長谷川 道彦 院長の独自取材記事
はせがわクリニック
(大田区/武蔵新田駅)
最終更新日:2021/10/12
「トイレが近いなど生活に支障を来す排尿障害は、専門の泌尿器科にかかることでコントロールできるようになることが見込めます」と語る「医療法人社団イーハトーブ はせがわクリニック」の長谷川道彦院長。落ち着いた風格のある見た目と、穏やかな口調で丁寧に説明する姿勢に安心感を覚える。2008年の開業から泌尿器科の偏ったイメージを変えるべく啓発活動を行い、今では頻尿や尿漏れ、尿の出が悪いなど加齢に伴い現れる排尿の悩みを相談に来る患者が多いという。在宅医療も開業当初から行っている院長に、終末期医療に対する考えから泌尿器科領域の治療内容、法人名「イーハトーブ」に込めた思いなど幅広く語ってもらった。
(取材日2020年11月30日)
頻尿や尿漏れ、年のせいだと諦めずに泌尿器科へ
大田区に開業して12年たちますが、変化を感じるところはありますか?
開業したのが2008年で、当初は私の専門である泌尿器科をメインの科目に掲げていました。一般的に泌尿器科というと性病をイメージされる方が多く、どういう診療を行う科なのか知っていただくことが大事だと考え、市民講座をはじめ、啓発活動を行ってきました。泌尿器科は排尿の障害や前立腺がん、腎臓を扱う科ということを、10年たって認知されるようになってきたと感じています。その結果、もちろん性病も診ていますが、ご高齢の方を中心に排尿の悩みで受診される方が増えました。メインの患者層は60代以上ですが、女性の場合は出産をきっかけに排尿障害を抱えている方もいらっしゃいますので、若い方も受診されています。以前より内科も標榜していますので、通いやすいのではと思います。
泌尿器科へは排尿の悩みで受診される方が多いんですね。
一番多いのは、男女問わず「トイレが近くなっている」「夜中に何回もトイレのために起きる」という頻尿の悩みです。テレビなどで過活動膀胱という言葉を耳にして、相談にいらっしゃる方も多いですね。トイレが近くなると何が問題なのかというと、頻尿や尿漏れを心配して外出や旅行をためらうなど、社会生活をする上でいつもの行動を制限しなければならない点が挙げられます。排尿障害は特別な病気ではなく、加齢によって差はあれど誰にでも起きるものです。尿の問題ということでクリニックに行きにくいと考える方も多いと思うのですが、泌尿器科にかかることでコントロールをめざせる病気でもあります。「年のせい」と諦めずに、生活に不便や不安を感じているなら早めに受診してほしいですね。
頻尿や尿漏れはどのような治療になりますか?
一口に頻尿・尿漏れといっても原因はさまざまで、治療内容も異なります。女性は出産を機に骨盤を支えている骨盤底筋群が弱り、尿道や膣が閉まらず漏れてしまうという方がいます。この場合は筋力をつける運動を紹介し、内服薬を処方します。これは、神経性の病気が引き金になっていたり、膀胱が過敏になって起こることもあります。男性の場合、50代を過ぎると増えてくるのが前立腺肥大症が原因となる排尿障害です。尿を出そうとしても出しきれず、尿意や残尿感が残り続けてしまうのです。同じ頻尿・尿漏れでも、それぞれ治療薬が異なりますので、見極めが必要です。当院ではまず問診表を書いてもらい症状を確認し、尿の出を測定する尿流測定検査などを行います。初診の方にはエコー検査をする場合も。無症状で進行しているがんや生活習慣病が、検査で発見されることも多いため、慎重に診断を行っています。
限界がある医療。それでも終末期の不安をなくしたい
泌尿器科で見つかる生活習慣病とは?
特に男性に多いのですが、排尿時の痛みや陰部の感染を起こす原因として糖尿病が隠れている場合があります。最初のきっかけとして泌尿器科を訪れ、尿の検査で糖が多い状態にあり、血液検査をすると糖尿病が進行している……。これが泌尿器科で生活習慣病が見つかる形の1つです。また泌尿器科の性質上、高齢の患者さんが多い点も生活習慣病を切り離せない理由です。当院では新たに動脈硬化を測定する機械を導入し、生活習慣病の診療に役立てています。また、腎臓内科も標榜していますが、腎機能は悪化すると元には戻せませんので予防が大事になります。予防には糖尿病・高血圧といった生活習慣病をコントロールする必要があるのです。その点からも泌尿器科・腎臓内科を掲げるクリニックとして、生活習慣病の管理を行っています。
先生は終末期の患者の在宅医療も行っているそうですね。
在宅専門のクリニックではないので、当院にもともと通院されていた方で、患者さん自身の希望と家族が自宅で診てもらいたいとなった際に対応しています。がんの末期は痛みを抱えて生活するのもままならず、痛みのコントロールもできない状態になるため、終末期を自宅で過ごすのは難しいと考える方が多いでしょう。しかし、在宅でも痛みのコントロールをめざすことは可能です。本人が自分の人生の終息の場に家庭を選んだのであれば、それをかなえてあげたいと、開業時から在宅医療を行っています。治せる病気には全力で治療に取り組みますが、医療には限界があり、治せない部分も必ず出てきます。終末期にはそんな場面が増えてきますが、そういった時に医師である自分は患者さんに寄り添うことに全力を注ぎたいと考えています。
医師としてやりがいを感じる点、法人名の「イーハトーブ」に込めた思いとは?
私は人と人として出会ったからには、相手の人生の手助けになることをしたいと考えています。自分は医師として病気というつらい部分に関わり、その人が普段の生活を取り戻せることの手助けになるのだとしたら、この仕事に大きな意義を感じます。もし治すことができなかったとしても、最期の瞬間まで不安を抱えることがないようお手伝いしていきたいですね。当院の法人名になっている「イーハトーブ」は岩手県出身の作家が作った造語で、「理想郷」という意味で使われています。この名を選んだのは医療の中で理想の場所をめざしたいと思ったからです。私は岩手医科大学を卒業後、岩手県の病院に勤務していた時からずっと「イーハトーブ」っていい言葉だなと思っていました。そのため、「開業するのは東京なのに使っていいのかな」と躊躇はしましたが、法人名ならと思い掲げさせてもらいました。
診断から治療後まで担当する泌尿器科に魅力を感じて
先生が医師になったきっかけはありますか?
私の親は医師とは関係ない洋服店を営んでいました。ですので、小さい頃から医師になろうと思っていたわけではなく、大学受験の時に「社会に貢献できる職業に就こう」と考えました。例えば音楽家なら音楽で、画家なら絵で、人々の人生を豊かにできますよね。でも私には音楽も絵を描く才能もなかったので、それならと思いついたのが医療です。医師なら病気を治して人々の人生に貢献できるのでは、と考えたのです。
なぜ泌尿器科に進まれたのでしょうか?
もともと外科に進もうと考えていましたが、その中でなぜ泌尿器科かというと、一人の患者さんを最初から最後まで診られる点に魅力を感じたからです。医学生時代に研修でさまざまな科を回るのですが、母校である岩手医科大学は、腎臓、膀胱、前立腺、男性器、付属臓器として副腎、腎移植、そういったものをすべて泌尿器科が扱っていました。他の多くの科は、まず内科で診断して手術が必要なら外科に回し、逆に外科は手術をしたら内科に戻す形がほとんどです。しかし、泌尿器科は最初の診断から最後の治療まで担当し、がんの放射線療法や腎不全の透析療法も行っていました。さらに小児泌尿器科で小児の先天性疾患も診るという、広く深い科の特性に自分の理想の医療を見つけたような気がしたのです。
最後に読者へのメッセージと今後の展望をお聞かせください。
排尿の悩みに関しては内科など他の先生には話しづらいことも多いですよね。当院は泌尿器科が専門ですが、男性ばかりのクリニックではありません。女性でも来院しやすい環境の中、内科から泌尿器科の領域まで診ていくことができます。個々の悩みや症状をしっかり聞き取り、一人ひとりに合わせた対応を心がけ、一切不安を残さずに診察室を後にしていただけるよう努めています。当院で対応できない症状に関しては適切な病院やクリニックを紹介させてもらいます。大田区は面積も広く大きな病院もあり、泌尿器科は少ないですがクリニックもたくさんあります。通院の負担が少なくなるようこの地域から離れず治療ができるように、今後も近隣施設との連携を深めていきたいと思っています。