こちらの記事の監修医師
荏原病院
感染症内科 中村(内山)ふくみ先生
じんしょうこうせいしゅっけつねつ腎症候性出血熱
最終更新日:2021/11/26
概要
ネズミなどのげっ歯類の一部が持つ「ハンタウイルス」に感染することによって発症する熱性・腎性疾患。腎症候性出血熱を起こすハンタウイルスは極東アジアから東欧、北欧などを主とするユーラシア大陸全域での分布が確認されている。人への感染は、流行地域でウイルスを保有するネズミの排せつ物が粘膜や傷口などに触れたり、排せつ物が付着したほこりなどを吸い込んだりすることで起こる。もちろん、ウイルスを持った動物に直接噛まれることによっても感染する。日本では1960~80年代にかけて、大阪市内での散発事例や、ウイルス感染ラットの飼育者が死亡した例などの報告があるが、その後は見られていない。
原因
さまざまな種類のげっ歯類が自然界では自然宿主となっている。その感染げっ歯類は自らが病気を発症することはないが、終生感染した状態が続くので、死ぬまで排せつのたびにウイルスをまき散らす。そういったウイルスを保有するげっ歯類の排せつ物に触れたり、ウイルスに汚染されたほこりなどを吸い込むことで人は腎症候性出血熱を発症する。したがってネズミの尿や糞に汚染された密閉空間などは非常に感染リスクが高い。しかし、これまでの流行状況から人から人への感染は起こらないとされている。なお、腎症候性出血熱の原因となるハンタウイルスは、現在少なくとも23の血清型もしくは遺伝子型に分けられるとされているが、それぞれの型ごとに特有の種類のげっ歯類が自然宿主となっていることも特徴だ。その中でも腎症候性出血熱の原因となるウイルスは4種類あり、ドブネズミ、ヤチネズミ、セスジネズミなどが自然宿主となるという。これらのネズミには十分注意したい。
症状
潜伏期は1〜2週間で、まれに8週間程度経過して発症することもある。重症度はさまざまで、軽症の場合は風邪のような症状、微熱、軽度な尿の異常などを経て回復に向かう。重症型では発熱、悪寒、筋肉痛、脱力、めまいなど、インフルエンザに類似した初期症状、また顔面紅潮や点状出血、結膜充血が見られることがあり、その後にショック症状(全身に十分な血液が送られないために、あらゆる障害が起こる状態)、乏尿、タンパク尿などの腎臓の機能障害が見られるケースが多い。患者の3分の1に皮下出血、歯茎からの出血、消化管出血などの出血傾向を伴う。
検査・診断
腎症候性出血熱は、感染症法において、都道府県知事に届け出の義務がある四類感染症に分類されている。ハンタウイルスに感染している可能性がある患者がいた場合、医師は保健所に相談する。地方衛生研究所では「酵素免疫測定(ELISA)法」や「中和抗体法(NT)」、「間接蛍光抗体法(IFA)」などの手法を用いて患者の血液中のウイルス遺伝子や抗体の検出などを実施している。もし確定診断に対応できない事態が発生すれば、国立感染症研究所が診断にあたる。
治療
現在のところ根本的な治療はなく、有効なワクチンも存在しない。対症療法として呼吸管理と血圧管理を行う必要がある。また、重篤な症状として急性腎不全を起こす可能性もあるので、人工透析を要する場合もあることを考慮しておく。
予防/治療後の注意
主な感染源であるネズミが、生活環境に巣を作ることを防ぐことが第一だ。そのためには「ネズミが巣を作りそうな場所をなくす」「ネズミの目につきそうな場所に食物を置かない」「殺鼠剤やネズミ取りを使い捕獲する」「ネズミが出入りできそうな穴を塞ぐ」ことが効果的だ。その他にも「ネズミがいると思われる建物に入るときには必ず空気の入れ替えをする」「激しく動き回らずほこりを舞い上げない」などの方法がある。また、原因となるハンタウイルスは、薄めたブリーチ、洗剤、一般的な消毒液で消毒可能なので、汚染されている可能性がある場所や物はこれらを用いてこまめに掃除する。
こちらの記事の監修医師
感染症内科 中村(内山)ふくみ先生
1996年、宮崎医科大学卒業。宮崎医科大学寄生虫学教室、墨東病院感染症科、奈良県立医科大学病原体・感染防御医学/感染症センターにて基礎医学・臨床の両面から感染症に携わる。2016年4月より現職。日本内科学会総合内科専門医、日本感染症学会感染症専門医の資格を持つ。
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