
こちらの記事の監修医師
村山医療センター
手外科部門長 加藤 直樹 先生
ちゅうぶかんしょうこうぐん肘部管症候群
最終更新日:2022/01/06
概要
肘の内側には肘部管というトンネルがあり、靭帯や骨でできた壁からなっている。ここには上腕から尺骨神経と呼ばれる神経が指先に向かって通っており、主に手の小指側の動きや知覚をつかさどっている。肘部管症候群とは、この肘部管において尺骨神経が圧迫されたり、引っ張られたりして障害を受けることで、細かい手の動きができなくなったり、小指や薬指にしびれが出たりする病気のこと。よく見られる末梢神経障害(末梢神経に起こる病気の総称)の一つで、男女関係なく、すべての年代において発症する可能性がある。
原因
スポーツや仕事などで、肘を酷使する生活を続けてきた人はなりやすいといわれている。例えばスポーツに関しては野球選手、特に投手に多く、ボールをたくさん投げ、球種によっては肘をひねるような投げ方をするため、肘に対する負荷がかかりやすいといわれる。また職業については、大工など肘の曲げ伸ばしをする動作が多い人によく見られる。そのほかにも、加齢に伴う肘の変形、肘部管にある靭帯やガングリオンと呼ばれるゼリー状の物質が詰まったこぶによる圧迫など、さまざまな原因によって発症する。さらに、子どもの頃に肘を骨折したり脱臼したりした経験がある人は、肘を伸ばしたときに外側に反る外反肘、反対に内側に反る内反肘になることがあり、肘部管症候群を発症するリスクになるといわれている。なお、こうした要因が見当たらない、原因不明のケースもある。
症状
初期には、小指や薬指、小指側の手の側面にピリピリ、チクチクしたしびれを感じ、肘を曲げていると症状が増してくるのが特徴。また、前腕に痛みを感じることもある。ちなみに薬指のしびれは、尺骨神経がつかさどる領域の関係で、小指側半分にしか出ない。症状が進むと、指の筋肉が衰え始め、指先の細かい動作ができなくなってくる。同時に、指を開けたり閉じたりといった動きもうまくできなくなり、水をすくった時に指の間からこぼれてしまったりする。さらに進行して重症化すると、手の筋肉が痩せ、手がかぎ爪のような形に変形したりする。
検査・診断
出ている症状を見ることである程度診断できるので、診察を基本に必要に応じて画像検査を行う。まず肘の内側を軽く叩いてみて、小指と薬指の一部がしびれるかを確認する。加えて、しびれが肘を曲げたときに増すかどうかや、指の筋肉が萎縮していないかなど特徴的な症状が見られるかをチェックする。過去のケガの経験や年齢から肘の変形が疑われる場合や、ガングリオンによる影響が予想される場合は、エックス線検査や超音波(エコー)検査、MRI検査などの画像検査を行い、原因を特定する。さらに、尺骨神経に電気刺激を与えて、刺激の伝わる速度など反応を調べる神経伝導検査も診断に役立つ。
治療
しびれや痛みが軽い場合は、手術をせずに回復をめざす保存療法を行う。まず肘を一時的に固定し、安静にする。スポーツや仕事による使いすぎが原因の場合は一旦休息を取り、日常生活で肘に負担をかける動きをしないようにする。炎症の程度がひどくなければ、こうした工夫によって症状の改善が見込める。また、痛み止めや神経の回復を促す薬の服用などを行い、炎症が治まるのを待つ。一方、症状が進行していて安静や薬などによる治療の効果が見られない場合は、手術を行う。尺骨神経を圧迫している靭帯を切り離したり、ガングリオンがある場合は切除したり、圧迫の原因を取り除くことが目的となる。ケースによっては、肘の変形に対する治療が行われることもある。そして治療後は、指を動かす機能の回復や衰えた指の筋肉を鍛えるために、リハビリテーションを行う。
予防/治療後の注意
肘部管の予防方法は基本的に存在しない。大切なことは手の筋肉の萎縮が生じてくるまで放置せず、早期に医療機関を受診し、しびれの段階で神経の圧迫を解除することである。神経の手術は圧迫を解除しても直ちに良くなるわけではなく、時間をかけて回復していくものであり、手の筋肉が痩せてしまって、指の変形が生じてしまうと時に回復が得られることが困難になる。また、治療後は肘の内側を圧迫するような行為は尺骨神経を障害する危険性があるため慎むこと。

こちらの記事の監修医師
手外科部門長 加藤 直樹 先生
1994年防衛医科大学校卒業後、同大学校病院整形外科に入局し、手外科を専攻する。英国留学、防衛医科大学校整形外科講師、埼玉医科大学整形外科講師、埼玉手外科研究所副所長を経て、2018年から現職。手外科治療の豊富な診療と研究経験から、手・肘の外傷、手指の機能再建、末梢神経損傷・障害の治療を得意とする。日本整形外科学会整形外科専門医。
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