眞鍋 祐美子 院長の独自取材記事
あきたけ医院
(北九州市門司区/出光美術館駅)
最終更新日:2025/02/10

JR鹿児島本線門司港駅から徒歩15分ほどの場所にある「あきたけ医院」は、地域住民のかかりつけとして、この地で130年以上にわたり地域医療を支えてきた。現在は4代目の眞鍋祐美子院長がクリニックを継承し、従来の内科、小児科領域の診療に加え、専門である麻酔科を標榜。また、日本ペインクリニック学会ペインクリニック専門医として帯状疱疹の疼痛緩和や訪問診療での緩和ケアなどにも取り組んでいる。「クリニックに来る人はみんな何かに困っているはず。だからこそ断らないことを信条としています」と話すとおり、子どもから高齢者まで幅広い患者層のさまざまな主訴に対応する。診療中の笑顔が印象的な眞鍋院長に、クリニックの歴史や特徴、今後の展望などについて詳しく話を聞いた。
(取材日2024年9月12日)
130年以上の歴史を持つクリニックを継承
こちらのクリニックは明治時代後期に設立されたそうですね。

開業したのは曽祖父なのですが、こちらにクリニックをつくる前に岡垣町で長く診療を続け、その後、門司に出てきたと聞いています。当時から内科と小児科の診療を行っていて、父は内科、母は小児科という医療家系。私が2015年に当院を継ぐために戻ってきてからは、私の専門である麻酔科も標榜し、訪問診療にも対応するようになりました。私は2人姉妹の長女で、クリニックを継ぐんだと思いながら育ってきましたので、医師になったのは自然の流れでした。幸い、父も母も元気に働いていたので、家業とは違う診療領域を選ぶなど自由にさせてもらい、福岡大学病院麻酔科学教室に入局。それからは九州がんセンターや北九州市立門司病院、北九州市立医療センター、門司掖済会病院などで麻酔科の医師として経験を積んできました。父が体調を崩したことをきっかけにクリニック近くの病院へと移り、継承の準備を進めました。
麻酔科の道を選んだきっかけをお聞かせください。
女性医師ということもあって、できるだけ早く専門性を身につけたかったんです。結婚して子どもを産んで育てるということを考えると、入院患者さんのケアなどもあって長期間休むことが難しい内科や小児科より魅力的に感じました。それに麻酔科は幅広い疾患の治療に関わる診療科です。手術で麻酔が必要となれば赤ちゃんからお年寄りまですべてに対応できなくてはなりません。そのため麻酔科の医師は「手術室の内科医、小児科医」といわれることもあるんですよ。いずれクリニックを継ぐことを考えていたので、さまざまな世代、多様な疾患を診られる点は私にとってメリットでした。毎日のように全身管理をしていると、診断まではできなくても状態の悪さがわかるようになりますし、そうした経験は今の診療にも非常に役立っています。
先生のモットーは「断らない」ことだと伺いました。

何かに困ってクリニックに来ているのはどの患者さんも同じです。困っていなければ医療機関なんて行きませんよね。ですから病気が何であれ、患者さんの困り事を解決したいという気持ちが強いのだと思います。もちろん私一人の力ですべての患者さんを治療することはできないので、これまで培ってきた人脈を生かして専門家に相談したり、紹介したりしながら困り事を解決していきたいです。他のクリニックや病院から患者さんをご紹介いただくこともありますが、頼りにしてもらっている以上、可能な限り力になりたいですね。
生活習慣病も帯状疱疹も、予防の意識づけが重要
現在はどんな患者さんが多いのでしょうか?

高血圧症や糖尿病に代表される生活習慣病の患者さんが多い印象です。地域のクリニックなので、風邪や腹痛の患者さんもたくさんいらっしゃいます。生活習慣病に関しては、2024年6月より厚生労働省が定めた体制に変わりましたので、初診時に書類を交わして4ヵ月後に状態の変化を評価する流れで診察します。体重、内臓脂肪量、体脂肪率、水分量、骨量、筋肉量、理想とされる筋肉量の数値と比較した脚点などを一度に調べられる体組成計に乗っていただき、その結果をファイルにとじて、患者さんにも都度お渡ししています。今後、管理栄養士の方に来ていただくよう動いていて、食事面での細かな指導も実施予定です。各患者さんにより適した栄養指導を行えると思います。高齢になると、心臓血管や脳血管の疾患で亡くなる割合が高くなってきますので、ご自身の健康状態を確認することの重要性をご理解いただくことに努めています。
ご専門である麻酔科領域ではどのような診療を行っていますか?
専門は痛みの除去や緩和をめざすペインクリニックなのですが、特に帯状疱疹のケアに取り組んでいます。帯状疱疹は痛みが強く、まずはその痛みをコントロールしなければなりません。少し特殊かもしれませんが、硬膜外麻酔という手法を使っています。通常手術を行う際には、細い管から痛み止めの薬を入れ、切開する部分をしびれさせるための硬膜外麻酔をした上で、全身麻酔をかけていきます。これを帯状疱疹の患者さんにも使い、痛みのブロックを図るのです。重症の場合には連携している病院に1〜2週間ほど入院してもらい、痛みをコントロールしながら症状の回復をめざし、その後当院の外来で診療をします。とはいえ、帯状疱疹は早い段階で抗ウイルス薬を用いることができれば、早期回復が見込める病気です。また、重症化を防ぐためにも50歳を目安に予防接種を受けることをお勧めしています。
帯状疱疹の予防接種をはじめ、さまざまな予防にも注力されているそうですね。

帯状疱疹は予防接種を受けることが一番の予防策です。2回受ける必要がありますが、それだけ価値のあるものだと捉えていただきたいですね。また、生活習慣病に関しては日頃の健康管理。ただ、高齢になると、生活環境により状況はかなり異なります。例えば、パートナーに先立たれた方。独居の高齢者が増加するに伴い、孤独死も増えている現状があります。行政のサービスを受けることができれば、それを避けられる可能性は高まりますが、その制度自体を知らない方が多いのが現実です。私は警察からの依頼で検死に立ち会うことがあるのですが、とりわけ多いのが孤独死なんです。医師としても本当につらい瞬間。そんな悲しい最期を迎えないために、ここへ立ち寄ってくださるだけでも構いません。人とつながってください。今は、行政などのさまざまな支援を受けられますし、当院がそのパイプ役になることも可能です。
世代や病気の垣根なく通える地域のかかりつけへ
高齢者に限らず、小さな子どもが対象の取り組みも充実していますね。その背景もお聞かせいただけますか?

内科と小児科として始まり出会いやニーズによってさまざまに尽力してきました。病児保育を始めたのも門司港エリアで実施するクリニックが不足していたからです。私自身母に助けられつつ4人の子育てをして痛感しましたが、病気のお子さんを預けられる場所があればママも安心ですからね。また当クリニックの近くに「訪問看護ステーションもじっこ」、「有料老人ホームあきたけハウス」、「デイサービスもじっこ」、「ヘルパーステーションもじっこ」、「ケアプランセンターもじっこ」を立ち上げ介護事業にも取り組んでいます。
クリニック継承後には訪問診療も開始されました。
勤務医時代に友人が大病を患い、その方に看取りを頼まれたのが訪問診療に関わるようになったきっかけです。診療自体は問題なくできるのですが、どうやって保険診療を行えばいいのか手探り状態でした。そこで半年ほど訪問診療に特化した医療機関に通いノウハウを学び、継承と同時に訪問診療を本格的にスタートしました。現在では個人宅はもちろん、グループホームや老人ホームなどでも訪問診療を行い、末期がんの緩和ケアや心不全、老衰、パーキンソン病をはじめとした神経難病の患者さんをサポートしています。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

毎週金曜には頭痛の専門家である夫が診療を行い、週に3回は小児科の医師、月1回は整形外科と皮膚科の医師が来てくれるなど、多くの仲間たちに支えられていますが、今後は常勤の小児科医師を増やし、ニーズが多い障害児の訪問診療にも対応したいと考えています。私が大事にしていることは、患者さんに喜んで帰ってもらうこと。子どもでもお年寄りでも、一つは花丸をあげて喜んでもらう。そうすることでクリニックに来る際の憂鬱な気持ちが少しでも減らせたらうれしいですね。