こちらの記事の監修医師
聖マリアンナ医科大学 東横病院
生活習慣病センター長 太田 明雄 先生
ししついじょうしょう(こうしけっしょう) 脂質異常症(高脂血症)
最終更新日:2023/07/10
概要
血液中の中性脂肪やコレステロールなどの脂質の代謝が正常でない状態のことをいいます。従来は中性脂肪値が高い、もしくはLDL(悪玉)コレステロール値が高い状態を「高脂血症」と呼んでいましたが、HDL(善玉)コレステロール値が低い状態も同様に問題があるとして、2007年からはこれら3つの状態を「脂質異常症」と呼ぶように改められました。自覚症状がないことから、この状態を放置する人も少なくありませんが、脂質が増えると血管の内側にたまり動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などの深刻な病気を引き起こしかねないため、早期改善が求められます。
原因
脂質異常の状態になる原因としては、遺伝的な要素、過食、脂肪の多い食生活、運動不足、ストレスなどが関係しています。特に近年、国内で脂質異常症の患者が増えた背景には、食の欧米化が進んで動物性脂肪の多い食事が増えたこと、車の普及などによって慢性的な運動不足の状態にあることなどが関わっているといわれています。コレステロール値が高くなる原因としては脂肪の多い肉や卵、乳脂肪分の多いバター、チーズ、即席麺などの食べ過ぎが挙げられます。中性脂肪値が上がる原因となるのは、果物や甘いお菓子の食べ過ぎ、お酒の飲み過ぎなどです。またタバコを吸うと善玉コレステロール値が低くなり、脂質異常の状態になりやすいことも判明しています。さらに運動を怠ると体内で消費されるエネルギーが減り、ますます脂質の代謝が悪化してしまいます。大半の脂質異常症は成人以降の食生活、運動不足、体重増加などが原因となって起こるといわれています。
症状
脂質異常症から起こる自覚症状はほぼ皆無で、ほとんどの場合は定期検診などで数値の異常を指摘されて初めて判明します。脂質異常症からの動脈硬化が「沈黙の病気」といわれるのはそのためです。脂質異常症には他の病気に付随して発症する続発性のものがあり、例えば甲状腺機能低下症、副腎皮質ホルモンの分泌異常、糖尿病、腎臓病、肝臓病などが挙げられます。このような病気に伴って発症する場合には、各病気の症状がきっかけとなって判明するケースもあります。
検査・診断
採血によって血液中の中性脂肪値、コレステロール値を測定します。中性脂肪は食後数時間かけて上昇するため、正確な数値を見るためには午前中に朝食を抜いた状態で採血するのが望ましいです。脂質異常症と判断される基準は、LDLコレステロールが140㎎/dl以上(高LDLコレステロール血症)、HDLコレステロールが40㎎/dl未満(低HDLコレステロール血症)、中性脂肪が150㎎/dl以上(高中性脂肪血症)のいずれかです。他の病気を併発していることが疑われる場合は、さらに病気に応じた検査が加えられます。
治療
治療は年齢、性別、高血圧や糖尿病の有無、喫煙習慣、家族の既往歴などをもとに目標値を設定して行われます。まずは食生活の改善によって数値の改善を図ります。2020年厚労労働省より、脂質異常症がある場合には重症化を防ぐためにコレステロール摂取量を1日200mg未満に抑えることが望ましいと発表されました。動物性脂肪の代わりに魚や植物性の油を多く摂ること、コレステロールの吸収を抑える食物繊維を多く摂ること、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の過剰摂取を避けること、アルコールを控えめにすることなどです。また1日30分以上の有酸素運動を取り入れることも推奨されます。ウォーキング、水泳、サイクリングなどです。食事や生活習慣を変えても数値の改善が見られない場合は、内服薬による治療を行うこともあります。例えば、既に動脈硬化の傾向が見られる人、糖尿病などを併発している人などは早期改善を必要とするため、コレステロールや中性脂肪を低下させる薬が処方されます。
予防/治療後の注意
脂質異常症は自覚症状がないため、定期的に健康診断を受けて自身の数値を把握しておくことが大切です。また日頃から暴飲暴食は避け、適度な運動を継続するなど健康的な生活を心がけましょう。
こちらの記事の監修医師
生活習慣病センター長 太田 明雄 先生
1985年、聖マリアンナ医科大学医学部卒業。専門は糖尿病、脂質異常症。2015年から聖マリアンナ医科大学 東横病院 生活習慣センター長兼病院教授として、生活習慣病の予防・治療に尽力。日本内科学会総合内科専門医。日本糖尿病学会糖尿病専門医。
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