こちらの記事の監修医師
公立学校共済組合 関東中央病院
病院長 小池 和彦 先生
かんふぜん肝不全
最終更新日:2024/11/29
概要
肝不全とは、病気などによって肝臓の組織が損傷を受け、機能が大幅に低下した状態のことです。肝臓は、1.食物から吸収した栄養素からエネルギー物質を合成・貯蔵する、2.摂取した有害物質を毒性の低い物質に変えて排泄する、3.脂肪とタンパク質の分解、コレステロールの排出に必要な胆汁を分泌する、4.血液を凝固させる物質を作る、といった機能を担っています。これらの機能が低下すると、皮下出血、異常な低血圧、腹水、食道や胃の静脈瘤破裂、有害物質の蓄積による脳機能低下(肝性脳症)、血液中のカリウム濃度や血糖値の低下、腎不全などを引き起こし、場合によっては死に至ることも。肝不全は発症の仕方により、急性肝不全と慢性肝不全に分けられます。進行した肝不全では、黄疸(おうだん)という皮膚や白目が黄色くなる特徴的な症状が表れます。
原因
劇症肝炎ともいわれる急性肝不全。日本では年間400人程度発生していると推計されています。原因はB型肝炎ウイルスによるものが最も多く、次がA型肝炎ウイルスで、C型肝炎ウイルスから急性肝不全になるのはわずかです。また、薬物アレルギーや自己免疫の異常な反応で急性肝不全となることもあります。一方、慢性の肝炎などの病気が徐々に進行して起きる肝不全もあります。日本人で最も多いのはC型肝炎ウイルスを原因とする慢性肝炎で、次にB型肝炎ウイルス、アルコール性肝障害となっています。これらの肝炎が長く続くと、肝細胞が破壊され、肝臓表面がごつごつと硬くなった肝硬変という状態に。さらに進行すると肝がんの発症、腹水、肝性脳症、食道静脈瘤破裂など肝不全症状が出現することになります。また、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)という、飲酒量の少ない人に起きる肝疾患も近年、増加しています。これは肥満や糖尿病を原因とする疾患です。
症状
進行した肝不全では、黄疸という皮膚や白目が黄色くなる特徴的な症状が表れます。これは、本来は胆汁に交じって排泄されるビリルビンという色素が、肝臓の機能低下によって血液中に漏れ出てしまうことで起きます。肝不全から肝性脳症に進展すると、異常な震え、眠気、錯乱、昏睡などの症状が出現。他に皮下出血、異常な低血圧、腹水、食道や胃の静脈瘤破裂、血液中のカリウム濃度や血糖値の低下などをもたらすこともあります。急性肝不全ではこれらの症状が短期間に一気に出ますが、慢性肝炎や肝硬変の初期はほとんど自覚症状がありません。
検査・診断
症状の問診と身体診察、血液検査、腹部超音波検査が基本です。急性肝不全は、プロトロンビン時間という血液を固まらせる能力を評価し、一定の数値以下であれば急性肝不全と診断します。一方、慢性の肝臓病は肝機能の状態を継続的にチェックすることが重要です。肝臓で作られる酵素であるAST、ALT、胆管で作られる酵素であるγ-GTPなどの値で、肝臓の機能を評価します。アルコール性肝障害やNASHではγ-GTPが高い値を示すようになります。B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの検査も実施します。腹部超音波検査で肝炎、脂肪肝、肝硬変、肝がんなどの存在もわかるので、これらが疑われる場合は、必要に応じてCTやMRI、腹腔鏡検査、肝生検などの検査を追加して診断します。
治療
劇症肝炎に陥った場合は、血液ろ過透析や血漿交換を中心とした血液浄化療法(人工肝補助療法)、ステロイドの大量投与などが行われ、これで回復しない場合は肝移植が検討されます。慢性の場合も重症の肝不全に進行してしまってからの治療は同じですが、肝不全に陥る前に進行を抑制する治療を行うことが重要です。C型肝炎に対しては、近年、インターフェロンを使用しないで内服薬だけで治療できるようになりました。B型肝炎に対しても、インターフェロンと核酸アナログ製剤という内服薬で進行の抑制が見込めるようになってきています。アルコール性肝障害の治療は第一に断酒です。断酒を補助する薬として、飲酒すると不快な症状を起こす薬や飲酒欲求を抑える薬があります。NASHは、糖尿病や肥満、高コレステロール血症などが原因疾患であることが多いため、生活習慣の改善、特に減量が最も重要で、合わせて血糖やコレステロールを薬で適切に管理することで進行の抑制を図ります。
予防/治療後の注意
アルコール性肝障害やNASHの予防法は、日常生活で過度な飲酒、過度なカロリー摂取、運動不足を避ける生活習慣です。また、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染していないかどうか、一度検査を受けることが重要です。健診などでこれらの肝炎や肝障害の指摘を受けたら、無症状でも医療機関を受診しましょう。C型肝炎ウイルスは血液感染ですから、他人の血液に触れないことが予防法といえます。普通の生活を送っていれば感染リスクは低い疾患ですが、ピアスの穴開けはできれば医療機関に依頼しましょう。B型肝炎は血液以外の体液によっても感染し、感染力も強いため、性行為ではコンドームを適切に使用するなどの注意が必要です。
こちらの記事の監修医師
病院長 小池 和彦 先生
東京大学医学部卒業後、同大学第一内科学教室入局。1986~1989年米国国立がん研究所フェロー、1991年東大第一内科助手、1997年同講師、2004年東大感染制御学・感染症内科学教授、2009年より東大消化器内科学教授などを歴任し、2021年4月に「関東中央病院」病院長に就任。日本消化器病学会理事長、日本肝臓学会理事、日本医学会連合理事、日本医学会幹事。
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