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大阪医科薬科大学病院 萩森 伸一 先生

こちらの記事の監修医師
大阪医科薬科大学病院
萩森 伸一 先生

べるまひベル麻痺

概要

ベル麻痺は顔面神経麻痺の一種で、原因不明の疾患とされてきましたが、近年では顔面神経内の神経節に潜んでいる単純ヘルペスウイルスが活性化して神経炎が起こり、麻痺が生じることがわかってきました。顔面神経麻痺の中では最も多く、全体の約60%を占め、ある日急に「顔が動かない」、「顔がゆがんでしまう」といった症状が出て気づくことがほとんどです。早期に治療を行えれば完治が見込めます。後遺症が残った場合には、リハビリテーションや形成外科での手術、ボツリヌス毒素の注射などによって、緩和を図ります。

原因

ベル麻痺の原因は完全には解明されていませんが、最も多いと考えられているのが、単純ヘルペスウイルス1型の顔面神経の中での再活性化です。このウイルスには多くの人が子どもの頃に感染し、口腔や口唇の炎症を発症することもありますが、ウイルスの一部は顔面神経内の神経節(神経細胞の集まり)に潜伏しておとなしくしています。それが何らかの原因で再び活性化し、顔面神経に炎症を生じさせます。神経が腫れて周りの骨に圧迫されることにより神経の機能が低下し、顔の表情筋がうまく動かなくなってしまうと考えられています。ベル麻痺とよく似た疾患に、水痘帯状疱疹ウイルスが原因のラムゼイ・ハント症候群(ハント症候群)という顔面神経麻痺があります。

症状

ある日、突然に顔の筋肉がうまく動かなくなり、目が閉じない、眉が動かない、口が閉じない、左右の眉の高さが違う、顔がゆがんでしまう、うまく笑えない、口角が下がって口から飲み物が漏れるといった症状が現れます。舌の半分が麻痺し味がわかりづらくなることもあります。麻痺は徐々に改善しますが、顔半分が引きつれた状態が続く顔面拘縮や、目をつぶると一緒に口元が動いたり、口を動かすと同時に目も閉じてしまったりする病的共同運動という後遺症が出現することもあります。顔面神経麻痺そのものの症状はラムゼイ・ハント症候群と同じですが、ベル麻痺ではラムゼイ・ハント症候群で見られる耳介の発疹や水膨れ、耳鳴り、難聴、めまいといった耳の症状は伴いません。

検査・診断

顔面神経麻痺の評価には、患者に「片目を閉じる」「イーと歯を見せる」など10種程度の表情をつくってもらい、その動きを部位別に評価する柳原法という方法がよく用いられます。顔面神経を皮膚の上から電気で刺激して、その反応を見る筋電図検査を実施し、神経がどのくらい障害されているのかを判定します。

治療

ベル麻痺の治療はステロイドの内服投与が基本で、重症例には点滴投与が行われます。ラムゼイ・ハント症候群との鑑別が難しい場合には抗ウイルス薬を併用することもあります。検査の結果で、治りづらいと予測される場合は、周りの骨で圧迫された顔面神経を開放する顔面神経減荷術という手術を行うことがあります。そして顔を温め、筋肉をマッサージする、あるいは運動訓練などのリハビリテーションを行います。顔面拘縮や病的共同運動などの後遺症に対しては、ボツリヌス毒素の注射を行い、症状の緩和を図ることもあります。発症から1~2年経過しても麻痺が残る場合は、左右のバランスを整えたり、目を閉じる、笑うといった動作をある程度できるようにしたりするため、形成外科で眉を吊り上げる手術やまぶたの形成手術、筋肉や神経を移植する手術を行うこともあります。

予防/治療後の注意

発症後速やかに治療を開始することが大切です。顔の動きが何かおかしいと気づいたら、軽い症状であってもできるだけ早く医療機関を受診してください。一般的な耳鼻咽喉科のクリニックで、顔面神経麻痺の診断と薬物治療は開始できます。また、神経障害の程度が重症で薬物治療では完治が望めないときは、詳しい検査や手術が可能な高次の医療機関に早めに相談しましょう。

大阪医科薬科大学病院 萩森 伸一 先生

こちらの記事の監修医師

大阪医科薬科大学病院

萩森 伸一 先生

1989年大阪医科大学卒業。2017年同大学耳鼻咽喉科専門教授に。専門は耳科学。中耳手術(真珠腫性中耳炎、慢性中耳炎)、側頭骨外科(顔面神経麻痺の診断と手術、人工内耳)、聴覚医学(突発性難聴、感音難聴、聴神経腫瘍)。日本専門医機構耳鼻咽喉科専門医、日本顔面神経学会理事、日本耳科学会理事、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会代議員。医学博士。