こちらの記事の監修医師
公益社団法人東京都教職員互助会 三楽病院
副院長 木村 雅弘 先生
せんてんせいこかんせつだっきゅう先天性股関節脱臼
最終更新日:2021/12/27
概要
出生前や出産後の発育の過程で、股関節が脱臼を起こしてしまった状態。男児よりも女児に多い傾向がある。「先天性」というものの、生まれた直後から脱臼が見られるケースは少なく、もともと不完全な状態の関節が、抱き方やおむつの当て方などの影響を受けて徐々に脱臼しまうことが多いといわれる。そのため、最近は臼蓋形成不全(大腿骨の先端部分を受け止めている臼蓋の形状が不完全なこと)や亜脱臼(関節が外れかかっている状態)を含め、「発育性股関節形成不全」と呼ばれるようになっている。放置すると股関節の軟骨がすり減り変形してしまう、変形性股関節に進行する可能性がある。
原因
大腿骨を受け止めている臼蓋という部分が浅く脱臼しやすいことや、関節が動く方向は正常だが、動きの程度が通常よりも大きい関節弛緩性などが原因であるといわれている。また、骨盤位分娩(いわゆる逆子)で生まれた子どもは、そうでない場合に比べて発症する頻度が高いとされる。外的な要因としては、股関節の動きが制限されるような窮屈なおむつのつけ方、左右のどちらか一方ばかりに体を向ける向き癖などが挙げられる。1970年以前の日本では、脚を強制的に伸ばすような姿勢になる布の巻きおむつなどが一般的に使われていたことで、新生児の100人に2~3人の割合で股関節脱臼が見られていたといわれる。しかし現在は、股関節への負担が少ない紙おむつが主流となり、また、正しい抱っこの仕方が浸透したことにより、発症率は1000人に対して1~3人と低くなっている。
症状
見た目の症状としては、左右の脚の長さが違う、太もものしわやお尻の形が左右で非対称といった状態を確認できる。また、脚を曲げた状態で股を広げたときに、脱臼しているほうの股関節が十分に開かない。年長児の場合は、腰椎の反りが強かったり、脱臼しているほうの脚で立ったときに反対側の骨盤が下がるトレンデレンブルグ徴候があったりして、姿勢や歩き方に異常が見られる。なお、痛みなどの自覚症状はないといわれ、おむつ替えの際に脚が開きにくかったり、1人で歩くようになった頃に歩き方に異常があったりして、親や周囲の人が気づくことが多い。
検査・診断
先天性股関節脱臼は通常、生後3~4ヵ月頃の乳児健診において、医師がその徴候がないかどうかをチェックする。脚の動きや長さの左右差、太もものしわ、お尻の形などを視診にて確認するほか、股関節に触れた状態で脚を動かし、その動きや「コキ」という特徴的な音が鳴るかどうかを調べるクリックテストにより診断する。ただ、診察のみで診断を下すことは難しく、医師の感覚による部分もあるため見逃しの可能性も否定できない。そのため、より正確に状態を確認するために、エックス線検査や超音波(エコー)検査が行われることもある。特に超音波検査は股関節の動きを観察しやすく、放射線被ばくの面においてもメリットがあり、優れているとされる。
治療
リーメンビューゲルと呼ばれる専用の装具を使って股関節を常に90度以上曲げた状態に保つ「リーメンビューゲル法」という治療法により、多くは改善に向かうといわれる。この方法で良くならない場合は、機械で脚を引っ張って治すけん引治療や、全身麻酔をした上で脱臼した関節を手で元に戻す治療、手術で脱臼の原因となっている要素を取り除く観血的整復と呼ばれる治療が行われる。特に1歳以降では、手術が必要になるケースが多いといわれている。また手術で改善されても、臼蓋が浅いなどの理由で再び脱臼する恐れがある場合や治療後に障害が残る可能性がある場合は、補正手術が必要となることもある。骨盤の骨を切って臼蓋の形成不全をカバーする方法、大腿骨の先端からやや下の部分を切除して角度を変えて固定し、臼蓋に沿う部分の骨の形を変化させる方法などがあり、症例に合わせて適切な方法が選択される。
予防/治療後の注意
脚が自由に曲げられず強制的に伸ばされている状態が良くないため、締めつけの強い洋服の着用や巻きおむつを使用する際は注意し、通常の紙おむつでも適切に装着することが大切。また抱っこは、「コアラ抱っこ」と呼ばれる正面で向き合う形が望ましいとされ、脚を曲げられない横向きのベビースリングの使用は避けたほうが良いという意見もある。さらに、向き癖がある場合には、反対側から話しかけるようにする、タオルなどを使って向き癖がある側の頭から体までを持ち上げるといった工夫が、予防につながるといわれている。
こちらの記事の監修医師
副院長 木村 雅弘 先生
1983年東京大学医学部卒業。股関節・膝関節変性疾患が専門。特に人工関節の手術を得意とし、新たな技術開発にも積極的に取り組んでいる。日本整形外科学会整形外科専門医。
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