人と人との関わりを左右する
聞こえの問題にある多種多様な背景
たけすえ耳鼻科クリニック
(那珂川市/博多南駅)
最終更新日:2024/12/12


- 保険診療
自然な加齢現象として起こる聴力の低下。周囲とのコミュニケーションの障壁を解消するために補聴器を購入する人も多いが、「ただ音を大きくするだけでいい」という間違った認識も散見され、その調整は素人では非常に難しい。「たけすえ耳鼻科クリニック」では聴覚の専門家である耳鼻咽喉科の医師や言語聴覚士とともに、音場検査・実耳測定という、大学病院レベルの機器を使った2つの検査を実施。「実生活で役に立つ補聴器」をめざし、具体的な使用場面を想定した細かい調整を行っている。また、最近では何度も聞き返すことや聞き間違いが多い「聞き取り困難症」という新たな病気もわかってきた。診療には環境調整によるアプローチも取り入れている同院。年齢を問わず、さまざまな背景がある「聞こえ」の問題について、武末淳院長に詳しく話を聞いた。
(取材日2024年10月8日)
目次
人と人との関わりを左右する「聞こえ」における問題は、子どもから高齢者までさまざま
- Q年齢を重ねることで、聞こえにも変化が生じるそうですね。
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A
▲「実生活で役に立つ補聴器」をめざすと語る武末院長
変化には大きく4つが挙げられます。1つ目は「小さい音が聞こえにくい」。しかし単純に大きくすればいいのではありません。なぜなら、大きくしすぎると、2つ目の「音割れや反響を起こす」につながり、音としては聞こえても情報として認識できなくなるからです。3つ目は弁別能という「言葉の聞き取り能力の衰え」です。音は入ってくるものの、情報として分析できる範囲が減ってしまう状態です。4つ目は「速度分析力の衰え」。早口での内容がわかりにくくなる状態です。この4つを解決するためには、伝える側が「小さすぎず、大きすぎず、はっきり、ゆっくりと話すこと」が重要です。これを意識するだけで高齢者の聞こえ方は変わりますよ。
- Qこちらの医院で行っている補聴器の診察の特徴を教えてください。
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A
▲まずは耳の病気の有無を診てもらう
聞こえ方、中でも補聴器の相談があれば、まずは私が耳の病気の有無などを診察で確認します。しかし、重要なのは困っているかどうかということ。それはご本人だけでなく、ご家族も含めてです。むしろご家族が困っているケースが多いかもしれません。そこで補聴器が必要だと判断すれば、週に1回外来を担当してくださっている九州大学の名誉教授であり、私の恩師でもある白石君男先生に診療をバトンタッチします。白石先生は聴覚検査機器の開発にも携わってこられた聴覚障害のエキスパートであり、さらに言語聴覚士でもあります。その先生のもとで補聴器のさまざまな調整を行える点は、当院の大きな強みの一つであると考えています。
- Qどんな検査を行いますか?
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A
▲検査については看護師による説明からスタート
まず1つ目が「音場検査」です。補聴器をつけた状態でスピーカーから音を聞き、実際の生活の中でどのような聞こえ方になっているのかを調べます。2つ目が「実耳測定」です。こちらも補聴器をつけた状態で、小さなマイクを鼓膜近くに設置し、実際に耳の中でどのように聞こえているのかを調べ、補聴器を細かく調整します。現在はデジタル補聴器になり、複数のチャンネル、例えば「マスクをしている時」「静かな時」「人混みにいる時」などを設定できるようになりました。これらを細かく調整することで、患者さんの納得いく補聴器に近づけていきます。いずれの検査機器も大学病院レベルのものを導入し、検査室はバリアフリーにも対応しています。
- Qちなみに、補聴器以外のアプローチはありますか?
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A
▲さまざまな検査を行うことが、日常生活での困難の改善につながる
補聴器を選択する一歩手前の策として、環境調整があります。例えば、騒がしいところだけで聞こえづらいという訴えには、周りの余計な音やBGMなどを取り除く。あるいは、左右の聞こえ方に差がある場合は、聞こえやすいほうの耳で聞き取れる向きで座るなど、普段の生活にちょっとした工夫を取り入れることで聞こえやすくなります。また、飛行機に乗った時やエレベーターで高層階へ行く際に耳が痛くなったり、耳が詰まるような感じがしたりする、自分の声が反響するといった方には、鼻と耳をつなぐ細い管のの動きが正常であるかを確認する耳管機能検査を実施。何度も耳が痛くなったり詰まったりした経験のある方には特にお勧めしている検査です。
- Q若い方も聞き取りづらいと感じている方が増加しているのだとか。
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A
▲新しい機器を導入し、検査や治療に役立てている
「聞き取り困難症」といって、年齢問わず、検査では異常がないのに聞き取れていない方が相当数いることが最近わかってきました。主に脳や音を伝える耳の奥の問題で処理がうまくいっていない状態であるといわれています。例えば、両隣にいる人は会話が成立しているのに、自分だけ聞き取れず何度も聞き返してしまうなど、複数で話している時や周りに雑音がある状況で通常よりも聞き取りがとても悪いのが特徴です。そのため、先ほどお伝えした日々の生活での少しの工夫がかなり重要になってきます。というのも、まだお薬や治療法が確立されていないので、現段階ではその方に合った環境調整でのアプローチがメインとなります。