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大阪医科薬科大学病院 萩森 伸一 先生

こちらの記事の監修医師
大阪医科薬科大学病院
萩森 伸一 先生

らむぜい・はんとしょうこうぐん(はんとしょうこうぐん)ラムゼイ・ハント症候群(ハント症候群)

概要

ラムゼイ・ハント症候群は、ヘルペスウイルスの一種である水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)によって引き起こされ、顔面神経麻痺を主な症状とする疾患です。ハント症候群とも呼ばれます。顔面神経麻痺の中ではベル麻痺に次いで多く、全体の約20%強を占めます。ラムゼイ・ハント症候群はベル麻痺に比べて治りづらく、後遺症が残りやすいとされています。

原因

水痘帯状疱疹ウイルスは、子どもの頃に水痘を引き起こすウイルスで、水痘が治癒した後もウイルスの一部が神経節に潜んでい ます。普段はおとなしくしていますが、何らかの原因で免疫力が低下すると再び活性化し、帯状疱疹顔面神経麻痺を引き起こします。顔面神経内の神経節でウイルスが再活性化すると神経炎が起こり、腫れた神経が周りの骨によって圧迫されることにより神経の機能が低下し、顔の表情筋がうまく動かなくなってしまうと考えられています。再活性化したウイルスが顔面神経だけでなく、周囲の脳神経にまで及ぶと、耳にも合併症状が出ることが特徴です。

症状

ある日、突然に顔の筋肉がうまく動かなくなり、目が閉じない、眉が動かない、口が閉じない、左右の眉の高さが違う、顔がゆがんでしまう、うまく笑えない、口角が下がって口から飲み物が漏れるといった症状が現れます。舌の半分が麻痺し味がわかりづらくなることもあります。また耳介に発赤や水膨れを伴う強い耳の痛み、耳鳴り、難聴、めまいを起こします。麻痺は徐々に改善しますが、顔半分が引きつれた状態が続く顔面拘縮や、目をつぶると一緒に口元が動いたり、口を動かすと同時に目も閉じてしまったりする病的共同運動という後遺症が出現することもあります。ベル麻痺とは耳介の発疹や水膨れ、耳鳴り、難聴、めまいといった耳の症状の有無で鑑別します。

検査・診断

顔面神経麻痺の評価には、患者に「片目を閉じる」「イーと歯を見せる」など10種程度の表情をつくってもらい、その動きを部位別に評価する柳原法という方法がよく用いられます。また、ラムゼイ・ハント症候群によく見られる耳周辺の皮膚症状や聴覚、平衡感覚の異常を調べる検査も行います。さらに、顔面神経を皮膚の上から電気で刺激して、その反応を見る筋電図検査を実施し、神経がどのくらい障害されているのかを判定します。血液検査で水痘帯状疱疹ウイルスの活性化を調べることもありますが、必ずこれで確定できるとは限らず、初期にはベル麻痺との鑑別が難しい場合もあります。その他に聴力検査や平衡機能検査も行います。

治療

ラムゼイ・ハント症候群の初期治療は、ステロイドと水痘帯状疱疹ウイルスに対する抗ウイルス薬を併せて投与する薬物治療です。薬物治療は発症からできるだけ早く開始するほうが効果が期待できます。ラムゼイ・ハント症候群はベル麻痺に比べ治りづらく、また後遺症が残りやすいとされています。検査の結果で治りづらいと予測される場合は、周りの骨で圧迫されている顔面神経を開放する顔面神経減荷術という手術を行うことがあります。そして顔を温め、筋肉のマッサージをしたり、あるいは運動訓練などのリハビリテーションを行ったりします。顔面拘縮や病的共同運動などの顔面神経麻痺の後遺症に対しては、ボツリヌス毒素の注射を行い、症状の緩和を図ることもあります。発症から1~2年経過しても麻痺が残る場合は、左右のバランスを整えたり、目を閉じる、笑うといった動作をある程度できるようにしたりするため、形成外科で眉を吊り上げる手術やまぶたの形成手術、筋肉や神経を移植する手術を行うこともあります。

予防/治療後の注意

早期に治療を開始することが大切です。上記の症状に気づいたらできるだけ早く医療機関を受診しましょう。一般的な耳鼻咽喉科のクリニックで、顔面神経麻痺の診断と薬物治療は開始できます。また、神経障害の程度が重症で薬物治療では完治が望めないときは、詳しい検査や手術が可能な高次の医療機関に早めに相談してください。ラムゼイ・ハント症候群は、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化によって起きる病気です。子どもの頃に水痘に感染した経験のある人は、帯状疱疹やラムゼイ・ハント症候群を発症する可能性があります。現在、帯状疱疹ワクチンの接種が可能になっていますが、このワクチンは同じウイルスで発症するラムゼイ・ハント症候群の予防にも有用です。50歳以上の人が接種の対象で、自治体によっては費用の助成もあります。

大阪医科薬科大学病院 萩森 伸一 先生

こちらの記事の監修医師

大阪医科薬科大学病院

萩森 伸一 先生

1989年大阪医科大学卒業。2017年同大学耳鼻咽喉科専門教授に。専門は耳科学。中耳手術(真珠腫性中耳炎、慢性中耳炎)、側頭骨外科(顔面神経麻痺の診断と手術、人工内耳)、聴覚医学(突発性難聴、感音難聴、聴神経腫瘍)。日本専門医機構耳鼻咽喉科専門医、日本顔面神経学会理事、日本耳科学会理事、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会代議員。医学博士。