岡本 芳久 院長の独自取材記事
溝の口おかもと糖尿病内科
(川崎市高津区/溝の口駅)
最終更新日:2024/08/01
東急田園都市線、東急大井町線溝の口駅やJR南武線武蔵溝ノ口駅からそれぞれ歩いて3~4分ほど、駅前のにぎわいを離れた静かな一角に「溝の口おかもと糖尿病内科」はある。ビル1階に位置し、自動ドアのエントランスは幅も広く、バリアフリーでアクセス良好。車いす利用者や足元に不安がある患者でも、通いやすい環境が整えられている。「長年研究に従事してきた糖尿病の専門的な診療を中心に提供しています。糖尿病を指摘されている方はもちろん、これまでの治療経過が良くない方などもぜひご相談ください」と、笑顔を見せるのは、岡本芳久(おかもと・よしひさ)院長。米国ハーバード大学の教育病院などで、広く糖尿病や動脈硬化性疾患の研究に携わってきたエキスパートだ。そんな岡本院長に、診療にかける思いなどを聞いた。
(取材日2024年4月24日)
糖尿病や動脈硬化の研究で磨いた視点を診療に応用
これまでのご経歴と開業までの経緯を教えてください。
私は和歌山県の田辺市出身なのですが、山形大学医学部を卒業後、大阪大学の医局に入り関連病院で臨床に携わった後、同大学院で糖尿病と脂質代謝異常、肥満症の研究に従事しました。その後、米国ハーバード大学の教育病院である「Brigham and Women’s Hospital」で博士研究員として5年ほど、主に動脈硬化などの血管病の研究をしてきました。帰国後はお声がけいただき日本医科大学武蔵小杉病院にて研究を継続、これが川崎とのご縁の始まりです。その後、横浜市立大学附属市民総合医療センターに移り、横浜保土ケ谷中央病院では副院長を務めました。2022年夏にこれまで蓄積してきたものを患者さんにより近いところで還元したいと考えて退職し、2023年3月に開業しました。
具体的にどのような研究をされていたのでしょうか?
大阪大学では脂質・肥満症研究室に所属し、内臓脂肪の蓄積が代謝異常を引き起こすという「メタボリックシンドローム」の概念の提唱者としても知られる松澤佑次先生のもとで、病気につながる肥満とつながらない肥満の違いは何なのかを研究しました。大阪にいる頃から始め、アメリカでもアディポネクチンという動脈硬化を予防する働きを持つ脂肪細胞が出すホルモンの研究をしました。東アジアに多い劇症1型糖尿病を発見された花房俊昭先生らの仕事も間近に見てきました。研究で大きな成果を挙げられる先生方に共通しているのは、とにかく患者さんをよく見ているという点。なぜ症状が起こったのか、なぜこの患者さんに起こったのかなど、「なぜ?」を突き詰めて掘り下げて考えるのです。パイオニア的存在の先生方のもとで、私自身もこうした研究者としての視点を身につけることができました。これは、臨床にも大いに役立つと感じています。
クリニックの特徴を教えてください。
院名のとおり糖尿病を中心に、脂質異常症や高血圧症などの生活習慣病の診療を行う内科クリニックです。生活習慣病以外にも内分泌疾患や老年医学、肥満などにも専門性を持つほか、総合内科診療にも対応しています。例えば、脂質異常症の中には、生まれつきコレステロール値が高い「家族性高コレステロール血症」という遺伝性の病気が潜んでいることがあります。一般的な脂質異常症よりも高コレステロールに暴露されている期間が長いので、積極的な治療を行う必要があるのですが、見逃されやすく、治療を受けていないケースが少なくありません。多くの内科クリニックでは、コレステロール値が高いというだけですぐに薬を出しますが、この病気は適切に治療しないと、若年齢で心筋梗塞を発症してしまう恐れもあるので注意が必要です。当院では診断の際、必ずこの病気が潜んでいないかを念頭に置いて診断するようにしています。
糖尿病への意識を変え、一人ひとりに合わせた治療を
糖尿病の診療について詳しく教えてください。
国内に1000万人の罹患者がいるといわれる糖尿病ですが、疑い例を含めると2000万人ともいわれています。糖尿病とまったく関わりのない人は少ないのではないかと思えるほど、もはや国民的な病気です。それにもかかわらず、糖尿病には「悪い生活習慣を続けたせいなのだから自己責任だ」といったスティグマ(差別・偏見)がつきまとい、これが受診の妨げにもなっています。糖尿病の中には生活習慣にかかわらず発症するものもあり、治療せず放置すると血管疾患のリスクが高まります。しかも、外傷や感染症のように、一定期間治療をすれば完治が見込める病気とは違い、一生涯付き合っていかないといけません。糖尿病を含めた生活習慣病は食事や運動と深く関わっているので、当院では必要に応じて管理栄養士さんに食事指導をお願いしています。
管理栄養士さんの食事指導はどのような方が対象ですか?
ケースバイケースです。病気の全体像を私のほうで診て、減量が必要な患者さんには、肥満を解消するためのカロリーや糖質制限の食事指導を、脂質異常症の患者さんには、コレステロールを多く含む食品を摂取し過ぎないようにする食事指導、高血圧症の患者さんには減塩に対する食事指導を行います。患者さんの生活習慣はそれぞれ違うので、一人ひとりに合わせて実行できるレベルとなるような指導を行っていきます。食事の管理を抜きにして病気を管理するのは現実的ではありません。ただ、糖尿病の方の中には、既に進行した状態の方もいるので、このような場合は、服薬と並行して食事指導を行います。また、食事にはご家族の協力が不可欠です。管理栄養士さんの指導を受けるときは、できる限り食事を作っているご家族の方にも同席してもらうようにしています。
診療の際に心がけていることはありますか?
とにかく患者さんのお話をよく聞き、検査と組み合わせて複合的に診ることを心がけています。特に、ご高齢の患者さんはいろいろな病気を併せ持っているので、同じ糖尿病でも一人ひとり異なる背景があり、受けるべき治療も変わってきます。家族の協力状況に合わせたインスリン注射の要不要や回数、ADL(日常生活動作)に合わせた血糖コントロールの目標変更など、患者さんごとに合わせた診断をするためには、しっかりと患者さんを診て話を聞くことが不可欠です。また、患者さんの中にも、しっかりと自分の生活習慣を振り返ってくれる方もいれば、曖昧にして話したがらない方もいるでしょう。私は受診時に必ず患者さんの体重を測定するようにしているので、どのような食生活をしているかはおおよそわかるのですが、患者さん自身に気づいてもらうことが大事なので、あえて「食生活に何か変化はありませんでしたか?」と聞くようにしています。
地域の糖尿病を一手に引き受ける覚悟。気軽に相談を
医師を志したきっかけを教えてください。
実家は100年続いた寝具販売店で医療とは関わりのない環境で育ったのですが、純粋に体の仕組みに興味がありました。また、人の命を救って感謝されるイメージの強い外科の医師に憧れたところもありました。医学部に入ってみると、自分は手先を器用に使いこなすことよりも、病気のメカニズムをひもとく診断学に面白さを感じるようになり、患者さんの訴えから症状の原因を探り、診断を下していくことにやりがいを感じるのだと気がつきました。
休日に楽しんでいることなどがあれば教えてください。
ジャズを聞いたり、野球観戦を楽しんだりしています。日本のプロ野球界にも応援しているチームがあるのですが、ボストンに長くいたのでMLBでも好きなチームがありますよ。トップ球団とライバル関係にあるという立場が好きなようです(笑)。現地では日本人大リーガー同士の対決や、好きなチームが優勝した試合も観戦することができました。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
健診で数値が高いと言われた方はもちろん、以前治療を受けていたが中止してしまった方、今の治療方法でいいのかと不安がある方など、とにかく一度ご相談いただければと思います。同じ病気でも治療は患者さんごとに異なるので、ネットの情報やうわさに惑わされず、まずは自分の状態を客観的な視点で確認することが大事です。糖尿病を含む生活習慣病は、初期は自覚症状がほとんどなく、すぐに命に関わる病気ではありません。しかし、全身の血管に悪影響を及ぼし、動脈硬化を促進させ、心筋梗塞や脳梗塞といった重い疾患を引き起こしかねません。放置せず、必ず受診することが必要です。その際、初診時にどのドクターにかかるかが非常に重要になると思います。ぜひ、しっかりと勉強しているドクターの元を受診するようにしてください。