高瀬 義昌 理事長の独自取材記事
医療法人社団至高会 たかせクリニック
(大田区/武蔵新田駅)
最終更新日:2025/12/19
2004年に開業して以来、認知症をはじめとした高齢者の在宅療養を訪問診療で支える「たかせクリニック」。武蔵新田駅から徒歩3分のクリニック所在地より、半径16km以内の施設や自宅を対象としている。患者と家族の関係性を改善することで問題解決を図る心理療法をきっかけにこの道に進んだ高瀬義昌理事長は、「在宅医療の持続可能性を高めるには、患者だけでなく家族の支援も不可欠」と話し、双方が生き生きと暮らすための環境づくりに力を注ぐ。その診療方針を端的に表すのが、「ケアと薬の最適化」だ。多職種が連携してモニタリングを行い、高齢者や認知症患者にありがちなポリファーマシー(多剤併用)や飲み忘れ、家族の疲弊を防ぐ。理想的な在宅医療・高齢者医療の普及をめざす高瀬理事長に話を聞いた。
(取材日2025年9月12日)
多職種連携で高齢者の訪問診療に対応
まずは、クリニックの特徴を教えてください。

認知症の方を中心に、高齢者の在宅療養を訪問診療で支えるクリニックです。2004年に開業して以来、大田区をはじめ港区や川崎市など、クリニックから半径16km圏内の施設やご自宅を回っています。ご家族やケアマネジャー、患者さんが入居している施設などからご依頼を受ける他、行政機関から「認知症と思われる独居の方を診てほしい」と連絡が入ることも。訪問診療を考えるタイミングの目安としては、「介護をする家族が困ったら」あるいは「困りそうになったら」とお伝えしています。負担が大きすぎるとご家族が先に疲弊してしまうことも少なくないので、早めに相談していただきたいですね。初診の後は、月に2回の定期訪問で対応しています。
訪問診療は、チームで行うことが重要だそうですね。
訪問診療は、各職種の専門家によるチーム医療が理想です。日本はいまだ縦割りの考え方が根強いですが、アメリカは訪問診療専門のコーディネーターがいて、それぞれの職種の強みを生かしてチームを組むのが当たり前なんですよ。訪問診療にはさまざまな側面があり、患者さんだけでなくご家族をも支援する必要性を考えると、異なる分野の専門家同士の連携が不可欠です。私は以前から、「持続可能な在宅医療を実現するには、医療、介護、看護、行政の有機的な連携が必要だ」と提言してきました。患者さんやそのご家族が「先生さえ来てくれればいい」とおっしゃることもありますが、処置の内容や生活状況、悩みに応じて診るべき人が診ることの重要性をお話しし、訪問診療の正しい受け方を理解していただくのも私たちの重要な役目の一つだと思っています。
多職種の有機的な連携は、どのような機能を果たすのでしょう。

当院は、「ケアと薬の最適化」を掲げています。これは、個別の状況に応じて必要なケアと薬を適切に判断することで、患者さんとそのご家族の負担を軽減するための支援を指しています。画一的な判断ではなく、「このご家族にとって何が必要か」あるいは「何が足りないか」を見極めることで、適切な介入をめざすわけですね。これは、多職種連携なしには実現し得ない取り組みです。また、認知症の患者さんや高齢者の中には、複数の医療機関から処方された多量の薬を併用したり、逆に処方された薬を飲み忘れたりすることによって症状が悪化しているケースが少なくありません。こうした場合も、多職種でモニタリングを行うことで、必要に応じて処方内容を見直すことができます。
適切な薬を使い、リスク要因を除去することが重要
新しい薬についての知見が豊富であることも、こちらの強みの一つですね。

そうですね。医薬品の知識は、訪問診療に欠かせない要素の一つです。例えば、初期のアルツハイマー型認知症の方のBPSD(行動・心理症状)に対しても、今はとても有用な薬が出ているんですよ。何度もナースコールを押す、家族に何度も電話をかけ続ける、ショートメールを頻繁に送るといった症状などで、患者さん自身やご家族がお困りの場合にお勧めしています。従来の抑制的な薬物療法ではなく、自立支援を目的とした新しい薬物療法のアプローチで、歩けなかった患者さんが買い物に行けるほど改善が見込めることもあります。認知症初期によくあるパニック発作をはじめとするうつ症状も、適切な薬物療法で改善が期待できます。患者さんとご家族の生活の質の向上をめざして、さまざまな研究会や勉強会のお手伝いを積極的に行いながら、新しい情報を得て現場で生かしていきたいですね。
在宅療養の持続可能性を上げるために、他に重要なことはありますか。
在宅療養の継続を危うくさせる要素を取り除くことが、持続可能性を上げることにつながります。特に重要なのが、骨粗しょう症治療、肺炎球菌・帯状疱疹・インフルエンザなどのワクチン接種、栄養管理です。これらに関わる病気はいずれも、長期に及ぶ入院加療を必要とするため、認知機能や身体能力の低下を招く可能性があります。安定的に在宅療養を継続するために、当院では予防についても啓発と治療を積極的に行っています。
難症例も多く診ているそうですね。

高齢者に多く見られる「認知症(Dementia)」、「うつ病(Depression)」、「せん妄(Delirium)」は、それぞれの英単語の頭文字を取って「3D」と呼ばれます。3Dは見分けがつきにくく、複合的かつ突発的に発生することがあるため、その対応の難しさから診療を断られてしまうケースが少なくありません。当院では、長年の経験を生かして3Dの症状のある方も積極的に受け入れ、薬とケアの最適化につなげています。
親身に話を聞き、いつも患者と家族のそばに
医師を志したきっかけや開業までの経緯を教えてください。

父が産婦人科の医師であったこと、高校の先生が熱心に勧めてくれたことがきっかけで、医師を志すようになりました。当初は、母校の先輩で、精神科医でありながら作家として芥川賞も受賞された北杜夫さんに憧れて、信州大学で精神科を学んだんです。結局、卒業後は麻酔科に進みましたが、伊藤澄信先生と武藤正樹先生のレポートで「家族療法」と呼ばれる心理療法の分野を知って家庭医療研究会に出入りするようになり、小児科で実践することになりました。その後、在宅医療と出会い、家族療法との親和性を感じて「たかせクリニック」を開業しています。
診療の心がけをお聞かせいただけますか。
患者さんとご家族の要望を聞き、うまく折り合いをつけることですね。特に認知症の場合、患者さんとご家族の要望が一致せず、ご家族が介護のためにキャリアを諦めたり、介護疲れから抑うつ的な症状を発症したりすることが少なくありません。そうなると、患者さんはもちろん、ご家族の人生も閉ざされてしまいます。礼節はわきまえつつも眉間にしわを寄せず、遊びに来たような気軽さで接することで、ご家族の本当の声を聞き取っていきたいですね。地道に信頼関係を築き、家庭内で完結してしまうことが多いさまざまな問題の解決策をともに考えていけたらと思っています。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

高齢者や認知症患者さんが抱える問題の中には、気づいたときにすぐ取りかかれば改善が見込めるものが多くあります。認知症もその一つです。認知症になったら治らない、という印象をお持ちの方も多いと思いますが、原因によっては歩けない・食べられない・会話が成立しないといった状態から回復したり、進行を抑制したりできる可能性も十分にあります。「おかしいな」と思ったらすぐかかりつけ医に相談して、検査を受けましょう。私は、東京都の認知症サポート医としての活動にも力を入れています。物忘れなどが気になったら、ぜひ気軽にご相談ください。

