こちらの記事の監修医師
日本医科大学付属病院
副院長/消化器外科部長 吉田 寛先生
きゅうせいすいえん急性膵炎
最終更新日:2023/11/17
概要
本来は食物の消化を助けるためにつくられる酵素が、過剰に分泌されたり、膵管をスムーズに通れなかったりして膵臓内に滞り、異常に活性化して膵臓そのものを消化(自己消化)、炎症を起こしてしまう病気。みぞおちの強い痛みや背部痛が最も多い症状。自己消化が急速に進むと、炎症が膵臓だけでなく心臓、肺、肝臓、腎臓などの重要臓器にまで及び、多臓器不全を起こしたり、壊死した部位が細菌感染を起こして重篤な感染症を合併したりするため、死亡例も少なくない。軽症の場合は、適切な入院治療を受ければ膵臓の機能を損なわずに済む。発生頻度は男性が女性の2倍と多く、男性は40~50代、女性は60~70代に多い傾向がある。
原因
最も多いのはアルコールの大量摂取。次いで、胆石。原因不明も2割を占める。その他、脂質異常症(高脂血症)、薬剤の摂取、事故による膵臓の損傷なども、原因として挙げられる。男性ではアルコール性、女性は胆石性の急性膵炎が多く、高齢者は男女ともに胆石性の割合が増す。アルコール性急性膵炎では、アルコールによる膵臓への直接的な刺激のほか、膵液の分泌過剰や膵管の狭窄(狭くなること)など、さまざまな要素が考えられる。では、なぜ胆のうでつくられる胆石が膵臓の病気に関係するのか。それは胆管と膵管が、それぞれ十二指腸へとつながる出口部分で合流しているためである。胆のうから総胆管を通って落ちてきた胆石がその出口に詰まることで、膵液の流れが悪化し急性膵炎を引き起こす。
症状
代表的な症状は、みぞおちから左脇腹の痛み。膵臓は胃の裏側にあるため、背中に痛みが生じることもある。痛みの程度や現れ方はさまざまで、軽い鈍痛が数日かけて徐々に現れたり、不快感程度で済んだりすることもあるが、多くの場合、強い痛みが突然現れる。「のたうち回るほどの痛み」と表現されることも。その他、嘔吐、発熱、悪寒、食欲不振、腹部膨満感などが起こりえる。激しく吐いても腹痛が治まることはないのが特徴。また、膵臓の消化が進んで細胞が壊死したり、周囲の臓器まで消化したり全身にまで炎症が及ぶと、ショック状態、意識低下、死に至ることも珍しくない。なお、大量の酒や脂肪分の多い食事を摂取した数時間後に症状が出ることが多い。
検査・診断
他の疾患の可能性が低く、以下3つの項目のうち2つ以上にあてはまる場合は急性膵炎と診断される。
1.みぞおちから左脇腹にかけて急な痛みがある、あるいは押すと痛い。
2.血液検査、尿検査の結果、膵臓の消化酵素であるアミラーゼ、リパーゼの値が高い。
3.超音波、CT、MRIなどの画像検査で膵臓に炎症が見られる。
炎症が起きた結果、膵臓が腫れたり、周囲に液体がたまったりも。重症例では、膵臓の壊死や細菌感染が見られることもある。膵臓の状態を把握するために画像診断も行い、造影剤に対するアレルギーがなければより詳細に患部を捉えられる造影CT検査を実施。胆石など炎症の原因特定に役立てることもできる。
治療
直ちに入院の上、重症度を診断、ステージに合った治療を行う。基本的治療は、絶飲食と十分量の輸液投与(点滴)。痛みに対しては鎮痛薬を投与する。重症度別に見ると、膵臓にむくみが見られる程度の軽症・中等症であれば、基本的治療によって数日~2週間で退院できる。ただし、発症後3日までは重症に移行する可能性があるため、全身状態が悪化しないか注意深く観察する。一方、重症例は全身の炎症反応によって血管内の脱水が著しく、循環障害を来しているため、軽症例以上に輸液が重要。大量の輸液を経ても十分に尿が出ない場合は、血液浄化療法によって循環障害を改善する。同時に、膵炎を引き起こしている酵素の活性化を抑制する目的で、タンパク質分解酵素阻害薬を点滴投与。また、急性膵炎の最大の死因とされる敗血症などの感染合併症を防ぐため、膵臓や周辺器官に壊死が見られる場合は、抗菌薬を投与するほか、壊死した部位を取り除くための外科手術を行う。なお、胆石性の場合は、内視鏡で胆石を除去することもある。
予防/治療後の注意
脂肪分の多い食べ物や大量のアルコールは、消化酵素の過剰な分泌を招き、膵管内の圧力を上昇させ、急性膵炎を引き起こすことがある。中性脂肪の値が高い人は、急性膵炎のリスクが高くなることもわかっている。よって暴飲暴食はせず、脂っこい食べ物は控え、バランスの良い食事を心がけること。日常的に飲酒量が多い人は、摂取を控えることが予防につながる。また、普段はあまり酒を飲まなくても、急に大量の酒を飲むと発症することがあるので注意が必要。治療後は流動食から始め、少しずつ脂質を除いた普通の食事へと移行していく。アルコールは厳禁で、炭酸飲料、カフェイン、香辛料など刺激の強い食品も控える。退院後も食習慣、アルコールとの向き合い方を見直すことで、再発を防ぐ。いずれの場合も、自分の身体の状態を知るため、そして病気の早期発見のため、定期的に健康診断を受けることが推奨される。
こちらの記事の監修医師
副院長/消化器外科部長 吉田 寛先生
1986年日本医科大学卒業。1992年同大学大学院修了。同大学多摩永山病院外科部長、病院長を経て、2018年に同大学消化器外科主任教授、同大学付属病院副院長に就任。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本肝臓学会肝臓専門医。
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