
こちらの記事の監修医師
公立学校共済組合 関東中央病院
外科医長 小林 敦夫 先生
そけいへるにあ鼠径ヘルニア
最終更新日:2021/12/27
概要
鼠径部と呼ばれる左右の脚のつけ根の部分から、腸や卵巣、内臓脂肪などがおなかの中から皮膚のすぐ裏側まで飛び出してしまう病気。一般的には「脱腸」と呼ばれている。鼠径ヘルニアには、外(がい)鼠径ヘルニア、内(ない)鼠径ヘルニア、大腿(だいたい)ヘルニアの3種類があり、それぞれ内臓や組織の飛び出し方に違いがある。外鼠径ヘルニアは、内鼠径輪と呼ばれる穴を通り鼠径管の中に腸などが入り込むことで起こり、もっとも多く見られる。乳幼児期の男児や壮年期以降の男性に多い。また内鼠径ヘルニアは、内鼠径輪よりも内側の鼠径管後壁が弱くなって内臓が飛び出ることによって起こる。中年以降の男性、特に肥満気味の人がなりやすいとされる。そして大腿ヘルニアは、内臓が大腿管という管を通って出てきてしまうもので、女性に多く見られる。
原因
先天的な原因と後天的な原因がある。前者は、胎児の時に自然に閉じるはずの腹膜の穴が開いたまま残っているもので、乳幼児や若年者の症例の原因となり、すべて外鼠径ヘルニアとなる。後者は、加齢によって腹部の筋肉が衰えて内臓を支えきれなくなること、立ち仕事、力仕事や運動によって鼠径部へ圧力がかかること、他にも喘息や便秘、排尿障害などが原因となることもある。内鼠径ヘルニアはこれらの加齢や生活習慣が原因で発症する。また女性の場合は、妊娠が大きな要因になると言われており、大腿ヘルニアはたくさん出産を経験している女性に多い。鼠径ヘルニアが起こる人の割合は子どもも大人も男性のほうが多く、加齢も原因となることを考えると中高年の男性がなりやすいといえる。
症状
鼠径部にしこりのようなやわらかい膨らみが現れ、日数が経つほどに徐々に大きくなってくる。基本的には立った状態でおなかに力を入れると膨らみが大きくなり、横になったり手で押し戻したりすると、膨らみが引っ込む。しかし腸が飛び出したまま押しても戻らなくなる嵌頓(かんとん)と呼ばれる状態になると、首を絞められたような状態となって飛び出した腸が腐ってしまう。嵌頓が起こると、戻らなくなった鼠径部の膨らみが痛くなり、また腸閉塞(腸が詰まってしまうこと)の状態となるため、便やおならが出なくなり、腹痛、嘔吐などの症状が起こる。こうした状況に陥ると命に関わることがあるため、できるだけ早く緊急手術を行う必要がある。
検査・診断
基本的には問診と、見た目の様子から判断する視診、そして患部に直接触れて状態を調べる触診によって診断する。立った状態でおなかに力を入れてもらい、腹圧が高くなった時に鼠径部が膨らんでくるかどうかを確認し、手で膨らみを触って状態を調べる。しかし、診察だけでは鼠径ヘルニアの種類を特定できないほか、陰のうに水がたまる陰のう水腫やリンパ節の炎症など他の病気が原因となって鼠径部に膨らみが生じているケースもある。そのため、超音波(エコー)検査やCT検査などの画像検査を行い、より詳細に状態を確認してから診断を確定することもある。
治療
成人の鼠径ヘルニアが自然に治ることはなく、治療は手術が唯一の方法である。飛び出した臓器を元に戻し、メッシュと呼ばれる人工の網を使って穴をふさぐ手術を行う。以前は、ヘルニアの穴の周囲の筋肉を縫い寄せて補強する手術が主流だったが、痛みが強いほか再発する可能性が低くなく、現在は成人の鼠径ヘルニアに対してはメッシュを使った方法で手術を行うことがほとんどである。しかし、子どもの場合は成人の鼠径ヘルニアとは原因が異なるため、鼠径管の補強が不要であり、メッシュを使わない方法で手術を行う。手術の方法としては、鼠径部を3~5センチほど切開して行う方法と、おなかに3ヵ所の小さな穴を開けて腹腔鏡で手術を行う方法などがあり、体の状態や患者の希望に合わせて適切な方法を選択する。治療後は内臓が飛び出すことはなくなり、嵌頓の危険性もなくなる。腹腔鏡による方法では傷口はより目立ちにくい。手術は入院で行うことが多いが、状態によっては日帰りで手術を行う施設もある。
予防/治療後の注意
メッシュを使う方法で手術をした場合には、手術後に再発する可能性は1%以下とかなり低いが、ゼロではない。また左右両側にできることがあり、片側の鼠径ヘルニアを手術した後に反対側で発症するケースもある。手術後は1週間ほどで普段どおりに仕事や家事、自動車の運転、散歩などができるようになる。ただ下腹部に力が加わるような動作は再発のリスクとなるため、最低でも2~3週間は力仕事や激しい運動は避けたほうが良い。また、水分を積極的に取って規則正しい食生活を心がけ、便秘にならないよう気を配ることも大切である。

こちらの記事の監修医師
外科医長 小林 敦夫 先生
2005年岐阜大学医学部卒業。国立病院機構 東京医療センターで初期研修医を経て、横浜市立大学消化器・腫瘍外科に入局。藤沢市民病院、国立病院機構横浜医療センター、横浜市立大学附属病院などでの勤務を経て、2015年より現職。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医。
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