こちらの記事の監修医師
東邦大学医療センター大橋病院 婦人科
田中 京子 先生
にんしんこうけつあつしょうこうぐん妊娠高血圧症候群
最終更新日:2021/12/27
概要
妊娠20週~産後12週までに血圧が上がった状態をいう。さらに、高血圧のみの場合は「妊娠高血圧症」、高血圧とタンパク尿を認める場合は「妊娠高血圧腎症」、妊娠前や20週目以前に妊娠高血圧症と診断され、その後、妊娠後期に血圧が悪化、もしくはタンパク尿がみられた場合は「加重型妊娠高血圧腎症」と呼ばれる。2018年からはタンパク尿を認めなくても、肝機能障害、腎機能障害、神経障害、血液凝固障害や胎児の発育不良があれば、妊娠高血圧腎症と分類される。妊娠高血圧症候群になると、子癇(しかん)というけいれん発作や脳血管障害などを合併しやすくなる。また妊娠32週未満で発症した場合は、重症化しやすいため注意が必要。妊娠前または妊娠20週までに高血圧と分かった場合には、高血圧合併妊娠という。妊婦20人につき1人の割合で発症する。以前は、妊娠中毒症と呼ばれていた。
原因
原因についての研究は進んでいるが、はっきりとした理由は不明。リスク要因として、糖尿病や高血圧、腎臓の病気をもともと持っている、肥満、母体の年齢が40歳以上である、家族に高血圧患者がいる、双子などの多胎妊娠、初産婦、以前の妊娠で妊娠高血圧症候群になったことがある、などが挙げられる。母体から胎児に酸素や栄養を補給する役割を担う胎盤でさまざまな物質が異常に作られるため、全身の血管に作用するために発病するのではないかとも言われている。
症状
自覚症状はほとんどなく、妊婦健診で異常が見つかることが多い。妊娠20週以降~産後12週に、収縮期血圧が140mmHg以上(重症の場合、160mmHg以上)、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上(重症の場合、110mmHg以上)の高血圧症状がみられるほか、一晩休んでも取れないほどの手足のむくみや、尿にタンパクが含まれるといった症状も現れる。重篤になると、子癇(けいれん発作)、脳出血、肺水腫、肝機能障害、HELLP症候群、腎機能障害、常位胎盤早期剝離、胎児発育不全、胎児機能不全などの合併症が現れることもある。最悪の場合、胎児が亡くなるケースも。
検査・診断
基本の検査としては、血圧測定と尿検査による尿中タンパクの測定を行う。6時間以上空けて2回以上収縮血圧が140mmHg以上、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上、またはその両方がみられる場合に高血圧と診断される。妊婦健診の尿検査で蛋白尿+1の結果が得られても、精密検査でではその結果が偽陽性であることがよくある。そのため、きちんとした診断を下すためには、24時間の尿を集めて1日のタンパク尿の正確な測定を要する。そのほか、腹部超音波検査をしたり、NST(ノンストレステスト)で胎児の状態を調べたり、脳出血がないかどうかを確認する頭部MRI検査を行うこともある。
治療
症状の重さ、発症時の妊娠週数、胎児の状態などを総合的に判断して治療を行う。軽度の場合は、原則として薬は使用せず、食事療法(総摂取カロリーや塩分の制限)や、自宅での安静により十分な睡眠とストレスをためない生活を心がけて経過を見ていく。一方、重度の場合は入院して、安静にすることが大切。必要な場合は胎児への影響を考慮した上で、血圧を下げるための薬を使ったり、子癇(けいれん)予防の点滴注射を行う。また母子ともに危険である場合は、緊急の帝王切開もしくは分娩誘発を行うこともある。妊娠高血圧症候群を完全に治す方法は不明であるものの、妊娠を終わらせる(出産する)ことで母体の症状が急速によくなるのがこの病気の特徴である。重症化した場合は、産後も高血圧やタンパク尿の症状が続くことがあるため、フォローアップが必要となる。
予防/治療後の注意
はっきりとした予防法はわかっていないが、定期健診をきちんと受診し、適切な周産期管理を受けることが大切。また、もともと高血圧や腎臓の疾患、糖尿病などの持病がある人、肥満体型、35歳以上、15歳未満、多胎妊娠の人などは発症しやすい傾向にあるため、注意が必要。水分摂取制限や利尿剤の使用は血栓症のリスクを高めるため、主治医の指導のもとで管理を受けること。また、妊娠高血圧症候群にかかった人はそうでない人と比べ、産後メタボリックシンドロームや腎疾患などが見つかる場合があるため、産後も食事や生活習慣に注意する。
こちらの記事の監修医師
田中 京子 先生
慶応義塾大学卒業後、同大学病院、国立病院機構埼玉病院産婦人科医長を経て、東邦大学医療センター大橋病院の准教授へ就任。日本産婦人科学会産婦人科専門医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医の資格を持つ。
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