橋本 充弘 院長の独自取材記事
はしもとホームケアクリニック 小岩
(葛飾区/小岩駅)
最終更新日:2024/09/13
訪問診療に20年以上携わってきた橋本充弘院長を中心に、院内外での協力体制のもと地域医療に貢献する「はしもとホームケアクリニック小岩」。2024年8月に開業したばかりの同院では、高齢者や、脳血管疾患の後遺症、重度知的障害などで通院が困難な患者の訪問診療に対応。「一人ひとりの患者さんを大切に」をモットーに、十分な時間をかけて診療を行っている。人を大切にする医療を実現したいとの思いから、開業に踏み切ったという橋本院長。「人」とは患者であり、その家族であり、そしてスタッフたちや、院内外で関わるすべての人々なのだと話す。これまでの経験を生かし、医師として新たなステージに挑戦する橋本院長に、同院の体制や診療時の心がけについて聞いた。
(取材日2024年9月5日)
チームで力を合わせ、一人ひとりの患者を大切に
こちらは、2024年8月に開業されたばかりのクリニックだと伺いました。
はい。現在当院には私のほかに、2人の看護師、医療事務、相談員、そして事務長と、計6人が在籍。少人数ではありますが、ありがたいことに開業1ヵ月目にして多くの患者さんを診療させていただいています。当院は24時間体制で対応していますが、私の身は一つしかありません。そこで往診に対応する外部のプラットフォームと連携し、いつでも伺える体制を整えました。そちらの先生方もとても丁寧で私の求めるレベルの診療をしてくださり、信頼してお任せしています。
チーム全体で地域医療を支えているのですね。
そのとおりです。私一人で十分な医療を提供することは難しく、院内外で皆さんの力を借りてこそ成り立つのだと思います。例えば私が診療に出ている間、院内を取りまとめてくれるのは事務長です。また訪問診療では地域の医療や福祉との連携が不可欠なのですが、スムーズな協力体制を築けているのはスタッフの活躍があってこそ。当院のスタッフは皆、「一人ひとりの患者さんを大切に」という私の思いに賛同して集まってくれました。私が開業に踏み切ったのは、人を大切にする医療を実現したかったから。「人」とは患者さんであり、そのご家族であり、そしてスタッフたちや、院内外で関わるすべての方々です。現状が自分一人の力だと過信せず、周りへの感謝と誠意を持って進んでいきたいですね。
訪問診療を行う上でモットーとしていることはありますか?
2つあります。1つ目は「できるだけ自分の目で見る」ということ。電話で相談を受けた際にも、薬を飲む指示だけ出して終わりではなく、可能な限り往診に行くようにしています。行ってみると、イメージとは状況が異なるケースも多いですからね。連携先の先生が診てくださった際も、その後に必ず私が訪問しています。2つ目は「それぞれの方の生活に合わせた対応をする」ということ。2世帯で住んでいる場合と、ご年配のご夫婦だけの場合、さらにはお一人で寝たきりの場合まで、状況は個々で大きく異なります。薬一つとっても、3回飲むことがたやすい場合と、1日に1回飲むのがやっとの場合では、処方の仕方を変えなければなりません。それぞれの生活に合わせて、その方ができる範囲のことを考えていく必要があると思っています。
憧れの医師の姿を胸に、訪問診療に尽力
先生は、もともと血液内科を専門とされていたのだとか。
私は中学生の頃に、無医村で働く医師のドキュメンタリー番組を見て感銘を受け、日本医科大学を卒業して医師になりました。その後は広く経験を積みたいと考え、同大学付属病院の第3内科に入局したんです。そこは血液内科・消化器科・内分泌と幅広い範囲を診る診療科でしたが、あることがきっかけで血液内科に専念しました。それは1年目の冬に、白血病の患者さんを担当していた時のこと。非常に難しい病状の方で「どうにかして治せないものか」と英語の文献を寝る間を惜しんで読みあさり……。いろいろなことを検討しながら、結果的に骨髄移植を行いました。ちなみにこの方とは今も年賀状のやりとりを続けています。血液内科では医療の原則的なことをみっちりと学べました。先輩からは、絶対に手を抜かない、そして患者さんとご家族に誠実に対応する姿勢を学び、その教えは今の診療にも生かされています。
なぜ、訪問診療に携わることになったのですか?
大学病院での勤務医時代、アルバイトで訪問診療に携わったことがきっかけなんです。たまたま紹介してもらった仕事だったのですが、それまであまり知らなかった分野で、とても興味深く感じました。こちらから希望してアルバイトの日数を増やしたくらいです。訪問診療と、先ほど挙げた「無医村で働く医師」のイメージとがなんとなく重なったんですね。その後、大学病院が立ち上げた訪問診療のクリニックで院長を経験させてもらえることに。そちらで訪問診療について深く学んだ後に、2010年からは都内にある訪問診療のクリニックで院長として勤務してきました。
訪問診療でやりがいを感じるのはどのようなことですか?
患者さんとゆっくりお話をしながら取り組めること。また、最期までお付き合いさせていただけることにもやりがいを感じます。もちろん看取りをすることはつらさも伴います。患者さんがお若いケースなどには特に……。ご家族と一緒に泣くこともあります。でも、人間として生まれた以上、死は必ずやってきます。例えば、90歳まで生きられた方がいたとして、その方が苦しむこともなく、ご家族に見守られながらきれいなお顔で旅立つことができたなら、それは幸せなことだと思うんです。そのような看取りを行い「人生の仕上げ」のお手伝いをさせていただきたいと思っています。家での看取りはご家族にとっても大変なことですが、良い看取りができると、皆さんの心に穏やかな達成感が残るもの。患者さんとご家族、両方にとってお役に立てる医療を提供していきたいです。
1年後も数年後も、今と変わらぬ医療と対応を
患者さんとの接し方で心がけていることをお聞かせください。
患者さんの話をよく聞く、まずはこれが第一です。以前と同じ話をされたとしても、あらためて耳を傾けます。次に、丁寧に説明すること。こちらの説明を忘れてしまう患者さんもいらっしゃいますが、何回でも繰り返して丁寧にお話しするようにしています。さらには、ほとんどの方がご高齢で皆さん人生の大先輩ですから、礼儀も忘れてはなりません。礼儀と誠実さを持って接すれば、最初は緊張されている方も徐々に心を開いてくださいます。一人ひとりの患者さんに十分な時間を取って、心を込めて向き合いたいですね。そしてご家族とのコミュニケーション。訪問診療では患者さんだけでなく、ご家族の気持ちに寄り添うことも重要だと思っています。
患者さんのご家族に伝えたいことはありますか?
介護は長く続きます。訪問診療を必要とされる患者さんは、ご高齢だったり、脳梗塞の後遺症などでお体が不自由だったり、重度の知的障害がおありだったりします。その介護を抱え込んでしまうご家族もいらっしゃるのですが、ご家族にも仕事や生活がありますし、疲れ果ててしまってはどうにもなりません。「我慢せず、医療や福祉の力を借りてほしい」とお伝えしたいですね。もちろんご家庭での協力をお願いする部分もありますが、医療や福祉がお手伝いできることは多いんです。抱え込まずにご相談ください。一緒に患者さんの人生を支えていきましょう。
お忙しい日々の中、休日はどのようにお過ごしですか?
以前は妻や3人の子どもたちと家族で出かけることが多かったのですが、子どもたちもすっかり大きくなりました。今では妻と2人で出かけるのが休日の楽しみです。今回の開業にあたり、私には父親としてのほんの少しの迷いもありました。50歳半ばを迎えた私の、「今後の医師としての人生を、理想に向かって進んでいきたい」という思いを後押ししてくれたのは妻でした。妻が賛成してくれたからこそ、私はめざす医療の実現に一歩ずつ近づいています。妻には感謝の言葉しかありません。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
今はまだ開業したばかりで、すべての患者さんに十分な医療と対応を提供できています。これが1年後に患者さんが増えても、同じ水準を保っていられるか。当院の真価が問われるのはその時でしょう。「1年後も数年後も、今と変わらぬ医療と対応を」と前向きに頑張るスタッフたちと力を合わせ、努めてまいります。そして院長として、スタッフが生き生きと働ける職場環境づくりにも力を入れていきたいですね。