乳児の頭蓋に生じる「ゆがみ」
予防とヘルメットによる治療
平沼橋こどもみらいクリニック
(横浜市西区/平沼橋駅)
最終更新日:2023/01/30
- 保険診療
乳児の頭蓋骨はやわらかく隙間が空いており、1歳になるまで数ヵ月単位で成長を繰り返すという。その過程で頭蓋骨の癒合する速度に差が生じたり、向き癖で一点に力が加わったりすると「ゆがみ」が生じ、これを乳児の頭蓋変形症と呼ぶ。対処法は、体位変換や頭蓋形状矯正ヘルメットでの治療がある。金子裕貴院長は「治療ももちろん大切ですが、まずは頭蓋変形症のことを知った上で、日頃から赤ちゃんの寝かせ方などに注意を払っていただくことも大切です」と、予防の重要性についても言及する。院長は、東京女子医科大学と連携しながらこの治療に従事してきた。現在も大学病院と連携して同治療を行っている。同院では初期診断と定期検診に対応し、ヘルメットの作製は大学病院で行う。頭蓋変形症の予防法や矯正用ヘルメットを用いた治療について聞いた。
(取材日2022年12月14日)
目次
まずは日頃の心がけで予防・対策を。治療が必要な場合は、頭の形を矯正しやすい生後6ヵ月までに開始
- Q赤ちゃんの頭の変形はなぜ起こるのでしょう?
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A
赤ちゃんの頭蓋骨は大人と違って、やわらかくて隙間の空いた状態です。成長に伴って徐々にこの隙間は埋まっていきますが、骨の癒合のスピードが速くて一部が早くくっついてしまうと、他の部分に影響を及ぼしてゆがみが生じることがあります。多くのケースは病気ではなく、「向き癖」が原因です。向き癖で一点に重力がかかり、骨がやわらかいために変形してしまうのです。近年では乳児突然死症候群にならないよう、うつぶせ寝を避けてあおむけに寝かせるご家庭が多くなりました。これも、向き癖による頭蓋骨のゆがみが増えた要因と考えられます。ゆがみが進んでしまうと、向き癖を正すだけでは治療が難しくなるので注意が必要です。
- Q頭蓋変形症にならないためにはどうしたらいいのですか?
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A
向き癖をつけないようにするのは難しいと思いますので、なるべく寝かせるときに一点に圧がかからないよう、力を分散させることが大切です。やわらかいビーズクッションなどの上に寝かせれば、頭が包み込まれた状態になり、力が分散されるのでお勧めですよ。赤ちゃんが起きてる間は、可能な範囲で構いませんので、抱っこしてあげるのもいいと思います。あとは、赤ちゃんの頭がゆがむ可能性があること、そして気をつけていれば回避でき得ることを知っていただきたいですね。それを知った上で、たまに頭の状態をチェックしたり、ずっと同じ方向で寝ていないか気にしたりすることで、だいぶ違ってくると思います。
- Q具体的な治療方法を教えてください。
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A
一つは、さまざまな方向を向かせて一点への加重を避ける「体位変換」があります。ですが赤ちゃんは自然と寝返りを打ちますし、進んでしまったゆがみが治るかは疑問です。そこで新たな方法として、近年では矯正用ヘルメットを用いた治療が出てきました。治療に使うのは軽い材質でできたヘルメットで、中にウレタンが入っています。作製には3Dスキャナーを用い、ゆがみに合わせてオーダーメイドで作ります。装着することで、へこんでいる部分の成長を促し正しい形へもっていくのです。先天性の病気の方、向き癖からのゆがみ、頭部の手術を受けた方にも対応できます。
- Qどのタイミングで受診したら良いのでしょう。
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A
赤ちゃんの頭の形を日頃から見て、気になることがあれば少しでも早く受診していただきたいです。もし治療する場合は、遅くとも生後6ヵ月までに開始することをお勧めします。早い方ですと、生後2ヵ月くらいで相談されて、赤ちゃんの首が据わる頃から治療を始められます。矯正用ヘルメットは頭蓋骨がやわらかくて隙間のある、動く余裕のあるうちから装着して、成長を利用して正しい形に導く方法です。赤ちゃんの頭は数ヵ月単位で大きくなり、1歳になる頃には形が決まってしまいますので、6ヵ月を過ぎると効果が見込めにくくなるといわれています。ですから、頭がよりやわらかい状態で治療を始めることが大切です。
- Q放置するとどうなるのでしょうか?
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A
頭蓋骨がゆがむと、目の大きさや目の周りのくぼみ、また耳の位置にも左右差が生じる恐れがあります。見た目の問題もありますし、ご本人が将来眼鏡をかけることになった場合にも困るでしょう。また、骨は全身につながっていますから、頭蓋骨のゆがみは全身の骨のゆがみを引き起こし、場合によっては肩凝りや腰痛の原因にもなり得るといわれてます。歯も骨と同様で、歯並びが悪い方の中には、頭蓋変形症の症状があるケースも少なくありません。このように頭蓋骨のゆがみは全身の不調につながる可能性があります。自然に治ることはなく、放っておくと頭がゆがんだまま成長し、さらにゆがみが進んでしまうリスクもあります。