
こちらの記事の監修医師
荻窪病院
内科部長 中村 雄二 先生
あるこーるせいかんしょうがいアルコール性肝障害
最終更新日:2022/05/06
概要
長期にわたり(通常は5年以上)過剰な飲酒を常習的に続けることによって起こる、さまざまな肝障害の総称。大量の中性脂肪やコレステロールを肝臓に蓄積した「アルコール性脂肪肝」、炎症を起こしている状態の「アルコール性肝炎」、脂肪肝や肝炎が進行して肝臓内に繊維が蓄積される「アルコール性肝線維症」などがある。さらに重症化すると、肝臓がぼこぼこと固くなった状態になる「アルコール性肝硬変」や肝臓の細胞ががん化する「アルコール性肝がん」など、命に関わる疾患につながることも。日頃から飲酒量が多いと、一見健康そうに見えてもアルコール性肝臓疾患を発症していることがあるので注意が必要。
原因
アルコール性肝障害の主な原因は大量なアルコール摂取を長年続けること、栄養バランスの偏りや腸管から細菌成分を含めた炎症物質が吸収され肝臓に入ることが上げられる。体内でアルコールを分解するとき、有毒物質である「アセトアルデヒド」も発生する。肝臓はこのアセトアルデヒドを無害な水や二酸化炭素に分解する役割を担う。ところが、大量の飲酒を続けていると、肝臓がアセトアルデヒドを分解しきれなくなることに。アセトアルデヒドに攻撃された肝臓の細胞は変性や壊死を引き起こし、次第に肝臓の機能は低下していく。ただし、アルコールを分解する能力は、遺伝的な要素にも左右される。そのため、たとえ飲酒量が少なく、期間が短くてもアルコール性肝障害になることも。また、女性も男性に比べて、短期間の飲酒でアルコール性肝障害が発症・悪化することが多い。女性は男性に比べ、アルコールの代謝速度が遅く、エストロゲンなどのホルモンの影響を受けやすいからだと考えられている。
症状
アルコール性肝障害の中でも軽症なアルコール性脂肪肝は目立った症状が出ないことが多い。また、お腹が張る、疲れやすい、食欲がないなどの自覚症状があったとしても見過ごされることも。そのため、健康診断や人間ドックの検査結果で初めて発覚することも少なくない。脂肪肝が進行しアルコール性肝炎になると、食欲不振、倦怠感、発熱、右上腹部の鈍痛、黄だんなどが現れるようになる。重症アルコール性肝炎では、禁酒した後も肝臓の腫れが続き、腎不全、消化管出血、肝性脳症といった重い合併症を併発することが。さらに肝機能が低下しアルコール性肝硬変へと進行すると、腹水や黄だん、吐血、腹水、むくみ、昏睡状態などの症状が現れる。
検査・診断
まずは患者本人に飲酒歴について尋ねる。ただし、患者は過少申告しがちなので、家族や友人、同僚など周囲の人に聞き取りすることも必要。アルコール性肝障害に特異的な自覚症状や身体所見はほとんどないので、血液検査で肝機能や肝炎ウイルス感染の有無などを調べ、アルコール以外の原因がないかも検討する。アルコール性肝炎の場合、血液検査ではAST・ALT、γ−GTP上昇、高脂血症の有無などを確認。さらに超音波(エコー)検査や腹部CT検査、MRI検査で肝臓の大きさや表面の状態などを調べ、アルコール性脂肪肝や肝硬変に見られる肝臓の変化を診るほか、腫瘍の有無もチェックする。最近は肝硬度測定という簡便な検査で肝硬変の程度が調べられるようになった。そのほか、肝臓の一部を採取して顕微鏡で観察する肝生検を行うことも。また、精神科医師と連携してアルコール依存症の診断も合わせて行う。
治療
最も基本的な治療法は禁酒と食事療法。アルコールの摂取量を抑えて肝臓を休めるとともに、食事の内容を脂肪分の少ないバランスの取れたものにする。そのほか状態に応じて薬物療法などを行う。また、アルコール依存症などの精神的な疾患が過剰な飲酒の背景にあるケースでは、精神科の医師による治療も必要。断酒を促すためにカウンセリングするほか、薬物療法として肝庇護剤や飲酒欲求を低下させる飲酒量低減薬、また飲酒後の不快反応を起こす嫌酒薬を使用することがある。アルコール性脂肪肝やアルコール性繊維症の場合、薬物治療なしでも禁酒と食事療法、運動療法などによって改善できるケースは多い。アルコール肝炎の治療では禁酒と食事療法が基本だが、重度の場合はステロイド剤を使うなど薬物療法や血漿交換療法などを行うことも。アルコール性肝硬変は治療による病状の改善が望めないので、悪化を食い止めるための治療をし、状況によっては肝移植を検討する。ただし、肝移植をする際には半年以上の禁酒を行っていることが条件となる。
予防/治療後の注意
習慣的に大量の酒を飲むことがアルコール性肝障害の主な原因となるため、治療後は禁酒することが望ましい。予防では1日の飲酒の適正量を守る、週に数日はアルコール摂取を控える休肝日を設けるといった日々の飲酒習慣を管理することが大切。また、規則正しい生活、栄養バランスの取れた食事、十分な運動・睡眠など生活習慣を整えるようにする。ストレスが原因でお酒を飲み過ぎるという人には、飲酒以外のストレス解消法を見つけることも予防には有効。

こちらの記事の監修医師
内科部長 中村 雄二 先生
1993年慶應義塾大学医学部医学科卒業。同大学消化器内科講師などを経て2013年より荻窪病院に勤務。2016年より現職。日本内科学会総合内科専門医、日本肝臓学会肝臓専門医。
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