石川 くにみ 院長、浅井 光興 先生の独自取材記事
可世木婦人科ARTクリニック
(名古屋市中区/栄駅)
最終更新日:2024/05/23
中区役所東隣のオフィスビル7階にある「可世木(かせき)婦人科ARTクリニック」は、不妊治療の一つであるART(生殖補助医療)を得意とする婦人科クリニックだ。4人の医師が在籍し、不妊治療以外にも子宮や卵巣の病気、更年期障害の治療、子宮内膜ポリープなどの日帰り子宮鏡下手術も行っている。1946年に石川くにみ院長の祖父にあたる可世木辰夫初代院長が中村区に「可世木病院」を開業したのが始まり。当時では先駆けるような人工授精や腹腔鏡を使った手術を開始し、長く地域住民から頼りにされてきた。その後現理事長の可世木成明先生が後を継ぎ、規模を拡大。昨年リニューアルし院長に就任した石川先生と、同院の前院長で現在は診療部長を務める浅井光興先生に話を聞いた。
(取材日2019年2月16日/情報更新日2024年5月21日)
不妊治療を始めて70年以上の歴史を生かして
クリニックの歩みを教えてください。
【石川院長】1946年に私の祖父である可世木辰夫が中村区に産婦人科の「可世木病院」を開業しました。1955年には中区栄に移転し、一般診療や分娩以外にも不妊症の患者さんが増えたと聞いています。1986年には大学病院と並んで体外受精に取り組み始めました。この実績もあって、私の伯父にあたる可世木成明が後を継ぎ、不妊治療のできる病院として知られるようになりました。2008年には現在、診療部長を務める浅井光興先生が院長に就任。2018年に私が院長に就任して「可世木婦人科ARTクリニック」としてリニューアルしました。
【浅井診療部長】初代院長は新しい治療に意欲的で、開業の数年後には人工授精や腹腔鏡手術も始めています。これは、不妊治療がまだよく知られていないような時代でした。
石川先生が院長に就任されてどう変わりましたか?
【石川院長】可世木病院の時代は分娩もしていましたが、分娩が減っている昨今の現状を考え、外来を中心としたクリニックへと転換しました。建物の老朽化もあったので移転し、設備も先進の機器をそろえています。今後、不妊治療の柱となるであろう体外受精に注力していきたいという思いから、名称にARTを入れました。
【浅井診療部長】ベースには、腹腔鏡手術や体外受精を早期に取り入れてきた可世木病院の歴史があります。産科はなくなりましたが、70年以上の歴史の中で培った出産や不妊治療の経験は生かしていきたいですね。
こちらの生殖補助医療について教えてください。
【石川院長】生殖補助医療とは、専門的な生殖技術を用いて体外受精や顕微授精、凍結胚移植などの処置を行うことです。タイミング法や、人工授精などの一般不妊治療では妊娠しにくい場合、さらに進んだ医療としての生殖補助医療はもう一つの選択肢となります。体外受精や顕微授精、胚移植にはそれぞれ特色がありますので、患者さんに合った方法をじっくり相談しながら決めています。選択肢を1つでも多く提供できるのもメリットですね。
【浅井診療部長】体外受精は、簡単に言うとちょうどよく発育した卵を排卵直前の卵巣から採取して体外で精子を受精させ、受精した卵の状態で子宮に戻す方法です。状態の良い卵を培養し、受精させる一連の作業には、良好な環境や技術が必要不可欠。当院はそこに注力し、良い結果を上げるための努力をしています。不安もあると思いますが、第一段階として体外受精の勉強会がありますのでご安心ください。
患者の気持ちに寄り添い、元気づけたい
先生方のご経歴について教えてください。
【石川院長】大学病院にいた頃は、がんの研究をしていました。当院でがんの治療をすることはありませんが、外来診療で悪性の腫瘍があれば、早期に気づいてあげられると思います。子宮がん検診では、細胞診に加えて膣拡大鏡を用いたコルポスコープ診も可能です。開業医で扱っているところは少ないと思いますが、子宮頸部や膣壁を拡大して精密に観察することができるので、若い女性に多い子宮頸がんの早期発見のためにも必要との思いから導入しました。
【浅井診療部長】院長はコルポスコープを使った病理診断に習熟していますので、がんの見逃しも少ないと思います。私は15年間、愛知医科大学で助教授をしながら臨床にも携わっていました。日本生殖医学会の生殖医療専門医として専門性を高める傍ら、妊婦水泳の効果についての研究もしていました。
日頃の診療で気をつけていることはありますか?
【石川院長】不妊症に関して言えば、患者さんをできるだけ元気づけてあげたいと思っています。妊娠に成功したかどうか白黒はっきりする治療なので、良い結果が出なかった場合の患者さんの落ち込みはとてもよくわかります。患者さんは限られた時間の中通院し、日常生活でも努力されていますので、ストレスフルになりがちですよね。中には、効率良く妊娠したいと考えるあまり、いろいろ調べ過ぎて何が正しいかわからなくなる方もいらっしゃいます。視野が狭くなり過ぎないように気持ちを落ち着けて、正しい情報を伝えるのも私の役目だと思っています。
【浅井診療部長】私の気持ちとしては、できるだけ自然に妊娠していただきたいので、どこに問題があるのかを突き止めることに力を注いでいます。原因のわからない不妊というのは少なくないので、希望を持って受診していただきたいですね。
クリニックには4人の医師が在籍されていますね。
【石川院長】私たち以外に、清水麻記子先生がいます。清水先生はとても明るくすてきな先生です。各医師それぞれの個性や考え方を尊重しているので、患者さんには自分に合った医師を選んでいただければと思っています。不妊治療は期間が長くなることもありますが、患者さんの予定が優先ですので、特に担当制にはしていません。カルテの内容を共有し、連携を取りながら各医師の考えを話し合っていますのでご安心ください。あまり知られていませんが、不妊の中には男性不妊が原因のことも多いので、男性の患者さんにとって浅井診療部長の存在は頼りになっていると思います。また、金山にある「可世木クリニック」とも連携を取り、手術や検査、体外受精などが必要な場合は当院で敏速な対応ができますから、紹介し合える環境はメリットだと考えています。
できるだけ自然妊娠できるよう不妊の予防や検査に注力
内装もとてもきれいですね。どんな思いが込められていますか?
【石川院長】病院らしいというよりは、居心地の良いカフェのようなおしゃれな空間をめざしました。具体的には、患者さんが明るく前向きになれるよう、遊び心のある動物のレリーフや、初代院長の頃から飾っていたフランス印象派の絵画などを飾っています。芸術のアートと生殖補助医療のARTをかけていたりします(笑)。キッズスペースのある不妊治療のクリニックは少ないと思うのですが、可世木病院ではお産も扱っていた名残りもあって設けました。
スタッフ間の連携についても気になります。
【石川院長】当院には体外受精を熟知した看護師が在籍しており、患者さんの精神面のフォローもしつつ長期にわたる不妊治療を助けてくれています。まず、体外受精の治療を検討している患者さんには、セミナーを受けていただきますが、そこでは、ドクターをはじめ、培養士、不妊症治療を専門に学んできた看護師が、それぞれの立場から患者さんに説明をしています。治療計画や複雑なスケジュールを患者さんにわかりやすく伝えるのは、生殖医療の特徴を勉強した看護師が大きな役割を果たしています。医師には相談しにくいこともご相談しやすいのではないかと思いますね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
【浅井診療部長】以前は、日本産科婦人科学会での定義で、妊娠を望む健康な男女が2年間妊娠しない場合を不妊としていましたが、現在では1年間となっています。芸能人の高齢出産のニュースなどもあり、「まだ時間がある」と思いがちですが、卵巣は日々老化していますので、治療を検討するならできるだけ早めがいいと思います。
【石川院長】子宮内膜症という病気は、不妊の要因の一つです。そろそろ妊娠と考えた頃に内膜症が見つかって難治性の不妊になる30代前半の方も多々見受けられるので、早い段階で発見できるようぜひ20代のうちから検診を受けてほしいです。子宮内膜症は、手術以外にも薬物療法があります。子宮内膜症の改善が不妊の予防につながると考え、ご自分の身体をチェックする意味でも気楽に受診していただけるクリニックにしたいですね。