
こちらの記事の監修医師
東京医科歯科大学
皮膚科教授 横関 博雄 先生
たかんしょう 多汗症
最終更新日:2022/01/04
概要
過剰に汗をかく病気を「多汗症」と言います。多汗症は、全身の汗が増加する全身性多汗症と、手のひら、足の裏、脇、顏など、体の一部に汗が増える局所性多汗症があります。また、多汗症は他の病気が原因で過剰に汗が出る場合と、そうした基礎疾患がないのに過剰に発汗する原発性多汗症に分けられます。厚生労働省の研究班の2011年度調査によると、手のひらや足の裏に過剰な汗をかく原発性掌蹠多汗症の有病率は人口の5.3%、脇に過剰な汗をかく原発性腋窩多汗症は5.7%と非常に多いことがわかっています。しかし、これらの患者中で、医療機関での治療を行っているのは1割程度と推定されます。
原因
他の病気を原因とした多汗症(二次性多汗症)は、感染症、内分泌代謝異常、神経疾患などの全身性の病気、外傷や腫瘍などによる局所的な神経障害などの1症状として出現します。原発性多汗症の原因ははっきりと解明されたわけではありませんが、脳内の何らかの異常により、発汗を促す交感神経が人よりも興奮しやすくなっているのではないかと考えられています。これまでの海外および日本の研究報告では、同じ家族内に同じような症状の人がいるケース(家族内発症)が多数報告されているため、遺伝性疾患である可能性が指摘され、原因遺伝子を探る研究が行われているところです。しかし、家族内発症の確率も調査によって異なり、遺伝がどの程度影響するのかといった詳しいことはわかっていません。脇の臭い(わきが)は、汗腺の1つであるアポクリン腺から出た汗の脂肪酸が細菌によって分解されて発生しますが、臭いの強い人はアポクリン腺が大きく、分泌量が多い傾向があります。
症状
症状は、日常生活に支障を来すほどの過剰な発汗です。症状の重い例では、したたり落ちるほどの発汗が見られます。足や脇の不快な臭い、汗による指先の冷え、手足に水疱(水ぶくれ)ができる、表皮がめくれるなどの皮膚症状を引き起こすこともあります。また、多汗の症状により、患者はさまざまな精神的苦痛を受けます。仕事や勉強への悪影響、対人関係への支障などを来し、QOLが著しく悪化します。精神的な苦痛が大きい場合は、うつ病などの精神疾患を合併することもあります。多汗の症状は、幼児期から思春期にかけて発症し、10~30歳代に多く見られる病気です。
検査・診断
主に問診で自覚症状を判定し、発汗の程度や汗の量を測定し、他の基礎疾患の合併がなければ原発性多汗症と診断されます。自覚症状は、①まったく気づかない、邪魔にならない、②我慢できる、たまに邪魔になる、③どうにか耐えられる、しばしば邪魔になる、④耐えがたい、いつも邪魔になる、の4段階に分類し、③と④に該当すると多汗症と判定されます。発汗測定は、汗の成分に反応するヨードとでんぷんを発汗部位に塗って変化を見るヨード・でんぷん法、手のひらに置いたカプセルに空気を送って湿度変化で発汗量を測る換気カプセル型発汗計などの方法があります。これらで重症度を判定し、それに応じた治療を行います。
治療
何らかの基礎疾患が原因で多汗症状が出ている場合は、基礎疾患の治療が優先されます。原発性多汗症に対しては治療ガイドラインが定められ、手のひら、足の裏の原発性多汗症には、まず、塩化アルミニウムという外用薬の塗布か、水道水の入った容器に手足をつけ、微弱な電流を流すイオントフォレーシスという治療のどちらかを行います。それで効果が見られない場合は、ボツリヌス毒素局所注射療法があり、重症の手のひらの多汗症で患者から強い希望がある場合に限り、内視鏡で胸部の交感神経を遮断する手術療法を選択することもあります。脇の原発性多汗症に対しては、まず、塩化アルミニウム外用薬による治療を行い、効果が見られない重症例に対してはボツリヌス毒素注射療法が選択されます。この場合のボツリヌス毒素注射療法は2012年に保険適応が認められました。この他に多汗症全般に対し、皮膚に炎症を伴う場合は抗炎症薬を、精神症状を伴う場合は抗精神薬を用い、併用療法として神経ブロック、内服薬などを用いる場合もあります。
予防/治療後の注意
発汗を減らすため、できるだけ強いストレスを避けるような生活を送ることが望まれます。体温調整しやすい服装にも気を配りましょう。また、あせもや湿疹などの皮膚症状、脇や股、足の裏などの臭いを減らすため、汗をかきやすい部位の皮膚をできるだけ清潔に保つように心がけてください。多汗症は医療機関で治療していない潜在的な患者数の多い病気です。汗に悩んでいる方は、恥ずかしがらずに一度、医療機関に相談してみましょう。

こちらの記事の監修医師
東京医科歯科大学
皮膚科教授 横関 博雄 先生
1980年徳島大学医学部卒業後、大阪大学医学部附属病院皮膚科へ入局。2005年より東京医科歯科大学にて皮膚科教授を務める。専門は皮膚アレルギー疾患、発汗異常症、免疫学。日本皮膚科学会皮膚科専門医。
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