こちらの記事の監修医師
順天堂大学医学部附属浦安病院
血液内科長 野口 雅章 先生
たはつせいこつずいしゅ多発性骨髄腫
最終更新日:2021/12/27
概要
簡単にいうと血液のがん。白血球の一種であるB細胞という血液の細胞からできた形質細胞(けいしつさいぼう)ががん化し、骨髄腫細胞に変化して増え続ける。形質細胞には、もともと細菌やウイルスから体を守るための抗体を作る役割が備わっている。しかし、がん化して骨髄腫細胞に変わるとその機能が失われ、増殖を繰り返しながら抗体としての力を持たないMタンパクを作り続ける。このMタンパクや骨髄腫細胞が、体に対してさまざまな影響を及ぼす。通常であれば、形質細胞は骨髄の中に1%未満の少ない割合で存在しているが、がん化すると10%以上にまで増える。
原因
形質細胞ががん化するはっきりとした原因はわかっておらず、遺伝子や染色体の異常によるものと考えられている。発症のリスクになる要因として指摘されているのは、放射線被ばく、発がん性のある化学物質に長期間にわたって触れることなど。また家族間で発症するケースが多いことから、遺伝との関連性も推測されている。さらに女性よりも男性に多い傾向があり、性別も何かしら関係しているのではという見解がある。年齢については、高齢になるほど発症率が高くなっており、70歳頃がピーク。近年は社会の高齢化に伴って患者数も徐々に増加しているといわれている。なお40歳以下で発症するケースはほとんど見られない。自治体や会社の健康診断、または人間ドックなどで血液検査を受けた際に血液の異常を指摘され、その後の精密検査で多発性骨髄腫が見つかるケースが多い。
症状
骨髄腫細胞は血液を作り出す過程(造血)に影響を与えるので、貧血を起こすほか、白血球の減少に伴って感染症にかかりやすくなる。また、血小板の減少に伴って血が出やすい、止まりにくいといった症状が見られる。またMタンパクが大量に作られることにより、腎臓の機能が低下したり、血液がドロドロになって頭痛やめまいなどを引き起こしたりする。さらに、骨を壊す細胞を活性化し、反対に再生する細胞の邪魔をするので、骨折しやすくなったり、脊髄が圧迫されて体にまひが出たり、血液中のカルシウムが異常に多くなる高カルシウム血症になったりする。高カルシウム血症になると、便秘や吐き気、腹痛、尿量の増加、口の渇きといった症状が現れる。
検査・診断
多発性骨髄腫であることを診断するには、主に尿検査、血液検査、腸骨(おしりの骨)から骨髄液を抜き取って詳しく観察する骨髄検査を行う。尿検査ではMタンパクの有無を調べ、同時に腎臓の機能も確認する。また血液検査は、赤血球や白血球、血小板など血液の成分を調べることで、血液ができる過程に異常があるかどうかを確認できる。そして骨髄検査では、骨髄液の中に骨髄腫細胞があるかを調べ、かつ、その形を観察。最終的には尿検査や血液検査の結果も考慮しながら診断を確定する。このほか、がんの影響が全身のどこまで広がっているか確かめるために、CT検査やMRI検査、PET検査(放射性の薬剤を体内に入れて専用のカメラで観察することで、がんの全身への広がりを調べる)といった画像検査を必要に応じて行う。
治療
多発性骨髄腫そのものの治療は、化学療法が基本。9種類の分子標的剤(免疫調整薬・プロテアーゼ阻害薬・抗体薬)や抗がん剤、ステロイドを使い異常に増えた骨髄腫細胞を減らしていく。加えて、年齢や症状によって可能な場合は、自家末梢血幹細胞移植(自家移植)という治療を検討する。これは、あらかじめ患者自身の造血幹細胞を採取・保存しておき、体内に大量の抗がん剤を入れて骨髄腫細胞を死滅させた後で、取り出しておいた造血幹細胞を再び体に戻す治療。血液を作り出す機能を正常にすることで、治癒をめざす。一般的には、65歳以下で、なおかつ合併症などで重要な臓器が影響を受けていない場合に行われる。また合併症を起こしている場合には、それぞれの症状に合わせた治療を行う。特に脊髄の圧迫や腎不全などはできるだけ早く治療を開始する必要があり、重大な合併症については多発性骨髄腫に対する治療よりも優先されることがある。
予防/治療後の注意
治療の後は抗がん剤の影響などにより体力が低下し、嘔吐や口内炎、下痢、貧血、肝臓、腎臓、心臓、肺といった各臓器の機能の低下などさまざまな副作用が出る可能性が高い。そのため、医師と相談しながら各症状に合わせて適切な処置を施し、症状を軽減することが治療後の生活の質を高める。また免疫力が落ちているため、風邪や肺炎、帯状疱疹をはじめとした感染症には注意すること。手洗い・うがいの徹底と体調管理に気を配り、発熱などの症状が現れた場合はできるだけ早く医師に相談することが大切。
こちらの記事の監修医師
血液内科長 野口 雅章 先生
1983年順天堂大学医学部卒業。膠原病内科に所属し、免疫分野の診療経験を積んだ後、血液内科へ転向。亀田総合病院で移植医療を学び、順天堂大学医学部附属静岡病院を経て2000年から現職。2013年に教授就任。日本血液学会血液専門医、日本内科学会総合内科専門医。
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