高瀬 義昌 理事長の独自取材記事
医療法人社団至高会 たかせクリニック
(大田区/武蔵新田駅)
最終更新日:2024/07/17
武蔵新田駅から徒歩3分の場所にある「たかせクリニック」は、高齢者を中心とする訪問診療のクリニックだ。理事長の高瀬義昌先生は、気さくでどこかひょうひょうとした雰囲気のドクター。信州大学医学部を卒業後、麻酔科の経験を経て「手術室の中ではなく、現場での支援がしたい」と感じるようになったという。家庭医学や行動科学、カウンセリングなどを勉強し、2004年に開業。医療と介護を組み合わせ、多職種連携で患者の周りの環境の最適化をめざす「ケアと薬の最適化」を診療方針としている。ケアが難しいとされる症例に対しても、行政と連携しながらの支援に自信を示す理事長。若手育成や講演など多角的な活動に精力的に参加する高瀬理事長に、持続可能な支援の在り方や患者と家族へのケアの心がけについて語ってもらった。
(取材日2023年9月28日)
多職種連携で高齢者の訪問診療に対応
こちらのクリニックの特徴について教えてください。
当クリニックは、高齢者の訪問診療を中心としていることが特徴です。2004年に開業し、特に認知症や精神疾患をお持ちの患者さんやそのご家族のケアを行っています。訪問地域は大田区のほか、半径16km圏内の施設やご自宅に伺っています。当クリニックでは、単にご自宅に訪問して内科的な診療を行うだけでなく、医療と介護を組み合わせた多職種連携で対応にあたります。チームで連携しながら、患者さんにとって必要な支援をすることで、最適な環境の構築をめざしています。ご家族、ケアマネジャーからの依頼のほか、行政機関から「認知症と思われる独居の高齢者を診てほしい」といった問い合わせが入ることも。初診の後は、月に2回の定期訪問で対応しています。
そもそも認知症は治らない病気というイメージがあります。
認知症といっても原因はさまざまで、早期発見や治療、手術などによって改善する場合があります。例えば、慢性硬膜下血腫が原因の場合は手術によって改善が期待できます。プロブレムリストといって、患者さんごとに今の課題や、行うべき治療を抽出してリスト化し、それをもとに少しずつ掘り下げていく方法を取っています。患者さんによっては、課題にすぐに取りかかることで早期解決が期待できるものもあります。たとえ今、歩けない・食べられない・会話が成立しないといった状態であっても、認知機能の改善をめざしてアプローチできることはありますから、どうか早めに受診してください。
訪問診療で大切なことについて考えをお聞かせください。
訪問診療では各職種の専門家がチームを組んで対応することが基本です。アメリカでは専門のコーディネーターがいて、それぞれの職種の強みを生かした連携体制が当たり前になっています。日本はいまだ縦割りの医療の考え方が根強いですが、私は「医療と介護が有機的に連携し、患者さんの支援を行うことが必要だ」と、これまでも提唱してきました。異なる分野の専門家同士が上手に連携していかないと、持続可能な在宅医療の実現は難しい。個々が点や線で対応するのではなく、チームが面で対応することがより良い支援を実現させると思います。ですから、「医師とだけつながっていればいい」という患者さんやご家族に対して、訪問診療との正しい付き合い方をお伝えすることも大切な役割ですね。処置や相談の内容に応じて、適切な専門家に患者さんをつなぐ。それが患者さんのQOL向上に結びつきますし、日本全体の医療・介護のリソースの最適化にもつながります。
患者と家族の折り合いをつけることも大切
クリニックの強みを教えてください。
私たちは、認知症の患者さんと、精神疾患の患者さんのケアを得意としています。認知症、うつ病、せん妄を併発している場合を、それぞれの英単語の頭文字を取って「3D」と呼んでいます。3Dの患者さんは、「対応が難しい」という理由で診療を断られてしまうことが多いのですが、私は長年の経験から、3Dの患者さんについても支援する自信があります。ケアの基本は「ケアと薬の最適化」。患者さんの症状と周りを全体的に見ながら、最適な環境の実現をめざすものです。
「ケアと薬の最適化」とは、具体的にどんな支援をするのでしょうか。
さまざまな症状を併発している患者さんがいますから、対応は一人ひとり違います。患者さんの症状もそうですし、周りの状況も常に変化しています。医療と介護の組み合わせで、患者さんにとって最適な環境をコーディネートすることを「ケアと薬の最適化」と呼んでいます。確立された手法があるわけではないので、実際は一筋縄ではいかないことも多いですね。ですが、私たちのいる現場が日本の高齢者医療の最先端だという思いで日々取り組んでいます。
理事長の考える最適な環境には、もう1つの側面があるとか。
はい。対応にあたるスタッフの幸せも含まれています。患者さんを幸せにしようと思ったら、自分が幸せでなくてはなりませんからね。ですから、当クリニックの診療を通じて、社会貢献のきっかけをつかむ人もいますし、私たちもキャリアアップにつながる場の提供をめざしています。当クリニックで勤務してくれたスタッフたちが、他の場で活躍しているという話を聞くと、私としてもうれしいですね。
診療で気をつけていることは何でしょうか。
患者さんとご家族の要望に丁寧に耳を傾け、うまく折り合いをつけることを大切にしています。どのご家庭でも何かしらの問題を内包しているものです。特に認知症では、患者さんとご家族の要望が一致しないケースが多い傾向にあります。また、ご家族が介護を理由にキャリアを諦めたり、介護疲れになってしまったりというケースもあり、そうなると、患者さんのケアもままなりません。ですから、ご家族も含めた包括的な支援が必要なのです。当クリニックでは、カウンセリングなどを取り入れて、ご家族へのサポートも大切にしています。
次世代の育成や未来の地域医療の発展を願って
医師を志したきっかけや開業までの経緯を教えてください。
祖父が産婦人科の医師でした。また高校時代の先生に熱心に説得されたこともあって、医師の道に進むことにしました。母校の先輩で、精神科医の北杜夫さんに憧れ、彼が学生時代を過ごした松本か仙台の医学部をめざしていました。信州大学では精神科と小児科を勉強し、良い先輩にも恵まれました。プライマリケアや精神科に興味があった1989年頃、「今後は家庭医学が大事になってくる」という留学レポートを目にしました。著者は、大学の先輩で、現・国立病院機構本部医療部研究課課長の伊藤澄信先生と、現・国際医療福祉大学大学院教授の武藤正樹先生。それをきっかけに私も家庭医療研究会に出入りするようになって、患者さんの人生すべてに関わる家庭医学の面白さを知りました。さらに行動科学やカウンセリング、コーチングなどを学び、在宅医療中心の当クリニックの開業に至ったわけです。
高瀬理事長のご活動は、執筆や講演と医療の枠に留まりません。
目の前の患者さんを支援することはもちろんですが、日本の未来の地域医療に貢献できたらという思いで活動しています。難しい症例では、確立された手法がないので手探り状態でうまくいかないこともあります。ですが、そうやってさまざまな職種の仲間たちと汗を流しながら、チャレンジを重ねることも、私は面白いと思っているのです。執筆や講演活動も、さまざまな研究会のお手伝いや勉強会も、すべては未来の地域医療を見据えた活動です。医療従事者や介護の現場で働く人の相互理解を目的とした勉強会を開いたり、医師に経営の視点を伝える活動を行ったりと、たくさんのことに関わっているので、毎日忙しいですが、とても充実していますね。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
認知症も他の疾患もそうですが、まずは早期発見・早期対応が重要です。「おかしいな」と感じたらかかりつけ医に相談して、早めに検査を受けることをお勧めします。当クリニックとしては、今後も多職種連携の訪問診療を行いながら、必要な患者さんに持続可能な支援を提供していくつもりです。