高次脳機能障害
最終更新日:2022/01/04
概要
高次脳機能障害は、けがや病気によって脳に損傷を負い、知的な機能に障害が出て日常生活や社会生活に支障を来す状態を指します。典型的な例は、脳梗塞を発症し、治療とリハビリによって体のまひはある程度改善したものの、失語症が出て社会生活が営めないといった状態です。国や自治体は、障害者総合支援法によって、このような障害者を支援するために、高次脳機能障害の診断基準を設けています。その前提条件となっているのは、事故などによる受傷や他の病気が原因で、脳の病変の発症が確認されていることで、先天的な障害、周産期の受傷による脳の障害、発達障害などはこの高次脳機能障害には含まれません。
原因
高次脳機能障害の原因傷病の約8割は脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、モヤモヤ病などの脳血管疾患)、次いで約1割が頭部外傷とされています。残りの1割は、脳腫瘍、脳炎、エイズ脳炎などの感染症、正常圧水頭症、全身性エリテマトーデス、神経ベーチェット病などの自己免疫疾患、アルコールや薬物などによる中毒、多発性硬化症などさまざまな病気により引き起こされます。原因傷病を発症年齢別に見ると、10~20歳代では、頭部の外傷が最も多く、年齢が高くなっていくに従って、脳血管障害を原因とする割合が高くなっていき、60歳以上では約90%に達します。脳血管障害は高血圧などの生活習慣病を基盤にして起こることが多いので、生活習慣病を持っている人は、薬による治療や食事、運動の生活習慣改善を継続し、脳卒中を起こさないことを心がけましょう。
症状
主な症状には、失語、半側空間無視、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などがあります。スムーズに話せない、相手の話が理解できないといった失語症、損傷した脳の反対側を見落とす半側空間無視行動が多く見られます。物の置き場所や新しい出来事を覚えられない記憶障害、ぼんやりしてミスが多い、作業を長く続けられないといった注意障害、計画が立てられない、約束の時間に遅れるなどの遂行機能障害、興奮する、暴力を振るう、思いどおりにならないと大声を出す、自己中心的になるといった社会的行動の障害が出ることもあります。せん妄、認知症と間違えやすいのですが、せん妄は1日の間に症状が変動することが特徴で、認知症は記憶障害の他に時間や場所がわからなくなる見当識障害が出るといったことで見分けます。
検査・診断
高次脳機能障害では、基本的に発症、受傷時のMRI、CT、脳波検査などで障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されていますが、それらのデータや診断書で、あるいは追加の画像検査を行って、高次脳機能障害に関連するとされる所見の有無を確認します。その上で、それぞれ失語症、記憶障害、注意障害、半側空間無視、遂行機能障害、社会的行動障害など一つ一つの症状について、さまざまな神経心理検査などを用いて検査し、総合的に診断します。これらの高次脳機能障害の検査・診断は、外傷や脳卒中など原因疾患の急性期治療が終わった後に実施されます。
治療
高次脳機能障害の患者に対しては、日常生活、社会生活への適応力を高めていくリハビリテーションが主体になります。まず、病院で医学的リハビリテーションが6ヵ月程度実施された後、施設などでの生活訓練プログラム、職業訓練プログラムなど、合わせて約1年程度のリハビリテーションを行います。例えば、医学的訓練では患者の行動観察などによってそれぞれの障害の程度を評価し、注意障害であれば、簡単なゲーム訓練を通じてどのような側面の記憶が障害されているかを明らかにし、生活訓練プログラムで買い物や交通機関の利用、料理などの実習を行ったり、職業訓練プログラムのグループで意見交換をする訓練や、模擬的な作業実習などを行ったりすることで、日常生活、社会生活への適応力を高めていきます。さらに治療と同時に障害者手帳の申請、介護サービスや就労支援の利用申請など社会的な支援を求める手続きを進めていくことになります。
予防/治療後の注意
予防が可能な原因疾患は限られていますが、最も患者数が多い脳卒中は、危険因子である高血圧、高脂血症、糖尿病などをコントロールすることで予防が可能です。これらの生活習慣病がある場合は、早めに医療機関を受診し、医師の指示で生活習慣改善や薬による治療を行ってください。また、脳ドックで脳動脈瘤を発見して治療することで、くも膜下出血の発症リスクを減らすこともできます。都道府県ごとに定められた高次脳機能障害の支援拠点では、患者・家族からの総合的な相談に乗り、専門的なリハビリテーションや介護を提供する施設の紹介なども行っています。

こちらの記事の監修医師
脳神経外科科長 教授 神保 洋之 先生
1988年昭和大学医学部卒業。脳卒中の外科、頭蓋底外科、脊椎・脊髄外科の分野を専門に豊富な診療実績を積み重ね、血管内皮細胞障害の基礎的研究にも従事。 2008年より東京医科大学八王子医療センターに勤務。2015年現職に就く。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。
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