
こちらの記事の監修医師
井上眼科成田クリニック
井上 順治 院長
とうにょうびょうもうまくしょう糖尿病網膜症
最終更新日:2024/02/26
概要
糖尿病が原因で眼球の奥にある網膜と呼ばれる組織の血管が傷つき、血管の変形・閉塞や出血などを引き起こす病気。単純糖尿病網膜症、前増殖糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症の3段階がある。単純糖尿病網膜症は、眼球内の小さな出血や一部の血管の閉塞が認められる。前増殖糖尿病網膜症は、多くの血管が閉塞して酸素不足に陥った状態で、網膜に白いしみのような斑点ができる。また、酸素供給のための新たな血管が作られ始める。そして増殖糖尿病網膜症は、新たな血管が硝子体などに伸びはじめる段階。この血管が破れて硝子体に出血すると、視界が見えにくくなったり、視力が低下したりする。糖尿病神経障害、糖尿病腎症と並び、糖尿病の3大合併症といわれる。
症状
進行の度合いにより大きく三段階に分類される。単純糖尿病網膜症の段階では、眼球内では小さな出血や毛細血管瘤が生じているが、自覚症状は見られない。前増殖糖尿病網膜症の段階では、血管の障害が進み、網膜に血液が行き渡らなくなり酸素不足になる部分が現れるようになる。自覚症状のない人もいるが、視界がかすむようになる場合も。増殖糖尿病網膜症の段階では、漏れ出た血液が硝子体に流れ込むことで視界が見えにくくなったり、視力が急激に低下したり、飛蚊症(視界に常に小さなゴミのようなものが飛んでいる病気)を伴ったりする。また、新たな血管が破れて漏れた血液が硝子体の表面に膜を作り、これが網膜をけん引すると網膜剥離(牽引性網膜剥離)が引き起こされる。若い人ほど進行が速いので注意が必要である。
検査・診断
眼底検査(眼底カメラなどを使い目の中の状態を調べる)で網膜の観察を行い、網膜症が疑われる場合には蛍光色素を持つ造影剤を静脈注射して撮影するフルオレセイン蛍光眼底造影検査が必要となる。この検査で網膜や脈絡膜の循環動態や、血管から造影剤が漏れ出ていないかを確認する。最近は、造影剤を使用せず、血流を見ることができるOCT-Aもある。硝子体出血が起きていると、眼底検査で眼底まで見られないため、超音波検査を行い、網膜剥離の有無の確認が必要となる。重症例では網膜の電位変化を記録し、その波形から網膜の動きを調べる「網膜電図」を行うこともある。これらの検査は瞳孔を広げた状態で行うため、散瞳薬(瞳孔を開く薬)を点眼して20~30分待ち、それから眼底検査に進むため、診察に30~60分かかることが多い。
治療
単純糖尿病網膜症の段階では、血糖値をコントロールすることで症状の進行を抑えられる。合わせて定期的に眼科へ通い、網膜の状態を確認する。検診の眼底検査では周辺部の変化はわからない。前増殖糖尿病網膜症の段階になると、網膜光凝固術によって、網膜の酸素欠乏を解消したり、新たな血管の増殖を防いだりする。この治療は網膜症の悪化を防ぐためのものであり、元の状態に戻すための治療でない。早期の治療はかなり有効であり、将来の失明予防につながる治療である。それでも血管の増殖が止まらず、増殖糖尿病網膜症の段階に達した場合、硝子体手術によって眼球内の出血を解消したり、不要な血管を取り除いたり、はく離した網膜を元に戻したりすることがある。
予防/治療後の注意
糖尿病を患って何年もたってから発症することもあるため、日ごろからバランスの取れた食事や適度な運動を心がけて、血糖値を適切に管理することが大切である。初期段階は自覚症状がほぼないため、糖尿病に罹患した後にあわせて検査をしておくことで網膜剥離や失明を予防できる。また、検査では瞳を大きく開くために散瞳薬(さんどうやく)を用いるが、その影響で数時間はピントが合わなくなるため、検査後に車などの運転はできないので注意すること。

こちらの記事の監修医師
井上眼科成田クリニック
井上 順治 院長
2001年順天堂大学医学部卒業後、同大学医学部附属順天堂医院眼科入局。2003年順天堂大学医学部附属浦安病院眼科勤務。同病院で約10年間、網膜硝子体を専門に手術を行う。2005年からは2年間ハーバード大学スケペンス眼研究所に留学。2012年から西葛西・井上眼科病院勤務。副院長を経て2016年院長に就任。
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