こちらの記事の監修医師
昭和病院企業団 公立昭和病院
上西 紀夫 院長
しょくどうがん食道がん
最終更新日:2022/01/06
概要
喉と胃をつなぐ、約25cmの食道にできる悪性腫瘍(がん)。食道の表面から発症し始め、がんが進行すると深い層まで侵されることに。粘膜内だけにあるものを「早期食道がん」と呼び、粘膜下層まで至るものを「表在食道がん」、それ以上に深い層まで進行しているものを「進行食道がん」という。日本人の場合、約半数が食道の中央付近から発症し、人によっては同時に複数のがんができることも。がんが進行すると、リンパ節やほかの臓器にまで転移してしまうため、早期発見・早期治療が不可欠。初期段階では自覚症状がほとんどないことから、健康診断など定期的な検診が必要になる。なお、女性よりも男性に多いがんとして知られている。
原因
最も大きな原因は、飲酒と喫煙。アルコールが体内で代謝されてできる「アセトアルデヒド」が発がん性物質として知られており、このアセトアルデヒドをさらに分解するための酵素の働きが弱い人は、食道がんになりやすい。この体質を持つ場合、少しのアルコールでも顔が赤くなってしまうため、心当たりのある人は要注意。特に、もともとはアルコールで酔いやすい体質であったにもかかわらず、慣れてきて飲酒量が増えてしまうと、食道がんの危険性は高まるといわれている。また、タバコの煙は発がん性物質をたくさん含んでいることから、食道がんを発症しやすくなる。タバコの煙を周囲の人が吸い込んでしまう受動喫煙も影響が大きいため、注意しなければいけない。飲酒に加えて喫煙の習慣がある人は、さらに食道がんの危険性が高まることに。
症状
初期の段階では、あまり自覚症状を持たないケースがほとんど。がんが進行すると、「食べ物を飲み込むときに、胸がチクチクと痛む」、「熱いものを飲むときにしみる」、「食べ物がつかえる感じがして、うまく飲み込めない」などといった症状が出てくるようになる。がんが周りの臓器やリンパ節にまで広がってしまうと、胸の奥や背中に痛みを感じたり、たんに血が混じったりするように。さらに、食欲の減退や、体重の減少が見られるほか、咳や声のかすれなど、さまざまな症状が現れてくる。
検査・診断
バリウムを飲みエックス線写真を撮影する上部消化管造影検査や、上部消化管内視鏡検査などを行う。自覚症状がほとんどない初期の段階では、健康診断などで実施されるそれらの検査でがんが見つかることも。がんが見つかったら、超音波(エコー)内視鏡検査やがん細胞を調べる病理検査などによって、がんのタイプや「どの層まで深く広がっているか」を確認し、食道がんの進行具合や治療方法などを判断する基準とする。また、リンパ節やほかの臓器への転移がないかを調べるために、頸部超音波検査や腹部超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査、血液検査などを行い、総合的に診断していく。
治療
がんの進行の程度を確認した上で、それぞれの段階に応じた治療を進めていく。例えば、ごく初期の段階で、がんが粘膜の表面にとどまっている場合、口から内視鏡を入れてがんを摘出する内視鏡治療を行い、その後は経過観察になるのが基本。がんが粘膜の表面から下へ進行してしまっている場合は、大きさやリンパ節への転移の有無などに応じて手術や放射線治療、抗がん剤を用いた化学療法などを行っていく。がんが進行している場合は、手術の前に放射線治療や化学療法を行うこともある。体力的に手術が難しいと考えられるときには、放射線治療と化学療法を組み合わせた治療を行う。なお、がんによる痛みが激しい場合は、緩和治療などに力を注いでいくことになる。
予防/治療後の注意
飲酒と喫煙が発症のリスクを高めることがわかっているため、可能なかぎり禁酒・禁煙に努めること。また、食道がんは早期発見・早期治療ができれば、比較的良好な治療後の5年生存率が得られる。そのため、定期的に健康診断、特に内視鏡検査を受けることが大切。食事をする際など、少しでも違和感を覚えた場合は、早めに医師の診断を受けること。
こちらの記事の監修医師
上西 紀夫 院長
1974年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部第三外科学教室に入局。1977年から2008年まで東京大学医学系研究科消化管外科分野の教授を務める。2008年公立昭和病院院長に就任。2009年から2013年まで日本消化器内視鏡学会理事長を務める。専門は胃がん、食道がんの診断と治療、消化器がん発生機序の解明、消化管疾患の病態生理、消化器内視鏡、外科侵襲。東京大学名誉教授、医学博士。
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