
こちらの記事の監修医師
順天堂大学医学部附属浦安病院
血液内科長 野口 雅章 先生
りんぱふしゅリンパ浮腫
最終更新日:2022/01/04
概要
体内には動脈と静脈に加えてリンパ管と呼ばれる管が存在し、このリンパ管の中にはリンパ液と呼ばれる液体が流れている。リンパ液は血液中の余分な水分やタンパク質を吸収する役目を持つため、リンパ液の流れが滞ることで、主に腕や足がむくんでしまう病気。乳がんや子宮がん、卵巣がんなどの婦人系疾患の手術後などに発症するケースが少なくない。また、がんの再発やリンパ節への転移により発症することもある。予後が悪く、いったん発症すると治療に難渋することも多い。軽い症状であれば、適切な自己管理をしながら普段通りの生活を送ることもできるが、重症化すると日常生活に支障が出る可能性があるので注意が必要だ。
原因
原因がわからないもの(原発性、もしくは一次性リンパ浮腫と呼ぶ)と発症要因が明らかなもの(続発性、または二次性リンパ浮腫と呼ぶ)があり、ほとんどは原因がはっきりしている続発性のもの。がんの放射線治療や手術において、リンパ節を取り除いたことによってリンパ液の流れが停滞し、リンパ浮腫が発生することもある。乳がんや子宮がん、卵巣がんなどの婦人系疾患の手術後などに発症するケースが少なくないため、女性に多く見られる。発症時期には個人差があるため、手術直後に発症するケースもあれば、数年後に発症することも。ただし、がん治療を受けると必ず発症するわけではない。
症状
初期の段階では目立った症状があまり見られないため、発症に気付かないことも少なくない。リンパ液がたまることで皮膚の厚みが増すと、静脈が通常よりも見えにくくなり、皮膚をつまんでもしわが寄りにくくなることがある。進行してくると腕や足のむくみがひどくなり、腕や足が重く感じられる、疲れやすくなるといった症状も現れるようになる。この段階では、むくんでいる場所を指で押すと跡が残る。さらに重症になると、皮膚の乾燥や硬化のほか、指や手首、肘、膝の関節が動かしづらくなり、動かしたときに違和感を感じるなどの変化も見られる。リンパ浮腫は痛みを伴わないケースが多いが、急に進行した場合は痛みを感じることも。
検査・診断
視診と触診により、腕や足の太さに左右差があるかどうか、皮膚の色や硬さに変化がないかといったことの確認で、多くの場合は診断が可能。リンパ液がたまって皮膚が厚くなると、皮膚を引き寄せたときにしわができにくくなったり、皮膚をつまみにくくなったりという変化もみられる。また腕時計のあとが残りやすくなったり、洋服の袖口や下着や靴下のゴムのあとが目立つようになったりすることも。自身で判断する方法として、両方の腕もしくは脚の太さを1ヵ月に1回程度、同じ時間帯に同じ姿勢で定期的に計測するという方法もある。
治療
リンパ浮腫は一度発症すると完治しにくいという特徴があるが、症状が軽ければ適切な自己管理のもとで普段通りの生活を送ることも可能だ。ただし重症化すると生活に影響する可能性があるため、早い時期から治療して進行を阻止することが重要となる。むくみのある部分を手でマッサージし、リンパ液の滞りを改善する用手的リンパドレナージや圧迫療法を行う。圧迫療法は弾性包帯・弾性スリーブ・弾性ストッキングなどさまざまな方法があり、むくみの程度に応じた方法が選ばれる。また、圧迫した状態で散歩や軽い運動を行い、筋肉の収縮と弛緩を利用してリンパの流れを改善する運動療法も並行して行っていく。近年は保存療法と手術用顕微鏡を駆使した低侵襲リンパ外科治療を融合させた、より高い効果が期待できる治療法も登場している。
予防/治療後の注意
肥満はリンパ液の流れを悪くする原因になるので、太り過ぎに注意する。また日頃からむくみに注意し、左右の腕や足を見比べてみて左右差がないかどうかをこまめにチェックする。そして気になる症状がある場合は早めに医療機関で受診することが大切。締め付けの強い衣類の着用や長時間同じ姿勢をとり続けることはむくみにつながるため、注意が必要。普段から激しい運動は避けて適度な運動を心がけ、長時間デスクワークをする人は同じ姿勢で作業を続けないよう、ときどき体を動かすなどの心がけも大切だ。

こちらの記事の監修医師
血液内科長 野口 雅章 先生
1983年順天堂大学医学部卒業。膠原病内科に所属し、免疫分野の診療経験を積んだ後、血液内科へ転向。亀田総合病院で移植医療を学び、順天堂大学医学部附属静岡病院を経て2000年から現職。2013年に教授就任。日本血液学会血液専門医、日本内科学会総合内科専門医。
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