腰痛・下肢痛の原因
腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアの治療
島脳神経外科整形外科医院
(川崎市中原区/元住吉駅)
最終更新日:2024/03/14


- 保険診療
厚生労働省の「2022年国民生活基礎調査」によると、腰痛は、国民のおよそ10人に1人が「自覚あり」とするポピュラーな症状で、一般的な原因として腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、骨粗しょう症などが考えられる。特に腰部脊柱管狭窄症は続けて歩くことが困難になるケースも多く、筋肉低下の可能性もあるため、適切な時期に治療を行うことが望ましい。鎮静剤や神経ブロック注射といった対症療法のほか、体への負担が少ないとされる顕微鏡手術なども選択肢となる。一方、腰椎椎間板ヘルニアは対症療法や手術に加え、手術なしで治療可能な方法も登場している。こうした腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアのさまざまな治療法について、日本脳神経外科学会脳神経外科専門医でもある「島脳神経外科整形外科医院」の島浩史院長に詳しく聞いた。
(取材日2023年12月28日)
目次
痛みを抑えるための保存療法から始め、必要なら体への負担が少ない手術や新たな治療法も検討
- Q腰部脊柱管狭窄症とはどんな病気でしょうか?
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A
▲高精度なMRIやマルチスライスCTなど先進の機器を完備
神経の通り道となる背骨内部のトンネルである脊柱管が狭くなり、神経を圧迫して痛みなどが生じるのが脊柱管狭窄症です。狭くなる原因は、加齢などで椎間板や靱帯が変形したり、傷んだ靱帯や骨が厚みを増したりするためで、それが腰部に出てくると腰部脊柱管狭窄症と呼ばれます。高齢の方に多い病気ですが、運動歴、体質によって少し早く発症するケースがあるようです。代表的な症状は腰痛、足の痛みやしびれ感など。背筋を伸ばしてしばらく歩くと痛み・しびれで歩けなくなって、前かがみの姿勢で少し休んでいると症状が治まるのでまた歩く、を繰り返す「間欠跛行(かんけつはこう)」も特徴の一つです。
- Qでは腰椎椎間板ヘルニアについてもご紹介ください。
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A
▲同院の看護スタッフ
人間の首から腰に至る背骨は、椎骨という骨がつながってできています。それらの骨と骨の間でクッション役となっている椎間板が傷んで変形し、脊柱管内の神経を圧迫して起こる病気の中で、腰部に生じたものを腰椎椎間板ヘルニアと呼びます。椎間板はゼリー状の髄核がタイヤのような形の硬い線維輪に包まれていて、線維輪の破れ目から出てきた髄核が神経を圧迫して痛みが生じることが一般的です。症状は急激に起こる腰の痛み・しびれで、足に痛みが広がることもありますが、時間をかけて次第に痛みが強くなる脊柱管狭窄症とは痛み方が異なります。また、腰を曲げると痛みが強くなる傾向があり、この点も腰部脊柱管狭窄症との違いです。
- Qどのような治療法があるのでしょうか?
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A
▲手術実績も豊富な同院
どちらの病気も、一般的には対症療法を中心とした保存療法からスタートします。薬や神経ブロック注射で痛みの抑制を図りますが、近年はより有用な薬も増え、軽度なら薬だけで治療を終えることが望める患者さんも多く見られます。特に椎間板ヘルニアは数週間で自然治癒するケースも多く、その間の痛みに対症療法で対応するのは有用です。ただ、脊柱管狭窄症による間欠跛行で数十mしか歩けない、立っているだけ・座っているだけでしびれるような方、椎間板ヘルニアでまひなどの神経症状が出ている方、自然治癒しないタイプの方などは、早めに手術を検討する必要があります。病気が進行してからでは、手術をしても改善が難しいことも考えられます。
- Q脊柱管狭窄症では体への負担が軽い手術もあるそうですね。
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A
▲体への負担が少ない顕微鏡下での手術を選択することもできる
ええ、内視鏡手術と顕微鏡手術がありますが、当院ではほとんどの脊柱管狭窄症の手術を顕微鏡手術で行います。従来の手術に比べて傷口が小さく、骨から筋肉を剥離する量が少なくて済むため、術後の回復の早さにも期待できます。また、顕微鏡で手術の部位を拡大して立体的に確認でき、神経を圧迫する骨や靱帯を取り除く範囲も必要最小限をめざせるのもメリットです。背骨の一部を削るとき、骨に金属製の補強器具を装着することがありますが、顕微鏡手術では削る範囲を最小限に留めると、補強器具なしでも強度が十分確保できるケースも出てきます。これは金属など異物を体内に入れることで起きやすい感染症のリスクを抑えるのにも役立つでしょう。
- Q椎間板ヘルニアで手術以外の治療法も可能になったと聞きました。
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A
▲患者一人ひとりの病状に合った治療方法を提案する
はい。「椎間板内酵素注入療法」といって、椎間板内に薬剤を注射することで、痛みなどの症状を出にくくすることが期待できる治療法です。神経ブロック注射などでは改善が難しいが、手術はしたくないという患者さんの新たな選択肢といえるでしょう。椎間板ヘルニアはタイプによって期待できる効果に差があることから、当院ではMRIなどを用いてしっかり診断し、適切なタイプの患者さんの治療に応じています。また、2度目以降はアナフィラキシーショックの可能性が考えられ、現在のところ薬の使用は患者さんごとに1度限りです。なお、薬の作用が見込めるまでには数週間かかるため、前述したような早めに手術すべき患者さんには向きません。