こちらの記事の監修医師
東京慈恵会医科大学附属病院
皮膚科主任教授 朝比奈 昭彦 先生
らいむびょう(らいむぼれりあしょう)ライム病(ライムボレリア症)
最終更新日:2021/12/28
概要
ライム病とは、細菌(スピロヘータ)の一種「ボレリア」によって引き起こされる人獣共通の感染症です。自然界では野ネズミや鹿、野鳥などがボレリアを保菌しており、野生のマダニ科マダニ属のダニを介して感染します。マダニに刺された箇所とその周辺の皮膚が赤くなり、発熱や倦怠感、関節痛、頭痛など全身に症状が出ることが特徴です。欧米では年間数万人が発症しているといわれています。日本国内での発症者の報告数は年間10数件ほどと欧米に比べて少ないですが、森林開発やアウトドアのレジャー化を背景に増加傾向にあります。国内の場合、北海道を中心に本州中部以北での報告数が多いです。なお、全数報告対象の指定感染症なので、診断した医師は保健所に届け出る必要があります。
原因
ボレリアを保菌するマダニに刺されることで発症。人間から人間への感染や、ボレリアを保菌する野ネズミなどの動物から感染することはありません。国内では、シュルツェ・マダニに刺された後に発症するケースがほとんどです。このシュルツェ・マダニは北海道や本州、四国、九州の山間部のほか、北海道や青森県の一部の平野部で生息しています。ボレリアを保菌するマダニは、日本に生息するシュルツェ・マダニのほか、北米に生息するスカプラリス・マダニ、ヨーロッパで主に生息するリシヌス・マダニなどがあります。一般家庭内でよく見られるイエダニから感染することはありません。
症状
症状は感染初期(ステージ1)と播種期(ステージ2)、感染後期(ステージ3)に大きく分かれます。マダニに刺されてから1週間から10日ほどで発症し、感染初期の段階では刺された部分を中心に同心円状に広がる紅斑(遊走性紅斑)が出ることが多く、筋肉痛や関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感といった風邪やインフルエンザに似た症状が現れることも。治療せずにいると、リンパ液や血液などによる体内循環を介して病原体が全身性に拡散する播種期に移行し、遊走性紅斑の多発や関節炎、神経症状、眼症状などさまざまな症状が出現します。さらに放置すると、重度の慢性関節炎、慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性脳脊髄炎など感染後期の症状が見られるようになりますが、わが国の感染例では報告がありません。
検査・診断
問診ではまず数日以内にマダニに刺されたことがあるか、野山に入ったかなどを尋ねます。その上で、遊走性紅斑などライム病特有の症状が出ていないかを確認。ライム病が流行っている地域にいたことはあるが、マダニに噛まれたかがはっきりしていなかったり、目視での診断が難しかったりするような場合は、ボレリアそのものを検出するために、紅斑部分の皮膚生検や髄液を使った培養検査を行うことも。同様に、ボレリア特有の遺伝子の有無を調べるために、PCR法検査をすることもあります。 また、血清診断の場合は、ライム病ボレリアに対する特異抗体を確認します。これらの検査は、行政検査として最寄りの保険所を通じて依頼します。
治療
マダニに刺された直後、肌に虫体の一部が残ってしまった場合は、なるべく早く医療機関でその箇所を処置してもらいましょう。刺されてから24時間以内に排除できれば、感染する可能性が大幅に低くなります。発症した場合、治療には主に抗生物質を用います。遊走性紅斑にはドキシサイクリン、髄膜炎などの神経症状にはセフトリアキソンを使用することが一般的です。また、マダニに刺されたことで発症する「アナプラズマ症」にも重複して感染している可能性が高い場合には、ドキシサイクリンもしくはテトラサイクリンを治療に使います。多くの場合、薬を使ってから4~5日で症状の改善が期待できますが、再発の恐れがあるため最低10日間は内服します。ただし、発熱や倦怠感などの全身症状が強く、遊走性紅斑が広範囲に広がっている場合は、治療に3週間から1ヵ月かかることも。また顔面神経まひを伴う場合は、2週間ほど入院して点滴治療を行うことがあります。
予防/治療後の注意
ワクチンがないため、マダニに刺されないのが最も有効な予防法です。マダニの活動が活発になる春から秋にかけて野山に出かける場合、虫よけスプレーをしているからといって、むやみに藪に近寄らないようにしましょう。長袖長ズボンで手袋や帽子を着用するなど、肌の露出をできるだけ抑えた服装を心がけてください。虫がつきにくい、布目が細かくて表面の滑らかな白っぽい服を着ることも虫よけには有効とされています。また、万一マダニに刺されてしまい、その虫体が残っている場合は、なるべく早く医療機関を受診して処置してもらいましょう。
こちらの記事の監修医師
東京慈恵会医科大学附属病院
皮膚科主任教授 朝比奈 昭彦 先生
1987年に東京大学医学部卒業後、同大学医学部皮膚科へ入局。米国MGH-Harvard Cutaneous Biology Research Centerへの留学を経て、1998年東京大学医学部皮膚科の講師、2001年同科助教授となる。2005年には相模原病院皮膚科で医長を務めながら、国立病院機構臨床研究センターで室長も併任した。2014年東京慈恵会医科大学皮膚科の准教授に就任。2018年より現職。皮膚免疫学、乾癬、アトピー性皮膚炎を専門領域とする。日本皮膚科学会皮膚科専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、日本レーザー医学会レーザー専門医の資格を持つ。日本乾癬学会では理事も務めている。
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