こちらの記事の監修医師
順天堂大学医学部附属浦安病院
血液内科長 野口 雅章 先生
てつけつぼうせいひんけつ鉄欠乏性貧血
最終更新日:2022/01/06
概要
血液は、赤血球・白血球・血小板・血漿(けっしょう)で組織されているが、鉄欠乏性貧血とは、このうちの赤血球の成分であるヘモグロビンを作るために必要な鉄(鉄分)が不足することで起こる貧血。ヘモグロビンは血液の中の赤血球の中で、酸素を運ぶ役割を担っている。血液が酸素を運搬する能力は、血液中のヘモグロビン量と比例するため、鉄欠乏性貧血は、体の重要なサインといえる。過剰な出血や偏食による鉄の摂取量不足、薬の影響で鉄の吸収が阻害されること、体の成長や妊娠に伴う鉄の必要量の増加に摂取量が追い付いていないことなどが原因とされている。中年女性では子宮筋腫による病的貧血が原因として多いので、注意が必要である。
原因
鉄欠乏性貧血は、その名の通り、体の中で鉄が不足して起こる病気。体に貯蔵してあるはずの鉄が失われ、血液中の鉄が不足してしまう。体内で鉄が不足してしまう原因としては、第一に食事からの鉄の摂取量不足。第二に妊娠や出産、授乳期や成長が著しい思春期において、鉄分の必要量が増加していることなどが挙げられる。ほかにも、食事の栄養バランスの偏りも鉄欠乏性貧血の原因となることがある。血をつくるために必要な栄養素であるたんぱく質や鉄、ビタミンB6、ビタミンB12や、鉄の吸収を良くするビタミンCが不足していることが、鉄欠乏性貧血を引き起こしてしまうケースもよく見受けられる。胃潰瘍や十二指腸潰瘍、痔などによる出血、月経が異常に多いときなど、大出血や慢性的な出血過多が、鉄欠乏性貧血の原因となることもある。
症状
鉄欠乏性貧血といえば、めまいがしたり体がふらついたりしてしまう症状を思い浮かべる人が多いかもしれないが、これは、鉄欠乏性貧血の症状というよりは、低血圧が原因の症状であることが多い。実際の症状としては、体を動かしたときに息切れや動悸、頭痛、めまい、立ちくらみ、疲れやすくなるなどの症状が見られる。また鉄が不足することで、爪が割れやすくなる、唇の端や舌に炎症が起こる、氷などを無性に食べたくなる、髪が抜ける、肌が荒れるなどの症状が見られることもある。はっきりとした理由が見当たらないにもかかわらず、いらついたり倦怠感を感じるときは、鉄欠乏性貧血を疑うと良いかもしれない。
検査・診断
血液検査により、血液中の赤血球や鉄の量を調べることで診断を行う。血液検査では、血液中に貯蔵されている鉄の量を測る指標である血清フェリチンなど、血液中にある鉄に関するさまざまな数値を計測する。それぞれ項目の数値が基準値に足りているかどうかで、鉄欠乏性貧血を診断する。通常は、基準値よりヘモグロビン濃度が低下している状態であれば、鉄欠乏性貧血と診断される。ただし、男性や高齢の女性の場合は消化器ががんになっており、そこから出血している可能性も疑われるため、血液検査だけでなく、便潜血の検査や、内視鏡による検査を合わせて行い、診断するというケースも見られる。
治療
治療法としては原因疾患の治療と、薬を投与する治療が一般的である。基本的には、鉄剤を服用して体内の鉄を補う治療を行う。しかし経口用の鉄剤を用いると人によって吐き気などの副作用が現れることがあるため、内服を食後にしたり、量の調節、間を空けたりといった工夫が必要となる。内服での治療が難しい場合には注射で鉄剤を投与する。薬を服用し始めると、おおよそ2ヵ月ほどで血液検査の数値が基準値を超えるのが一般的。しかしながら、基準値を超えたからといって薬の服用をすぐにやめるのではなく、基準値に戻ってからも数ヵ月は服用し続ける方が良いとされている。それは、体の中に蓄えている鉄分を補給するためである。ほかにも、3食バランスの良い食事を食べる食事療法も治療法の一つとして挙げられる。食事抜きダイエットやインスタント加工食品の過剰摂取も原因のひとつであるため、毎食、主食・主菜・副菜を組み合わせたバランスの良い食事をとり続けてほしい。
予防/治療後の注意
鉄が不足する原因に、過度な偏食、食後のコーヒーの過剰摂取、食事のビタミンCが不足しているなど、極端な食生活がある。そのため、日頃から栄養バランスの整った食事を取ることが予防する上で重要となる。特に、レバーや赤身の肉類、魚、大豆製品、緑黄色野菜、海藻などには鉄が豊富に含まれているため、積極的に摂取すると良い。妊娠中や生理中は鉄分が非常に不足しやすいため、より意識してほしい。食事からの十分な摂取が難しい場合は、栄養補助食品(サプリメント)も取り入れても良いが、食事から摂取する方が望ましい。
こちらの記事の監修医師
血液内科長 野口 雅章 先生
1983年順天堂大学医学部卒業。膠原病内科に所属し、免疫分野の診療経験を積んだ後、血液内科へ転向。亀田総合病院で移植医療を学び、順天堂大学医学部附属静岡病院を経て2000年から現職。2013年に教授就任。日本血液学会血液専門医、日本内科学会総合内科専門医。
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