こちらの記事の監修医師
日本医科大学付属病院
口腔科(周術期)部長 久野 彰子 先生
こうくうかんそうしょう(どらいまうす)口腔乾燥症(ドライマウス)
最終更新日:2022/04/25
概要
唾液の分泌が減少、または分泌されなくなることで口の中が乾燥した状態のことをいう。唾液腺から分泌される平均的な唾液の量は1日あたり約1~1.5リットルであるが、さまざまな原因によって唾液の分泌が減ると、口の中の湿潤度が減少し、乾燥するようになる。唾液が不足することにより、唾液の抗菌作用や自浄作用が低下し、むし歯や歯周病になりやすくなるほか、口臭や粘膜の感染症、味覚障害、嚥下障害などを起こすこともある。薬の副作用やストレス、噛む力の低下などによって起こる症状で、患者数は増加傾向にある。
原因
口腔乾燥症の原因は様々であり、疾患によるもの、薬の副作用によるもの、脱水、口呼吸、ストレスによるものなどがあり、それらが複合的に関与している場合もある。原因となる疾患では、糖尿病や甲状腺機能障害、尿崩症、シェーグレン症候群などが挙げられる。薬の副作用に口腔乾燥があるものも多く、抗うつ剤や抗不安薬、降圧剤、鎮痛剤などが挙げられる。水分摂取が少なかったり、下痢や嘔吐などで脱水や電解質異常を生じた場合や、日常的にストレスがあって自律神経が乱れることも口腔乾燥の原因となる。がん治療で唾液腺に放射線が当たるような場合には、唾液腺組織が障害を受けることにより唾液が出にくくなり、口腔乾燥症を生じやすくなる。加齢自体は必ずしも口腔乾燥の原因とはならず、加齢に伴う全身疾患や服用薬剤が唾液分泌に影響すると考えられている。
症状
乾燥によって口の中がねばついたり、ヒリヒリとした痛みを感じたりするほか、歯垢がたまりやすくなり口臭も強くなる。水分の少ない食べ物を飲み込みにくくなる、声を出しにくくなる、味を感じにくくなる、舌がひび割れてくるなど日常生活に支障を来す症状も表れてくる。また、口の中の自浄作用や抗菌作用が弱まるため、むし歯や歯周病にかかりやすくなるほか、感染症を起こしやすくなる。特にカビの一種であるカンジダ菌が増殖すると、口の中に白斑が出現する。
検査・診断
口の渇きの程度や症状、治療中の病気、服用している薬などの問診と、口腔内の乾燥状態や炎症の有無などを診る。その後、決められた時間でどのくらい唾液が出るかを測定する検査を行う。唾液量の検査には、ガムを噛みながら出た唾液量を測るガムテストや、ガーゼを噛んで吸収された唾液量を測るサクソンテストなどがある。ワッテを舌の下に置いて、吸収された唾液量を測る方法もある。口腔粘膜の湿潤度は水分計を用いて測定する。シェーグレン症候群が疑われる場合は、血液検査や唾液腺の画像検査、唾液を分泌する組織の検査や眼科での検査を行う。
治療
口呼吸をやめる、脱水を防ぐ、ストレスを軽減し、よく咀嚼するようにするなど、生活習慣を改善することで口腔乾燥の症状が軽くなる場合もある。疾患が原因である場合は、疾患自体の治療を進めることが大切である。薬の副作用が原因である場合、可能であれば薬の変更を行うが、できない場合も多いため、対症療法が中心となる。対症療法としては、保湿成分の含まれたスプレーを口腔内に噴霧したり、保湿ジェルを塗布したりする方法がある。また、粘膜に炎症が起きている場合には、消炎や殺菌作用のある含嗽剤が処方されることもある。シェーグレン症候群と放射線による口腔乾燥症の場合に限り、人工唾液や唾液分泌を促進する薬剤が保険適応となっている。その他、継続的に漢方薬を服用する方法がある。口腔乾燥症に対する治療と共に、それに伴うう蝕治療や、カンジダ症(かびの一種が増えた状態)の治療が必要な場合もある。
予防/治療後の注意
唾液が出やすくなる習慣作りと乾燥対策を心がける。食事を規則正しく摂り、しっかりと噛むことで唾液の分泌が促される。ガムなどを食べて唾液分泌を促すこともを一つの方法ではあるが、糖分の摂取には注意が必要である。室内が乾燥していると口腔乾燥の原因にもなるので、加湿器を使って部屋の乾燥を防ぐことも大切だ。口呼吸が癖になっていて口を閉じられない人は唾液の蒸発を防ぐマスクや、保湿剤配合のスプレーなどを利用して口の中を乾燥させないようにする。また、耳の前方にある「耳下腺」や顎、舌の下にある「顎下腺」「舌下腺」といった唾液線を軽くマッサージすると唾液分泌が促される場合がある。
こちらの記事の監修医師
口腔科(周術期)部長 久野 彰子 先生
1993年日本歯科大学歯学部卒業。同大学総合診療科講師などを経て、2015年日本医科大学付属病院口腔科(周術期)の部長に就任。悪性腫瘍や心疾患などの治療中や術後の回復に悪影響を与える口腔トラブルを専門に診療している。
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