野上 兼一郎 院長の独自取材記事
野上耳鼻咽喉科医院
(福岡市南区/高宮駅)
最終更新日:2021/10/12
長住4丁目バス停から徒歩約3分のところにある「野上耳鼻咽喉科医院」。1991年の開業より、地域に根差した診療に力を尽くし、約30年にわたって子どもから高齢者まで幅広い世代の患者の健康を支えている。院長の野上兼一郎先生は、めまいやアレルギー、小児の耳鼻咽喉科疾患を専門領域とし、日本耳鼻咽喉科学会認定の耳鼻咽喉科専門医の資格を持つドクターだ。「さまざまな医療機器を使った検査データや科学的なエビデンスに基づいた医療を提供することが、私たちの務めです」と穏やかな口調で話す野上先生に、医院の特徴や診療において心がけているポイントなどについて聞いた。
(取材日2021年1月14日)
科学的根拠に基づいた医療の提供に力を尽くす
まずは医院の特徴や診療のスタンスからお伺いします。
医師の主観的な勘に頼るのではなく、科学的な根拠に基づいた医療を提供していくことが開業当時からのモットーです。そこで当院では、幅広い疾患の検査に対応するため、目の動きを検査する赤外線眼鏡、甲状腺、耳下腺、リンパ節、頸部腫瘍などの状態を調べる超音波検査装置、鼻腔や咽頭、喉頭などの詳細な観察と記録を行う電子内視鏡など、さまざまな機器をそろえています。口腔内病変の写真も撮影し、記録することも診療上の特徴です。こうした患者さん一人ひとりのデータは、年月がたっても基本的には処分しません。例えば10年ぶりに受診された方がいたとしても、以前の検査データと比較をすることで、患者さんの体質や病気の傾向を探ることができますし、より適切な治療へと役立てていくこともできると考えています。一番の古い記録ですと、開業当時のデータも保存していますよ。
患者層や、多い主訴を教えていただけますか?
患者さんの割合としては、お子さんたちが約4割、60代以上の高齢者が約3割。残りが20代~50代の方々といった印象です。主訴としては、痛みや不快感を伴う急性症状でしょうか。働き世代や年配の方は、難聴や耳鳴り、めまいなどで受診される方が多いです。お子さんたちに多いのがアレルギー性鼻炎、中耳炎です。中耳炎については新型コロナウイルス感染症流行以降はかなり減っています。新型コロナウイルス感染症予防策として、マスクの着用や手消毒が習慣化されて、風邪などのこれまでの上気道感染症にかかるリスクが軽減されたことにあるのではないかと考えています。
開業当時と比べてどんな変化を感じていらっしゃいますか?
大きな違いは、アレルギー疾患の患者さんが増えたこと。花粉症もそうかもしれませんが、それよりも多いのが通年性アレルギー性鼻炎ですね。通年性アレルギーの主な原因は、ハウスダストといって衣類の繊維クズやほこり、ダニの糞や死骸、カビ、ペットの毛などからなるものといわれています。昔は冬になると家の中が冷やされ、自然とダニが死んで増加を抑えることができていました。しかし、現代住宅は気密性が高く、冬でも暖かさを保てるようになってきています。ダニにとっては絶好の環境というわけです。こうした生活様式の変化がアレルギー疾患を増加させている要因であると考えられます。
専門性を生かしてめまいや小児の耳鼻咽喉科疾患に対応
先生のご専門であるめまいについてお聞きします。
めまいの3分の2は、内耳の耳石器や半規管の異常が原因であるといわれています。内耳の異常で現れるのが、無意識に眼球が動く「眼振」という現象です。めまいを訴えている患者さんにこの眼振が確認できれば、ほぼ内耳の異常によるめまいと判断ができますので、診療においては眼振検査がとても大切です。当院では赤外線CCDカメラを搭載した眼振記録装置を使って目の動きを記録し、適切な診断へとつなげていっています。この記録した動画データは患者さんにも確認していただき、一緒に見ながら病状を細かく丁寧に説明するよう努めています。
めまいの治療は、どのようなものがあるのでしょうか?
めまいと聞くとメニエール病を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、実は耳から来るめまいでより多いのが良性発作性頭位めまい症です。これは内耳にある耳石という細かな炭酸カルシウムの砂状の集まりが何らかの原因ではがれ、三半規管に入り込んでしまうことで起きるとされている疾患です。この疾患の治療として、耳石を半規管外に出す浮遊耳石置換法を行っています。浮遊耳石置換法はエプリー法が有名ですが、すべての良性発作性頭位めまい症に有用なのではありません。他の浮遊耳石置換法を行うべき方も多くいらっしゃいます。当院では必要に応じて行い、どの方法を選択すべきかしっかりと見極めています。
中耳炎治療において重視されているポイントは何ですか?
風邪などによって鼻の急性炎症が起きた時、その炎症が耳管を伝わって中耳に波及し、炎症を起こすのがいわゆる急性中耳炎です。軽症であれば投薬治療で改善が期待できますが、中耳にたまった膿が多い場合は鼓膜を切開して排膿させます。痛みも発熱もしませんが、慢性的に中耳に液がたまる滲出性中耳炎という病気もあります。急性中耳炎から滲出性中耳炎に移行する場合もよくあります。滲出性中耳炎は真珠腫性中耳炎というよりやっかいな病気に発展する可能性があります。耳漏が出なくなり、痛みもなくなると治ったと思って通院を止める親御さんもいらっしゃいますが、完治に導いていくためには長期間の経過観察が欠かせません。真珠腫性中耳炎は、高度の難聴やめまいなど重大な障害を生じる病気です。真珠腫性中耳炎を未然に防ぐために適切な診療に努めています。
時代の医療ニーズにも積極的に応えていく
感染症対策にも力を入れていらっしゃいますね。
待合室にはオゾンエア機能つき空気清浄機を設置しています。人が居る環境下では人体に許容される低濃度のオゾンモードで新型コロナウイルス感染防護を行い、診療が終了したのち、高濃度の「オゾン燻蒸モード」で高濃度オゾンエアによる除菌を行っています。さらに、診療室や聴力検査室には、深紫外線LED照射装置を4台設置しています。発熱や咳などの症状がある方は、外の玄関前に設置した専用のスペースで待機していただくようにしています。
医師を志したきっかけや仕事のやりがいを教えてください。
もともと物作りが好きで、最初は工学部をめざしていました。高校生になってから、先進の知識と技術があれば病気の治療の可能性を高めていけるんだという、医療の魅力に引かれるようになり、医師になろうと決断したのは2年生の時だったと思います。約30年にわたって開業医として診療にあたってきましたが、長年当院に通われている方も少なくありません。もし、「先生ありがとう」と感謝されたりしたら、大きなやりがいを実感しますし、とてもうれしくなりますよね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
病気は表面的に見える症状だけにとらわれてはいけません。深い場所にひっそりと隠れている場合もあります。特に小さなお子さんがいらっしゃる方は、ご自身で安易に考えず、お子さんの体調に少しでも変化があれば、ぜひ医師の診断を仰ぐようにしましょう。当院では、決して病気を見逃さないよう機器を用いてしっかり検査し、必要に応じて専門の医療機関と迅速に連携を図れるように体制を整えています。ご家族やご自身の健康に関しても、気になることがあればお気軽にご相談ください。