地域で連携して取り組む
訪問診療のこれから
田中医院
(練馬区/石神井公園駅)
最終更新日:2022/05/26
- 保険診療
足腰が弱くなって移動が不自由になったり、病気やケガから寝たきりの状態になってしまったりと、何らかの理由で通院が難しくなったときに頼りになるのが、訪問診療をしてくれる医師の存在。「田中医院」の田中康之院長は、高齢者が住み慣れた家や地域で安心して生活が送れるよう、地域の看護師やケアマネジャーらと連携を取りながら訪問診療を行っている。「通院が困難になった患者さんの支えになれるよう、『キュアからケアへ』という思いで取り組んでいます」と語る田中院長に、訪問診療の現状と課題、今後の展望について聞いた。
(取材日2021年5月18日)
目次
住み慣れた地域での生活を続けたい患者と家族を支えるため、訪問診療のネットワーク構築をめざす
- Q訪問診療の特徴やメリットを教えてください。
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A
訪問診療では、何らかの理由で通院が困難な方やご自宅での終末期医療を希望している方に対して、医師が事前に決められた日に定期的にご自宅を訪問し医療を提供します。一方、往診は急に病状が悪化した時などにご本人やご家族からの依頼を受け、その都度出向いて診療するものです。訪問診療のメリットは、通常の外来診療と異なり患者さんの普段の様子を見ることができるので、その方の生活状況に合った医療を提供できる点だと思います。また、ご家族にとっても通院に付き添う負担が少なくなりますし、病状が悪化した場合の対処方法や介護についての悩みを医師に直接相談することもでき、安心感につながるのではないでしょうか。
- Qこちらで行っている訪問診療の特徴を教えてください。
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A
私は内科全般を幅広く診療していますが、中でも循環器内科が専門で、心不全や心筋梗塞、狭心症、不整脈、弁膜症などの診断・治療を得意としています。携帯型の超音波診断装置や小型の24時間心電図を用意していますので、必要に応じてご自宅で検査しています。実は循環器の領域では近年、心不全の緩和ケアが注目されています。心不全は治療で症状の改善を図りますが、完全に治すことは難しく、重症化すると安静時でも息切れや動悸が起こって入院が必要になります。しかし、訪問診療で心不全の管理をきちんと行えば、住み慣れたご自宅での生活を続けることも可能です。今後は訪問診療の一環として心不全の緩和ケアにも取り組む予定です。
- Q訪問診療を受ける患者や家族には、どのような意識が必要ですか?
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A
訪問診療は医師が医療を提供すれば良いわけではなく、ご家族の介護力が必要です。ただ、ご家族が働いているなど事情があると思いますので、ご家庭の状況に合わせた医療やケアを心がけています。また、訪問時にはご本人だけでなくご家族からもじっくりお話をお聞きして、もしも介護の負担が重すぎるようなら地域の介護サービスにつなぎ、場合によっては介護施設への入所をお勧めすることもあります。「最期まで自宅で過ごしたい」というご本人の希望は大切ですが、ご家族の生活を守ることも大切です。一緒に頑張る、見守る仲間がいることを忘れず、困ったときは医師や看護師、ケアマネジャーなど周囲の人に相談していただきたいと思います。
- Q訪問診療の課題について、お考えをお聞かせください。
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A
日本は高度成長期以降、社会では効率化が優先され、家族の在り方もずいぶん変わりました。昭和40年代半ば頃まではご自宅での看取りも多かったですし、地域の見守る力も高かったように思います。しかし現在では、核家族化・個人主義が進み、ご家族もご自身の生活に手いっぱいで余裕がなく、「自宅で介護できないから施設に入所させるしかない」と考えて、自宅療養を諦めるケースが主流なのではないでしょうか。今後も高齢化が進み、介護を必要とする人が増えていくことが予想されていますが、これは一朝一夕に解決できる問題ではありません。医師や家族だけでなく、行政や国、みんなで考えていかなければならない課題だと思います。
- Q今後の展望をお聞かせください。
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A
私が当院の診療に携わるようになった2008年頃は、訪問診療を行う医療機関もまだ少なかったのですが、地域の高齢化の進展とともにニーズが高まり、訪問診療を実施する医院や病院が増えました。地域の皆さんが住み慣れたご自宅で、できるだけ長く元気に暮らしていくには、医療はもちろん介護や看取りまでを見据えてトータルにサポートできる体制づくりが必須です。今後は近隣の医療・介護従事者や行政との連携を強化して、「余計なおせっかい」と取られるくらいの地域ネットワークづくりをめざしていきたいですね。