春木 伸彦 院長の独自取材記事
春木内科クリニック
(松江市/松江駅)
最終更新日:2023/10/05
松江市古志原にある「春木内科クリニック」は30年以上の歴史を持ち、地域住民に親しまれるクリニックだ。2代目院長である春木伸彦先生は、循環器内科を専門に、国内外の大学や基幹病院で研鑽を積んできた人物。地域のかかりつけ医としての役割はもちろん、「心不全や心筋梗塞といった重大な病気に至ってしまう患者を減らしたい」と、心臓や血管などの循環器疾患の予備軍となり得る生活習慣病の予防や治療・管理にも注力する。さらに、超音波検査に精通する春木院長と臨床検査技師のもと、心臓や血管のほか、全身の超音波検査にも高い技術力を持って対応する。「困っていることがあれば気軽に相談してほしい」とほほ笑む春木先生に、これまでの経歴とその経験を生かした同院の診療のことなどを聞いた。
(取材日2020年11月6日/更新日2023年10月2日)
父の影響で循環器内科の道へ
2020年にクリニックを継承されたそうですね。
1987年に父が開業した当院を、私が2代目院長として継承しました。ありがたいことに、父の代から何十年も通い続けてくださっている患者さんもたくさんいて、その信頼に応えるためにこれからも地域のかかりつけ医の役割を果たしていきたいと思っています。それに加えて、私自身が今まで研鑽を積んできた循環器内科の診療においても地域に貢献していければと考えています。
循環器内科がご専門なのですね。
はい。父も循環器内科が専門で、その影響が大きいですね。「いずれはクリニックを継いで地域医療に貢献したい」という思いで医師になったので、医学部5年生の時には循環器内科を専門にしようと決めていました。大学卒業後は大阪市立大学循環器内科に入局し、臨床研修を終えた後は姫路の関連病院へ。そこで4年半、急性心筋梗塞や狭心症に対する心臓カテーテル検査・治療を担当し、臨床の現場で技術を磨かせてもらいました。ある程度技術が身についたところで、今度は心臓超音波(心エコー)検査を学ぶために、研修医時代からの恩師である竹内正明先生について福岡県の産業医科大学へ。産業医科大学では、臨床に加えて睡眠時無呼吸症候群(SAS)と心臓の病気との関連性について研究し、カナダのトロント大学にも2年間留学させてもらいました。
なぜ心エコーやSASに興味を持ったのですか?
例えば心臓カテーテル検査のような体の中に異物を入れる検査は、患者さんの体への痛みやダメージも伴います。一方で心エコーは体表から超音波を当てるだけ。しかもリアルタイムの心臓の動きや血流がわかり、情報量が多いことが魅力でした。次にSASですが、姫路の病院時代に、夜中に何度も起きる人や朝の寝覚めが悪い人、昼間の眠気が強い人は心不全や高血圧、不整脈の人が多く、SASと循環器の病気との関連性が強いことに興味を持ちました。当時もデータを取って研究をしていたのですが、産業医科大学ではさらに心エコーも加えた研究を行い、九州大学の安藤真一先生との共同研究も行っていました。竹内先生や安藤先生をはじめ、良き指導者たちに導かれて道が開かれたと恩師たちとの出会いに感謝しています。
山陰で頼られる循環器内科のクリニックをめざす
国内外でご研鑽を積まれた後、島根にお戻りになったということですね。
はい。たくさんの恩がある産業医科大学に残る道もあったのですが、自分が学んだことを地元に還元したいという思いが強くなり、山陰に戻ってきました。最初の2年は鳥取大学で心エコーの指導を、その後の2年は松江赤十字病院に勤務しました。松江赤十字病院では高齢者に増えてきていた心臓弁膜症を専門に診る外来を開設するとともに、心エコーによる心臓外科手術のプランニングや手術の評価などを行っていました。松江赤十字病院には心エコーの専門家がおらず、やりがいもありましたが、一方でこのクリニックのことも気になっていました。先延ばしにしないほうが良いと、2年間勤めたところで自分の中で区切りをつけて、父の後を継ぎました。
現在、クリニックではどのような診療をされていますか?
一般内科や循環器・呼吸器内科の診療のほか、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の治療・管理にも力を入れています。生活習慣病を放置したり、コントロールが悪かったりすると、心臓や脳の大きな病気につながります。大学病院や基幹病院では大きな病気になってしまった患者さんを救うことが主な役割でしたが、クリニックではそこに至らないための予防に尽力したい。同時に、私自身の専門性を生かした医療を提供していくことで「心臓を見てもらうなら春木内科クリニック」と言ってもらえるような場所にしたいと思っています。心電図などに異常があった場合、大きな病院では検査や待ち時間で1日がかりになることもありますが、当院なら1時間ほどで必要な検査を行い、さらに詳しい検査が必要か判断できます。また、超音波検査に精通する臨床検査技師も在籍し、心臓や下肢血管、頸動脈のほか、腹部、甲状腺、乳腺などの全身疾患に対応できる体制も整えています。
SASの検査と治療は受けられますか?
はい。検査は、まず自宅で行える「簡易検査」があります。ひと晩機械を装着して寝てもらい、そのデータを解析して治療が必要か判断します。そこで重症とわかれば鼻から空気を送る特殊なマスクや、マウスピース型の器具などを用いた治療を行いますし、結果によっては入院での精密検査の上、治療適応を決定します。鼻に問題がある場合は、耳鼻科的治療をお勧めすることもありますね。また、SASと高血圧はつながりが深く、SASが原因で血圧が上がっている人もいます。ご家族からひどいいびきや寝ているときに呼吸が止まっていると指摘された人、夜中に何度も目が覚める人、日中に強い眠気に襲われる人はぜひ検査を受けてほしいです。SASは寝ながら溺れているようなもの。脳波を見ると寝ている間も何度も覚醒して徹夜をしているような状態です。心筋梗塞や不整脈、脳卒中にもつながりますから早期診断と治療が大切です。
循環器医療と地域を結ぶ架け橋へ
診療で心がけていることは?
きちんと説明をすることです。患者さんの中には、何の検査を受けてどういう結果だったのか、なぜ検査が必要なのかご存じない人も多いです。当院では心電図や心エコーの画像をお見せしながらその場で説明して、必ず最後に「何か聞きたいことはありますか」と尋ねています。また生活習慣病で薬は飲んでいるけど、症状はないという人も多いですが、当院では将来の病気予防のためにも定期的な検査を勧めるなど、きちんとコントロールしてあげたいと思っています。まだ起きていない大きな病気を予防するための、いわば「目に見えにくい治療」なので、なかなか伝わらないこともありますが、根気強く説明をすることが大切だと思っています。また当院で診断がつかない、原因がわからないということであれば、必要に応じて大きな病院へ紹介します。こうした橋渡し役も、クリニックの大切な役割です。
建物や設備面でのこだわりもお伺いしたいです。
私が当院を継承する際に院内の改修工事を行いました。意識したのは「導線」。待合室と診療スペースの垣根を取り払い、待合室から診察室、処置室、検査室、レントゲン室までを1本の動線で結ぶことで、患者さんがあちこち移動しなくて済むようにしました。働くスタッフも動きやすい構造です。病院には不安を抱えて来る人が多いので、なるべく明るい雰囲気にしたいと照明も明るくしています。またバリアフリーにし、履き替えずに靴のまま院内に入ることもできます。機器に関しては先進の心臓超音波検査機器を導入しています。築30年以上の建物でしたが、できる限りのことをさせていただきました。患者さんもきれいになったと喜んでくれています。
最後に、読者にメッセージをお願いします。
息切れや動悸、胸の痛み、脚のむくみといった心臓や血管に関する症状で悩んでいる方は、まずは当院にご相談ください。かかりつけの先生が心臓専門でない場合や、症状がなかなか改善しないなど、気になることがあれば相談してほしいです。心臓の病気は当院で診断・検査を行い、治療を調節して病状が安定したらかかりつけ医に戻っていただくというように、今後は近隣のクリニックとも連携を深めていきたいと考えています。そうした連携の一環として、2022年から新たに心臓検診を開始しました。自分が県外で学んできたことを還元することで地域のお役に立つことができたらうれしいです。地域のかかりつけ医、そして日本循環器学会循環器専門医として、できる限りのことはしたいと思っています。