
こちらの記事の監修医師
公立学校共済組合 関東中央病院
病院長 小池 和彦 先生
かんせいのうしょう(かんせいこんすい)肝性脳症(肝性昏睡)
最終更新日:2022/04/04
概要
肝臓の機能の一つに、体内に入った、または体内で生成された有害物質を毒性の低い物質に変えて排出する解毒機能があります。肝臓の機能が大きく低下した肝不全の状態になると、正常なら肝臓で除去されるはずの有害物質が、血液中に蓄積して脳に達し、脳の機能が低下してさまざまな精神・神経症状が出現します。これが肝性脳症で、肝性昏睡と呼ばれることもあります。肝性脳症は急性肝不全、または慢性の場合では肝硬変によって起きることがほとんど。また、肝性脳症の初期段階は自覚症状が乏しく、気づかないことも多いようです。肝硬変になったら、定期的な通院を欠かさず、脳に症状が出ていないかをチェックするようにしましょう。
原因
肝臓には、腸管からの血管を集めた門脈という太い静脈がつながっています。栄養素などの物質は門脈から肝臓に入り、体が利用できる物質に変えられます。肝臓は同時に有害物質を毒性の低い物質に変える解毒作用を発揮しますが、肝機能が低下すると血液中に蓄積した有害物質が脳に移行し、脳症を発症するのです。脳症を引き起こす有害物質の一つは、腸管内で腸内細菌がタンパク質を分解する過程で生成するアンモニア。肝性脳症患者の多くは血液中のアンモニア濃度上昇が見られます。また、肝機能が低下するとアミノ酸のバランスが崩れますが、これも脳症の原因の一つとされています。肝性脳症の発症につながる肝臓病としては、急性の劇症肝炎と慢性の肝硬変が多数を占めます。肝硬変では門脈の血圧が異常に高くなって(門脈圧亢進症)、有害物質が肝臓を迂回して全身の血液循環に乗って脳に達する場合も。肝硬変にタンパク質の過剰摂取や消化管出血、薬の副作用などが重なって脳症を発症したり、悪化させたりするケースもよく見られます。
症状
肝性脳症の症状は精神神経症状で、重症度(昏睡度)によって5段階に分けられます。最も軽い1段階目では夜眠れずに昼に眠る、だらしない態度などですが、本人はあまり自覚症状を感じません。2段階目になると「羽ばたき振戦」という特有の症状が見られます。両腕を前に伸ばし手の甲を上にして保持しようとすると、手が小刻みに震えてしまう症状です。さらに進行すると興奮状態、意識混濁や幻覚などを伴う反抗的な態度なども見られるようになり、最も重い5段階目では痛みにも反応しない深い昏睡(完全な意識消失)状態になってしまいます。また、アミノ酸を分解する機能の異常により、かび臭く甘ったるい口臭がすることもあります。
検査・診断
肝性脳症のベースには肝機能低下がありますので、症状の問診とともに血液検査や画像診断により、肝機能や肝硬変の状態を検査します。問診では前項で紹介したような精神神経症状の出現を詳しくチェックします。特に「羽ばたき振戦」のテストは、早い段階で肝性脳症を発見するために重要な検査です。また、肝性脳症の診断に欠かせないのが血漿アンモニア値の検査で、診断だけでなく治療の際の指標にもなります。アミノ酸バランスの検査もよく実施されます。また、アンモニア値の上昇や顕著な精神神経症状のないミニマル肝性脳症といわれるタイプもあり、定量的精神神経機能検査というさらに詳細な検査が必要になることもあります。
治療
肝性脳症の治療は、大きく分けると原因とされている血液中のアンモニア濃度を下げる治療と、アミノ酸のバランスを整える治療、精神神経症状の治療があります。腸管内で生成されるアンモニア量を減少させるために、タンパク質の過剰摂取を避け、食物繊維を多く摂取する食事指導や、アンモニアを産生しにくい合成二糖類の内服、下剤による腸管内有害物質の排出、腸管から吸収されにくい抗菌薬の投与による腸内細菌叢の改善が行われます。また、栄養状態やアミノ酸バランスを整えるために分岐鎖アミノ酸の投与を実施。分岐鎖アミノ酸は内服薬だけでなく点滴薬もあり、昏睡状態などで口から飲めない場合に用いられます。昏睡状態の場合、血漿交換療法や吸着式血液浄化法などで有害物質を除去することも。また、脳症の発症や悪化に感染症や消化管出血、脱水、便秘、薬の副作用が関係することもあり、それらがある場合にはそれぞれの原因治療や薬の見直しを行います。精神症状が強い場合は精神病薬を使用して症状を抑えることもあります。
予防/治療後の注意
日常生活に注意することが、肝硬変になっても肝性脳症の発症や悪化の抑制に有用です。食事の基本はタンパク質の摂取量を少なめにして、野菜を多く取ることです。しかし、昏睡時以外には極端なタンパク質制限は勧められません。筋肉量が低下すると、かえって悪影響を与えることがわかってきたためです。肝硬変では腹水がたまることが多く、その治療で利尿薬が用いられます。利尿薬で脱水状態になると肝性脳症を発症することもあるため、こまめに水分補給してください。体の負担にならない程度の運動、規則正しく睡眠や食事を行い、便秘や睡眠不足を防ぐことも大切です。

こちらの記事の監修医師
病院長 小池 和彦 先生
東京大学医学部卒業後、同大学第一内科学教室入局。1986~1989年米国国立がん研究所フェロー、1991年東大第一内科助手、1997年同講師、2004年東大感染制御学・感染症内科学教授、2009年より東大消化器内科学教授などを歴任し、2021年4月に「関東中央病院」病院長に就任。日本消化器病学会理事長、日本肝臓学会理事、日本医学会連合理事、日本医学会幹事。
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