悩む家庭も多い子どもの夜尿症
焦らず・叱らず見守ることが大切
やまかわこどもクリニック
(名古屋市西区/上小田井駅)
最終更新日:2021/10/12
- 保険診療
幼少期には誰もが経験するであろう、いわゆる「おねしょ」。一般的には年齢が上がるにつれて自然に治まるものだが、小学校に入学以降も続き、悩み苦しむ親子も少なくない。また、デリケートな問題ゆえに周囲に相談できず不安が強くなったり、親が子どもを叱ってしまうことで症状や親子関係が悪化したりと、負のスパイラルに陥ってしまうケースも多いそうだ。今回話を聞かせてくれた「やまかわこどもクリニック」の山川聡院長は、小児腎臓科が専門で、子どもの夜尿症治療にも精通。「子どもの自尊心を守り、家族の関係を良好に保てるよう専門家の立場からサポートできれば」と話す山川院長に、具体的な治療方法や治療をスタートするタイミング、家族へのアドバイスなどを聞いてみた。
(取材日2018年4月10日)
目次
一人ひとりに合わせた治療の開始時期と方法を見極めることが、夜尿症克服への近道
- Qどういった基準で夜尿症と診断されるのでしょうか?
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A
夜尿症の診断基準は年齢です。小学校に上がる前の5~6歳になってもおねしょが続いている場合は、夜尿症であると診断されます。5歳児のうち、およそ15%が夜尿症であるといわれていますね。「夜尿症は病気ではない」という考え方が一般的で、実際、年齢が上がるにつれて自然に治っていくことがほとんどです。しかし、場合によっては放置することで本人やご家族が精神的なストレスを抱えてしまうこともありますから、気になる場合は早めに医療機関を受診すると良いと思います。
- Q何が原因になるのですか?
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A
通常、膀胱の収縮や尿道括約筋の緊張・弛緩を司る神経は成長に伴い発達し、5歳頃までには自分の意思で排尿をコントロールできるようになるとされています。しかし夜尿症のお子さんは、その神経の発達が不十分であることが多いです。ちなみに神経の発達スピードは体の成長具合と関係していて、発育がゆっくりな子は夜尿症になりやすい傾向があります。また、両親のどちらかが子どもの頃に夜尿症を経験しているとなりやすいといった、遺伝的な関連も指摘されています。そのほか、夜間に膀胱にためておける尿量が少ないこと、ひどい便秘であること、睡眠が深いために下着が濡れていても気づかないといったことも、夜尿症の原因となり得ます。
- Q治療方法を教えてください。
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A
まずは生活習慣の改善から始めます。具体的には、晩ご飯を食べて3時間以上たってから寝る、水分を取るのは布団に入る2~3時間前まで、寝る前に必ずトイレに行って膀胱を空にする、寝ている時に手足を冷やさないようにする、晩ご飯は味つけの濃い食事を控えるなど。ただ、生活改善だけで症状が良くなるケースは少なく、並行して薬物療法も行うことが多いです。その場合、就寝中につくられる尿の量を抑える薬や膀胱を広げる薬を使います。そのほかに、水分を感知すると不快な音がなるアラームをおむつや下着に装着し、就寝中に排尿したことを本人に意識させることで改善をめざす、アラームを使ったトレーニング法もあります。
- Q治療を始めるのに適したタイミングはありますか?
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A
当院に初診でいらっしゃる患者さんで多いのは、小学校の野外学習など宿泊での行事の前に治療したいというケースです。学年でいうと、4~5年生ですね。ただ夜尿症は、診断基準である5~6歳頃に治療介入するほうが、身体的・精神的な問題が出ることが少ないといわれています。そのため一つの目安として、小学校に上がる段階でおねしょが続いており、本人やご家族が悩んでいる場合は、一度クリニックを受診してみてください。ただし、もし本人がそれほど気にしていない場合は、必要以上に干渉するとかえって症状を悪化させてしまうことも。治療の成功には本人の協力が必要不可欠ですから、無理に治療を始める必要はありません。
- Q家族が心がけるべきことは何でしょうか?
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A
まずは焦らないことです。夜尿症は体の発育に関係する部分があり、その子の「特性」ともいえます。したがって治療のペースもそれぞれ違いますから、周囲と比べたりせずおおらかに見守ってあげましょう。次に、叱らないこと。叱責されたことがトラウマになると排尿時に緊張するようになり、無意識に尿道括約筋を締める癖がつきやすくなります。結果、膀胱の壁が硬くなり、残尿、尿路感染、腎臓の病気などにつながる可能性があるんです。叱らず、おねしょをしなかったときは褒めて、自信をつけさせてあげるようにしてください。あとはできるだけ夜中に起こさないこと。無理に起こしてトイレに行かせるのは、本人も親御さんもストレスですからね。