
こちらの記事の監修医師
公益社団法人東京都教職員互助会 三楽病院
副院長 木村 雅弘 先生
がいしょうせいかたかんせつだっきゅう外傷性肩関節脱臼
最終更新日:2021/12/22
概要
人間の体の関節の中で最も可動域が大きい肩関節は、骨による構造が浅いため、関節包(関節を囲んでいる袋状の膜)や関節唇(肩関節を安定させ、衝撃を吸収する繊維性の軟骨)などに周囲を補強されているが、最も外れやすい関節の一つである。外傷性肩関節脱臼は、肩の関節のかみ合わせがずれ、激痛のため動かせなくなるいわゆる「肩が外れた」状態で、上腕骨の骨折を伴うこともある。繰り返しやすい肩の障害の一つで、初めて脱臼した年齢が20歳以下の若年者の場合、その後も脱臼を繰り返す「反復性肩関節脱臼」になる確率は80%に達する。
原因
外傷性肩関節脱臼は、肩関節が外部からの強い力で外転(上のほうへ回すこと)・伸展(伸ばすこと)・外旋(外側へひねること)させられることなどによって、関節で肩甲骨に連結されていた上腕骨頭(上腕骨の先)が関節の外に押し出されることで生じる。ラグビー、アメリカンフットボールや柔道、レスリングなどのコンタクトスポーツにおける競技中の強い衝撃や、スキーやスノーボードによる転倒で多く発生する。また、日常生活中の転倒や交通事故の際に強い外力が加わることで起こることもある。手を上げた状態で後ろ向きに力が加わったり、転倒時に後ろに手をついたりしたときに起こりやすい。1度脱臼すると関節のストッパー構造が壊れて、その後、より弱い外力で脱臼を起こしやすくなる。
症状
肩関節の痛みや腫れ、変形があり、関節の可動域が制限される。脱臼時に神経の損傷が起こって肩にしびれや血行障害を伴うこともある。上腕骨頭が外れる方向として、肩の前のほうに外れる前方脱臼と後ろのほうに外れる後方脱臼が主であるが、前方脱臼が多い。1度脱臼すると、より弱い外力で脱臼を起こしやすくなり、脱臼を繰り返すたびにさらにその傾向が強まる。
検査・診断
まずは問診で、いつ、どのようなスポーツでどのような衝撃を受けたのか、またはどのような場所でどのように転んだのか、といったシチュエーションを具体的に確認していく。その上で、患部を触って確かめる触診、患者の肩の高さや骨格を見る視診を行い、脱臼の全体像を把握する。最終的にはエックス線検査、CT検査、MRI検査などで脱臼の位置を確定。併せて骨折の有無や軟部組織の損傷の程度などを調べる。症状によっては、造影剤や空気を関節内に注入し、エックス線やCTで撮影する関節造影も行われる。
治療
まずは手による整復術を行い、関節を適切な位置に戻す。そしてエックス線撮影で整復位を確認した上で、包帯や三角巾、肩専用の装具などで約4週間固定する。その後、リハビリテーションで肩の動きを改善していく。リハビリテーションでは、手が体の前に位置する範囲内で上半身のトレーニングを行うことが多い。しかし、リハビリテーションによって肩の働きが改善したとしても、その後も脱臼を繰り返す「反復性肩関節脱臼」になる確率は高く、初回の脱臼から2年以内に多く発生している。スポーツ選手が競技への早期復帰をめざす場合などには手術も検討される。手術には、肩を切り開いて行う直視下手術と関節鏡で行う手術がある。後者では関節を開かずに、糸つきアンカーを肩甲骨の関節面に打ち込み、緩んだ関節唇や関節内靱帯を修復する。このような手術を行えば再発率は10%以下に下がるが、コンタクトスポーツの場合、競技復帰には手術後約6ヵ月を要する。なお、脱臼の回数を多く重ねると手術の成果が下がるともいわれている。
予防/治療後の注意
治療後、関節の修復が十分でない時期に運動を始めると再発しやすいため、固定期間を守ることが重要である。若い人はもともと関節が柔らかく反復性脱臼になりやすいので固定期間を長めにする。手術を受けた場合には、術後3週間程度は装具を使って肩をできるだけ安静に保ち、修復部位の治癒を待つ。その後2~3ヵ月間はリハビリテーションで慎重に関節可動域訓練を行い、柔軟性を取り戻していく。関節可動域が回復してきた後に筋力トレーニングやそれぞれの競技において要求される運動機能の改善をめざす。手術後4~6ヵ月で競技に戻ることが目標になるが、その時期は競技の特性や手術後の経過に応じて決定される。医師の指導のもと適切なリハビリテーションを行うことで再発を防止し、反復化させないよう努めることが大切である。

こちらの記事の監修医師
副院長 木村 雅弘 先生
1983年東京大学医学部卒業。股関節・膝関節変性疾患が専門。特に人工関節の手術を得意とし、新たな技術開発にも積極的に取り組んでいる。日本整形外科学会整形外科専門医。
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