全国のドクター9,287人の想いを取材
クリニック・病院 158,646件の情報を掲載(2024年4月19日現在)

  1. TOP
  2. 症状から探す
  3. 血尿が出るの原因と考えられる病気一覧
  4. 多発性のう胞腎
  1. TOP
  2. 泌尿器の病気一覧
  3. 多発性のう胞腎
東京医科大学八王子医療センター 泌尿器科科長/講師 宍戸 俊英 先生

こちらの記事の監修医師
東京医科大学八王子医療センター
泌尿器科科長/講師 宍戸 俊英 先生

たはつせいのうほうじん多発性のう胞腎

概要

のう胞という体液のたまった袋が左右の腎臓にできる病気。のう胞そのものは悪性ではないが、年齢を重ねるにつれてだんだんと大きくなり、数も増えて腎臓の機能を低下させてしまう。成人になってから発症することが多く、70歳までに約半分の人が腎不全となり、人工透析が必要になるといわれている。また、腎臓だけではなく他の臓器にものう胞ができたり、さまざまな合併症を引き起こしたりする。なお、多発性のう胞腎は遺伝性の病気で、遺伝の仕方の特徴によって常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)と、常染色体劣性多発性のう胞腎(ARPKD)の2種類に分けられる。

原因

腎臓の中には尿細管と呼ばれる管がある。この管の太さを調節することで尿の吸収を行っており、調節機能はPKDという遺伝子が担っている。このPKD遺伝子がある限り、尿細管の調整が正常に行われてのう胞はできないが、何らかの原因で異常を来して突然変異を起こすことがあり、その結果、調整機能が働かなくなってのう胞ができる。常染色体優性多発性のう胞腎は、このメカニズムによって発症する。なおPKD遺伝子はさらにPKD1遺伝子とPKD2遺伝子に分かれ、PKD1遺伝子に異常を認めるタイプの方が多い。また、症状の出方も差があるといわれ、個人差はあるもののPKD1遺伝子よりもPKD2遺伝子が原因である場合のほうが症状は軽いといわれる。一方、常染色体劣性多発性のう胞腎の場合は、PKHD1という別の遺伝子の変異が原因となっており、特に新生児の段階で発症することが多い。

症状

初期のうちは特に症状が出ないことが多い。しかし、進行すると腎臓や肝臓が大きくなり、その影響で血尿、腹痛、腰や背中の痛みなどが現れる。血尿は激しいスポーツや外傷などで体に大きな衝撃が加わった後によく見られる。加えて、おなかの張り、食欲不振、倦怠感、頭痛、息切れ、のう胞に細菌が感染することによる発熱といった症状が出ることもある。さらに、尿路結石ができる人も多い。また、腎臓以外の臓器に合併症を起こすことがあり、肝臓にものう胞ができたり、血圧が高くなったり、脳動脈瘤(脳の血管にできるこぶ)ができたりする。中でも脳動脈は、破裂するとくも膜下出血を起こすので注意が必要。

検査・診断

まず問診で血尿や腹痛をはじめとする自覚症状の有無や、それまでの病歴、家族歴(家族の中に多発性のう胞腎の人がいるかどうか)を確認する。その後、血圧や腹囲、心音、体のむくみなどを調べ、腹部超音波(エコー)検査、腹部CT検査、腹部MRI検査などの画像検査でのう胞の存在を確かめる。画像検査は、腎臓以外の臓器に合併症を起こしているかどうかを調べる上でも役立ち、頭部のMRI検査で脳動脈瘤があるかどうかを確認するのも重要となる。そして、これらの検査結果をもとに診断を確定する。診断は、まず家族歴があるかどうかを基準に年齢、症状などを参考に、厚生労働省が定めたガイドラインに従って行う。

治療

今の段階では、多発性のう胞腎を根本的に治療する方法がない。そのため、腎臓の機能をできるだけ低下させないようにする治療を組み合わせて行う。薬物療法としては、トルバプタンという内服治療薬がある。これは抗利尿ホルモンの作用をブロックし、のう胞の発生や増大を助長する物質(環状アデノシン一リン酸;cAMP)の活性を減少させ、腎臓の機能を守る効果がある。他の薬物療法としては各種降圧薬を用いて血圧のコントロールをし、症状の進行を抑えていく。薬物療法のほかには水を積極的に飲む飲水という方法があり、1日に2.5~4リットルの水を飲むことが望ましいとされる。また血圧の管理については、まず医師の指示に従って生活習慣を改善し、それでも良くならない場合は降圧薬を使う。さらに食事管理も行い、塩分や脂肪分を取り過ぎないよう注意することで血圧をコントロールしていく。腎臓の腫大に伴い、腹部の圧迫症状が出現した場合、のう胞開窓術や腎動脈塞栓術、腎摘除術などを行う場合もある。進行して腎臓の機能が非常に悪くなり、尿がうまく出せなくなってしまった場合は、人工透析を行う。また腎臓移植が行われることもある。

予防/治療後の注意

多発性のう胞腎は遺伝性疾患で、予防することはできないが、塩分摂取を控え、血圧のコントロールを行いつつ、水分を多く摂取することで腎機能低下などある程度進行を抑えることができる。また、脳動脈瘤の有無を定期的に調べ、治療により脳出血を回避することも重要だ。

東京医科大学八王子医療センター 泌尿器科科長/講師 宍戸 俊英 先生

こちらの記事の監修医師

東京医科大学八王子医療センター

泌尿器科科長/講師 宍戸 俊英 先生

1994年東京医科大学医学部卒業。同大学病院、癌研究会附属病院(現・がん研究会有明病院)勤務、杏林大学医学部付属病院泌尿器科講師などを経て2014年より現職。日本泌尿器科学会泌尿器科専門医。