こちらの記事の監修医師
日本医科大学付属病院
小川 令 先生
じょくそう(とこずれ)褥瘡(床ずれ)
最終更新日:2022/10/05
概要
褥瘡は床ずれともいわれ、ベッドに寝たきりの人や車いすを使用している人が長時間、同じ姿勢を取ることで、圧迫された皮膚やその下の脂肪組織、筋肉などが損傷を受け、壊死してしまった状態を指します。特に、骨が突き出した部位は強く圧迫されることが多く、褥瘡ができやすい場所です。具体的には、あおむけに寝ているときは、仙骨部やかかと、横向きに寝ているときは、腸骨(腰の横の出っ張り)や、くるぶしなどにできやすい傾向があります。病院や介護施設、在宅療養の現場では、できるだけ褥瘡を発生させないように予防し、早期に発見して治療することが重要な課題となっています。
原因
褥瘡は、長時間皮膚が圧迫されて血流が途絶えること、また、寝具による摩擦で皮膚にずれが生じることで、組織が損傷を受けることもあります。健康な人は、このような状態になる前に痛みやしびれを感じるため、眠っている間に無意識に寝返りを打ったり、座っている場合は座り直したりして、同じ部位に長時間、圧力がかからないようにしています。これを体位変換と呼びますが、筋力が著しく低下して自分で体位変換ができなくなると、誰かが介助して体位変換をしない限り褥瘡が発生してしまいます。褥瘡は、病気や体の障害で寝たきり、あるいは車いすで生活する人に生じる外傷ですが、糖尿病などの神経障害で痛みやしびれを感じない、血流が悪い、栄養状態が悪い、高齢で皮膚が弱いといった状態であれば、より生じやすく、重症化しやすくなります。
症状
褥瘡の初期症状は、褥瘡ができやすい部位の皮膚が赤くなる(発赤)ことから始まります。発赤が消えなくなり、むくみ(浮腫)、水膨れ(水疱)、表皮が剥がれる(びらん)といった症状に進行します。多くの場合、痛みやかゆみを伴いますが、神経障害があると感じないこともあります。重症度は、組織の損傷が皮膚の表面にとどまるのか、脂肪組織や筋肉組織まで及ぶ深いものなのかで違ってきますが、重症になると傷からしみ出る液体が多くなり、細菌感染によって化膿し、組織が壊死して、表面は黒色や黄色になります。細菌感染が起きると、発熱や膿が出るといった症状が出ることもあります。最も重症の場合は、筋肉組織や骨が露出するほど深く損傷することもあります。
検査・診断
褥瘡のできやすい箇所の皮膚が赤くなっている場合、それが一過性の発赤なのか、褥瘡になってしまっているのかを見分ける方法として、人差し指で赤くなっている部分を軽く3秒ほど圧迫し、白っぽく変化するかどうかを確認する方法があります。赤いままなら褥瘡になっている可能性が高いといえます。また、体位変換をして30分たっても発赤が消えていなければ褥瘡が発症したと考えられます。褥瘡の重症度判定の基準はいくつかありますが、深さ、滲出液、大きさ、炎症・感染、肉芽組織、壊死組織、穴が開いてできた皮膚ポケットなどの状態で判定することが多いです。
治療
褥瘡の治療の目的は大きく分けて2つ。皮膚の損傷部位に対する治療と、褥瘡を悪化させない、別の部位に発症させないための予防的治療です。皮膚の損傷部位に対する治療は、褥瘡の重症度などによって異なりますが、創傷の洗浄と壊死した組織を除去するデブリードマンという外科的な処置を行った後、何種類かの外用薬を使い分けて感染部位を殺菌し、肉芽形成と上皮化を促す治療が基本です。傷はドレッシング材でしっかり覆って細菌の侵入を阻止し、寝具との摩擦を軽減します。また、損傷が深刻な場合は、皮弁移植などの再建手術を行うこともあります。一方、褥瘡の悪化や他の部位での発症を防ぐために、体位変換の回数を増やし、寝る姿勢やマットレス、クッションの工夫を行います。併せて、栄養状態の改善、糖尿病など基礎疾患の治療、外用薬だけで不十分な場合の経口抗菌薬投与などの全身的な治療を実施することもあります。
予防/治療後の注意
基本的な褥瘡の予防法は、頻回の体位変換と体圧分散寝具を使うことです。寝たきり状態の人には2時間ごとの体位変換が推奨されています。しかし、在宅療養で2時間ごとに体位変換をするのは難しい場合は、体圧分散寝具をレンタルするなどの方法もあります。また、おむつ交換も頻回にするなど皮膚を清潔に保ち、栄養状態を良好に保つことも大切です。まずは、圧迫されやすい部位が赤くなっていないかをチェックし、褥瘡が疑われるときは、かかりつけの医師や皮膚科の医師などに相談してください。
こちらの記事の監修医師
小川 令 先生
1999年日本医科大学卒業後、同大学形成外科学教室に入局。米国ハーバード大学留学を経て、2015年から現職。日本医科大学形成外科学教室主任教授。専門は熱傷・瘢痕・創傷治療。
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