脊椎圧迫骨折を招く骨粗しょう症
骨の形成を促す先進の注射薬とは
いのう整形外科
(名古屋市名東区/一社駅)
最終更新日:2023/07/11


- 保険診療
超高齢社会を迎え、骨粗しょう症による圧迫骨折が増えている。圧迫骨折を繰り返し、寝たきりになってしまうことも大きな社会問題だ。「股関節や脊椎の骨折が要因で要介護認定になる人が増加しています。一度、骨折した人は再び骨折するリスクが高いので、回復後も注意が必要です。」と話すのは、「いのう整形外科」院長の稲生秀文先生。名古屋大学医学部附属病院や地域の基幹病院で数多くの脊椎・脊髄疾患を診断、手術してきた経験豊富な医師だ。高齢になれば骨も弱くなり骨粗しょう症になる人も多いが、稲生院長によれば、「骨形成促進剤」という重度の骨粗しょう症の人でも圧迫骨折を防ぐのに有用な薬があるという明るい話題も。圧迫骨折と骨粗しょう症の関係性と、骨を形成するための薬による治療について話を聞いた。
(取材日2023年5月10日)
目次
圧迫骨折を繰り返す重度の骨粗しょう症。注射薬の投与で骨の形成を促し、骨折の連鎖を防ぐことをめざす
- Q脊椎の圧迫骨折について教えてください。
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A
▲資料を使い、わかりやすい説明を心がけている
背骨の椎体という部分が潰れるように骨折することを圧迫骨折といい、どんな年代にでもありますが、特に高齢者に多く見られます。若い年代の場合は何かきっかけがあっての骨折ですが、高齢者特有なのは、半数弱の人が「尻もちをついたり、転んで強く打ちつけたりした覚えがない」ということです。軽微な尻もちや買い物袋を持ち上げた時など、些細なことで骨折している場合があります。椎体がじわじわと潰れてきて、痛くなって初めて病院へ行くというケースもあります。背景には骨粗しょう症があり、骨粗しょう症によって背骨が骨折しやすくなっているのです。例外的にステロイド剤の長期服用に伴う骨折、悪性腫瘍の転移による骨折もあります。
- Q圧迫骨折になりやすい人の傾向はありますか?
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A
▲定期的に骨密度検査を行う
男女比で言えば女性、体型で言えば痩せ型の方が骨粗しょう症を生じやすいです。糖尿病の方、関節リウマチの方も骨密度が低い傾向があります。一方で、骨密度が高いのに何度も骨折する方もいます。骨の強度というのは、「骨密度」と「骨質」で決まります。「骨質」は現状計測できないのですが、「骨密度」が低いのに骨折しない人は骨質が良いのでは、と判断しています。また一度圧迫骨折をすると、新たな部位で骨折するリスクが高いと言われています。あと以前から骨粗しょう症の遺伝子レベルの研究もされており、少しずつ解明されつつあります。腰が痛いなと思ったら、レントゲン検査をして圧迫骨折になっていないかを調べることが大事ですね。
- Qこちらのクリニックでの検査と治療内容を教えてください。
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A
▲手術が必要なとき以外は、コルセットを装着して治療を行う
レントゲン検査で骨折が判明したら、圧迫骨折の重症度やいつ生じた骨折なのかを判別するためMRI検査をします。私は脊椎が専門なので、骨折の形態から手術が必要か保存治療で良いのかを判別します。加えて骨粗しょう症の重症度も確認します。圧迫骨折の治療は手足の骨折と同じで、骨折の程度によって手術が必要と判断した場合はしかるべき病院を紹介し、それ以外はコルセット装着による保存治療を行います。骨粗しょう症が認められれば、骨を壊れにくくするための薬やカルシウムを吸収しやすくするためのビタミンD製剤、女性ホルモンを補うための薬などを処方し、重度の方には骨を直接形成するための骨形成促進剤というお薬をお勧めします。
- Q骨形成促進剤というのはどのような薬なのですか?
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A
▲一般的な注射とは違い、針が小さく痛みが少ないのが特徴
骨を形成する細胞に直接作用して骨を作る効果が期待できる比較的新しい薬です。従来の骨粗しょう症の飲み薬は骨を壊れにくくしたり、カルシウムの吸収を助けるなど間接的な作用でした。投与の方法で一つ懸念される点は、現在一剤を除いて定期的に自分で注射をするということ。注射と聞くと、自分には難しいのではないか、痛いのではないかと不安を感じるかもしれませんが、一度試してみると「意外と大丈夫です」と続ける方が多いです。骨形成促進剤の注射針はワクチンの注射針と比べても細く、皮下脂肪のあるおなかや太ももに打つため、痛みもほとんどありません。不安な方は始めはクリニックで打つこともありますが、すぐに慣れていきますよ。
- Q圧迫骨折を予防するための薬について、注意点はありますか?
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A
▲骨粗しょう症の治療が大きく前進したと話す稲生院長
圧迫骨折そのものに対する薬はないですが、その原因となる骨粗しょう症には骨形成促進剤をはじめとした治療法があります。骨形成促進剤の欠点は、保険適用ではあるものの治療費が安くはないこと、一生の間で使えるのが1年から2年という制約があることです。多くの方が服用している従来の薬では、長期投与で逆に骨が折れやすくなったり、歯科治療によって顎の骨がもろくなる合併症の報告があり、歯科治療の前に休薬する場合があります。しかし、骨形成促進剤は歯科治療を行う際も休薬する必要がないのも特徴です。圧迫骨折に対する治療法は一人一人違う場合もあります。患者さんの状況に合わせて提案していますので、気軽に相談してください。