こちらの記事の監修医師
日本医科大学付属病院
小川 令 先生
ひこうせいはんこん肥厚性瘢痕
最終更新日:2022/10/17
概要
皮膚の深い部分である真皮に外傷、熱傷、手術などによって傷ができたとき、通常は時間とともに傷がふさがり、白く目立たない傷痕になります。しかし、治りかけたように見えた傷痕の炎症が引かず、1~3ヵ月して赤く、みみず腫れのように盛り上がってくることがあります。これを肥厚性瘢痕といいます。肥厚性瘢痕はいずれ自然に軽快することもありますが、一方ケロイドは「ケロイド体質」を持つ人にできやすく、治りにくいという特徴があります。肥厚性瘢痕は遺伝的素因の影響は小さく、ケロイドと比べると治りやすいです。
原因
傷の深さや、細菌感染などで傷が治るのが遅れると、その過程で炎症が持続し、膠原線維(コラーゲン)の蓄積や血管の増殖によって、傷が赤くなり盛り上がります。創傷治癒の遅延が起きる原因として特に重要なのは、体の動きにより引っ張られる力が働くといった局所的な要因です。傷は治癒過程で硬くなるので、この傷に強い力がかかると力を逃がせずに、傷で炎症が長く強く続くことになります。また、年齢や体質、性ホルモン異常や高血圧、過度の炎症反応などの全身的な要因も関与すると考えられています。
症状
外傷、熱傷、手術などを受けてから1~3ヵ月経過した後、傷痕が赤く、みみず腫れのように盛り上がり、見た目にも目立つようになってきます。痛み、かゆみ、引きつれ感を感じることもあります。肥厚性瘢痕は受けた傷の範囲で赤く盛り上がりますが、一方、炎症が強いケロイドは傷を超えて炎症が周囲に広がっていきます。また、肥厚性瘢痕は全身どこでもできる可能性がありますが、関節の周囲など体の動きで引っ張られる力の働く部位や、胸やおなかの手術による傷痕に発生しやすいことが知られています。肥厚性瘢痕もケロイドも適切に治療すれば、時間ととともに赤みが取れ、盛り上がりも徐々に平らになり、やわらかい傷となります。
普通の傷痕、肥厚性瘢痕、ケロイドのちがい
検査・診断
肥厚性瘢痕は、外傷や熱傷、手術創をきっかけに発生することが多いので、視診で傷痕の部位を観察し、問診で症状や受傷の様子、患者や家族の病歴(ケロイド体質かどうか)などを聞き取って診断します。万が一、他の腫瘍などを疑う場合は、皮膚組織を少し採取して病理診断を行うこともあります。ケロイドや肥厚性瘢痕を疑うような傷痕は、まず良性か悪性(がん)かをきちんと判別した後、治療を開始します。近年では、ケロイド的性質が強いものなのか、肥厚性瘢痕的性質が強いものなのか、病変を比較的簡単に判定できるJSW Scar Scale(JSS)といった基準も作成されています。
治療
肥厚性瘢痕もケロイドも基本的な治療方法は同じです。通常はまず、薬物療法と圧迫固定療法が実施されます。薬物療法では、ステロイドや非ステロイド性の抗炎症薬(塗り薬や貼り薬)、保湿剤などの外用薬を基本に、抗炎症効果が期待できる内服薬やステロイドの注射薬などを用いることもあります。同時にサポーターや包帯などで患部を固定・圧迫して安静を保ち、過剰な血流を抑えて炎症を鎮めていきます。これらの方法で軽快せず、瘢痕拘縮という引きつれで関節が動かない状態になったときや、目立つ部位で傷痕が残りそうな場合などは外科手術の対象となり、瘢痕を切除して縫合したり、広範囲の場合は皮膚移植手術を行ったりします。目立たない傷痕にするため、Z形成術やW形成術など、さまざまな方法が使用されます。肥厚性瘢痕の再発は少ないため、放射線治療はほとんど用いられません。
予防/治療後の注意
肥厚性瘢痕を予防するには、傷痕を適切に保護して刺激を避けるような治療やセルフケアが有用で、受傷してしばらくの間は体を動かすときも注意が必要です。肥厚性瘢痕が痛む原因となる、血流が増加する過度な飲酒や長時間の入浴も避けたほうが良いでしょう。外傷や熱傷を負ったときに医療機関を受診するのはもちろんですが、自分で治ったと判断することなく医師の指示があるまで通院を続け、日常生活も医師の指示に従ってください。
こちらの記事の監修医師
小川 令 先生
1999年日本医科大学卒業後、同大学形成外科学教室に入局。米国ハーバード大学留学を経て、2015年から現職。日本医科大学形成外科学教室主任教授。専門は熱傷・瘢痕・創傷治療。
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