こちらの記事の監修医師
医療法人恵仁会 松島病院
宮島 伸宜 病院長
かびんせいちょうしょうこうぐん(あいびーえす)過敏性腸症候群(IBS)
最終更新日:2021/12/01
概要
過敏性腸症候群は大腸に腫瘍や炎症など症状の原因となるような病気がないにも関わらず、おなかの調子が悪く痛みが続いたり、便秘や下痢などの症状が数ヵ月以上にわたって続く消化管の機能障害の疾患。排便することで楽になる腹痛と、下痢や便秘などの便通異常が主な症状である。ストレスが症状を悪化させる要因の1つと考えられている。過敏性腸症候群は症状によって4つの型に分けられ、「便秘型」「下痢型」、下痢と便秘が同じような頻度で起きる「混合型」、「分類不能型」のタイプがある。症状が重症な場合、通勤電車に乗れないなど日常生活に支障を来す場合もある。
原因
明らかな原因はいまだ不明である。小腸や大腸からなる腸は食べ物を消化・吸収するだけではなく便として排出する機能も持っているが、この食べ物を排出する方向へ移動させるための腸の収縮運動はストレスなど不安な状態になると、運動が過剰になったりけいれん状態になったりして同時に痛みを感じやすい状態になる。過敏性腸症候群の患者は特に痛みを感じやすく、そのため腹痛になりやすいのが特徴だ。ストレスが原因で大腸の運動機能が障害される可能性や、刺激を腹痛として感じる脳の方が過敏になっている知覚過敏説などさまざまな原因が考えられているが、過敏性腸症候群になる原因はわかっていない。ただ、細菌やウイルスが原因となる腸炎にかかった場合、回復したあとに過敏性腸症候群になりやすいことがわかっている。
症状
主な症状は腹痛や腹部の不快感、便秘や下痢などの便通異常で、ストレスによって悪化する場合が多い。便秘が続いたり、逆に下痢になりやすいなど患者によって症状がさまざまで、排便の回数と便の形状から「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」に分けられる。型によって症状の出方も違い、例えば便秘型の患者の場合はストレスを感じると便秘が悪化するのに対して、下痢型の患者の場合は緊張してお腹を下す。対して混合型の患者は下痢や便秘を繰り返して、便の状態が変動する。過敏性腸症候群の患者は、そうでない人に比べて胃の痛みや胃もたれ、胸やけや胃食道逆流症を合併する人が多いと指摘されている。
検査・診断
診断には国際的な基準が用いられる。過去3ヵ月以内に、1ヵ月あたり3日以上の腹痛や、お腹の不快感が繰り返して起こっているか。さらにそれらの症状が排便によって和らぐ、もしくは症状によって排便の回数が増えたり減ったりし、便の形状が硬くなったり柔らかくなったりするなど変化するかが診断基準になる。過敏性腸症候群は大腸がんなどの悪性腫瘍や、炎症性の腸疾患などの異常が見つからないことが条件であるため、大腸内視鏡検査、大腸造影検査、血液検査や尿検査・便検査などを実施してまずこれらの疾患がないかを検査する。場合によって、腹部超音波検査や腹部CT検査なども実施して、甲状腺の機能異常や糖尿病による障害、寄生虫の有無も含めて検査を実施する。
治療
治療においては生活習慣の改善が重視される。暴飲暴食や深夜の食事、脂肪分の多い食事を避けて3食規則的な食事を心がける。また刺激物やアルコールも控え、できるだけストレスをためないようにしっかり睡眠を取って休養し、適度な運動や趣味などでリフレッシュすることも有効。必要に応じて、腸の運動を整える薬、ビフィズス菌や乳酸菌などの腸の運動を助ける薬や漢方などが処方される場合も。下痢型の患者には腸の運動を改善させる薬や下痢止めが、便秘型の場合には便を柔らかくする薬や補助的に下剤が用いられることもある。過敏性腸症候群の原因の1つとして食物アレルギーの可能性も挙げられており、抗アレルギー薬も選択肢の1つである。また心理的な不安が強い場合は抗うつ薬や抗不安薬が処方される場合もあり、患者に合わせて複数の薬を組み合わせた投薬治療が実施される。
予防/治療後の注意
過敏性腸症候群を予防できたという研究はないが、過敏性腸症候群になりやすい要因を避けるという対策は可能だ。要因の1つとして挙げられるストレスを減らす。また食事においても暴飲暴食は避けて、脂肪分や肉類が中心のメニューではなく野菜や乳酸菌を適度に摂取できるメニューを心がける。睡眠や休養をしっかり取るなど規則正しい生活習慣が予防につながる。またアルコールに頼らないリフレッシュ方法を見つけて実践するなど、日常的な取り組みが効果的だ。
こちらの記事の監修医師
宮島 伸宜 病院長
1982年慶應義塾大学卒業。同大学病院や都内の総合病院などへの勤務を経て、2007年聖マリアンナ医科大学東横病院消化器外科へ入職。同病院長などを経て、2021年6月より現職。専門は消化器外科、一般外科、大腸・肛門疾患、腹腔鏡下手術など。日本外科学会外科専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医、日本大腸肛門病学会大腸肛門病専門医。医学博士。
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