野原 正一郎 院長の独自取材記事
野原内科循環器科医院
(久留米市/西鉄久留米駅)
最終更新日:2026/03/11
日吉町バス停から徒歩7分、閑静な住宅街にある「野原内科循環器科医院」。同院は前身である高橋医院の時代から数えると、この地での医療を続けて約65年になる。野原正一郎院長は、大学病院で心不全治療や救急の前線に立ってきた循環器のスペシャリスト。2025年に3代目として継承。穏やかな笑顔で患者を迎える。「終末像を知っているからこそ、病気になる前のこと、進展させないことの大切さがわかる」と語り、重症患者を診てきた経験を地域の予防医療に還元したいと強い思いを持つ。患者を不安にさせないことを第一に考える院長に、3代にわたる地域医療や心不全予防への取り組みについて聞いた。
(取材日2026年1月22日)
3代続く地域医療を、循環器の専門家として継承
まずはクリニックについてご紹介いただけますか。

当院は1996年に、当時久留米ではまだ少なかった心臓専門クリニックとして開業しました。父が循環器、母は糖尿病を専門としており、2人体制で内科診療を中心に地域の健康を支えてきました。この場所は、もともと祖父が「高橋医院」を構えていました。祖父は消化器が専門でしたが、風邪をはじめ何でも診る町医者として親しまれていました。そのため、祖父の代から数えると、この地域で60年以上にわたり医療を続けてきたことになります。そして2025年に私が継承しました。最近では、幼少期にお世話になった近所の方々や、友人のご家族が来院される機会も増え、地域とのつながりを改めて実感しています。
先生が医師を志し、循環器を専門にされた経緯を伺います。
自宅の隣が両親の働く医院だったので、地域の健康を支える医師という仕事を自然に自分の進む道として意識していました。循環器を専門にする契機となったのは、初期研修時に重症の心臓病患者さんを担当した経験で、緊急治療の末に歩いて退院された姿が強く心に残りました。命に直結する領域である一方、心不全や高血圧などの疾患では長期にわたり患者さんを支えていく役割も担っており、そこにもやりがいを感じました。大学病院では心不全の専門グループに所属し外来や入院・救急まで幅広い診療に携わってきました。
継承にあたり、どのようなことを大切にされていますか。

患者さんに不安なく通っていただけることが一番です。30年以上通い続けてくださっている方の中には、診察だけでなく、父や母と顔を合わせ言葉を交わすことで安心されている方も少なくありません。ですから、病気のことだけでなく、患者さんの生活背景やそれぞれのお人柄まで含めて、丁寧に引き継ぎました。また、私自身は救急や大学病院で重症の方を診てきた経験があります。心不全の終末像を知っているからこそ、病気になる前のこと、病気を進展させないことの大切さを身をもって理解しています。その経験を地域に還元し、皆さんの健康度を上げていきたいですね。
心不全の終末像を知るからこそ、予防に力を注ぐ
ご専門の心不全について、どのような診療をされていますか。

心不全は一つの病気ではなく、心臓が全身に十分な血液を送り出せなくなった状態の総称であり、進み具合によって治療の考え方が変わります。高血圧や糖尿病といった生活習慣病は、将来の心不全につながる「入り口」と考えられており、この段階であれば適切な治療や生活管理によって心不全を予防できる可能性が見込めます。次に、心臓の病気はあるものの、まだ心不全の症状が出ていない方には、症状の出現を遅らせ、重症化を防ぐための治療を行います。そして、すでに心不全を発症している方には、日常生活の負担を軽減しつつ症状のコントロールを図り、再発や悪化を防ぐための治療を行います。大学病院では専門的な外来のため、診療日も限られていましたが、クリニックでは毎日外来を行っているため、患者さんの状態を細かく把握できるという強みがありますし、予防の面でも、開業医が果たす役割は非常に大きいと考えています。
心不全の予防という観点では、どのようなことが大切ですか。
高血圧症、糖尿病、高コレステロール血症といった生活習慣病を管理することが、心不全の予防につながります。ひいては狭心症や心筋梗塞、不整脈といった循環器の病気の予防にもつながりますから、非常に重要です。治療では、年齢や数値などに応じて薬も使用しますが、同時に生活改善にもしっかり取り組む方針を大切にしています。生活習慣が変わらないままでは、薬を飲んで一時的に良くなっても、また悪くなって2種類目、3種類目……と薬が増えていくことが少なくないですからね。当院では、一人暮らしや仕事が忙しい方、ご高齢のご夫婦など、それぞれのライフスタイルに合わせて管理栄養士が食事のアドバイスを行っています。時にご家族と一緒にお話しをしながら、暮らしに寄り添った無理のない提案を続けることで、改善をめざします。医療者だけでなく、患者さんと一緒に目標を立て、治療に取り組んでいくことが大切ですね。
患者さんと向き合う上で大切にされていることは?

同じ病気でも患者さんごとの価値観や生活環境は違います。ですから、その方に一番合った病気への向き合い方や治療法を考えるようにしています。特に生活習慣病は自覚症状がないことが多く、「症状がないのにお薬を飲む」ことに抵抗を感じるお気持ちは私自身もよく理解できます。しかしいつの間にか病状が進行し、深刻な状態に陥ることもあるので、患者さんご自身が十分に理解し、納得した上で治療を続けることが大切だと考えています。また、治療に前向きになれない背景には、仕事やご家庭の事情などの理由があることも少なくありません。健診で何度も指摘されてから受診される場合もありますが、そこに至るまでには迷いや葛藤があったはずです。だからこそ、治療を始めるにあたっては、これから前向きに取り組んでいけるよう、お声がけするようにしています。
年齢に伴う体調の変化も、忙しい世代の健康も支えたい
地域のかかりつけ医として、どのような役割を果たしていきたいですか。

当院は循環器専門ですが、体調不良や風邪の方はもちろん、「どの診療科にかかるべきかわからない」といったご相談も気軽にしていただきたいですね。 また、健診結果などで「どういう意味なんだろう」と気になることや不安がある場合には、内容を整理しながら丁寧にご説明します。そのためにも、何でも話してもらえる雰囲気を大切にしています。心臓の病気は、急に症状が出たり状態が変わることもありますが、循環器内科の専門であることや救急で働いてきた経験から、「しばらく様子を見ても大丈夫そうです」「この症状が出たら、早めに受診を考えたほうが良いですね」といった判断目安のお伝えもできます。普段の診療でも対処の目安を事前にお話しすることで、患者さんの安心につなげられればと考えています。
今後クリニックで取り組んでいきたいことはありますか。
将来的には心臓リハビリテーションの実現を考えています。リハビリというと運動を思い浮かべるかもしれませんが、心臓リハビリは患者さんを支えるための多職種による取り組みです。医師だけでなく、看護師、薬剤師、栄養士、リハビリスタッフがチームで関わることが重要とされています。具体的には、看護師は日常生活でのセルフケアについて、リハビリスタッフは安全な運動の仕方についてお伝えし、薬剤師はお薬の効果や副作用について説明、栄養士は食事についてアドバイスするなど、それぞれの専門の立場から支えます。ご高齢の方や働きながら治療を続けている方など、ライフスタイルに合わせた支援体制を整えたいですね。これまで主に病院で行われてきた取り組みですが、地域のクリニックでも実現することが目標の一つです。
読者へメッセージをお願いします。

まずは病気にならないことが一番ですが、もしなったとしても早めに治療を始め、うまく付き合うことで、症状の抑制や体への負担を軽くすることが見込める場合もあります。また、同じ病気でも治療の目標は患者さんの年代によって変わります。これは「年だから軽くする」「若いから厳しくする」という意味ではなく、ご高齢の方であれば、今の生活を無理なく続けられること。検査値は重要ですが、数字だけを追う治療ではなく、生活の質を守る治療を大切にしています。また、若い方であれば、将来の病気をできるだけ防ぐことが大切です。最近は、仕事が忙しく体調が悪いのに我慢している方や子育て・介護などで自分のことを後回しにされる方も多く目にします。少しでも体調で不安なことや気になることがあれば、一度ご相談ください。

