堀尾 建太 先生の独自取材記事
医療法人 堀尾医院
(碧南市/新川町駅)
最終更新日:2024/07/30
70年以上前に初代が開業し、25年ほど前にその息子である堀尾静院長が継承した「堀尾医院」。2020年からは院長の息子である堀尾建太先生が加わり、親子で地域医療に尽力し続けている。建太先生は在宅医療を担い、「病気や障害があっても住み慣れた家で過ごしたい」という患者とそれを支える家族の気持ちを受け止めながら、診療にあたっている。同院は、在宅療養支援診察所で、緊急の往診など24時間・365日対応可能な体制を整える。また、近隣病院とも連携しており、入院が必要な場合など、臨機応変に対応できる体制を整えている。高齢化が進み、一人では通院が難しかったり、自宅療養したいけれど病気があって難しいと諦めがちな患者に対し、丁寧に向き合い支援をしている建太先生に、在宅医療への思いや今後の展望など話を聞いた。
(取材日2022年3月10日/情報更新日2023年10月26日)
患者本人の価値観を重視した在宅医療
初めは外科の道に進まれたそうですが、在宅医療をされるようになったのはどのようなきっかけからですか?
手術などダイナミックな治療がしたいと外科に進み、仕事も楽しかったのですが、いずれはこちらに戻ると決めていたので、どこかで方向転換をしなければと考えていました。緩和ケアの病院へ移ったのは、緩和ケアが必要とされる方が増えるのに、多くの方に十分に提供されていない現実があったからです。周りからはその道に進むことを驚かれたりもしましたが、実際やってみたら自分に合っていると感じました。それで2年ほど緩和ケア病棟で勤務し、その後、もっと自由度の高い医療が行える在宅医療に興味を持ち、在宅医療専門クリニックで勤務しました。2年前にこちらへ戻り、今は主に在宅医療を行っています。振り返ってみると、なるべくして流れてきたんだなと思いますし、僕に合っている分野だと思います。
緩和ケアの病院での勤務とクリニックでの在宅医療の違いはどんなところでしょうか?
町の診療所の医師である僕たちが在宅医療をするというのは、病院の緩和ケアや在宅専門クリニックが行っているものとはいろいろと違います。当院は、祖父の代から始まり父、僕と受け継いでいますが、患者さんも子どもの頃から通院され、やがて成人となり高齢になり、在宅医療へというように継続性があるんですね。こういうケースは、今まで勤めていた病院でほとんどなく、今は地域というものをより強く意識します。僕たち診療所が3代にわたるように、患者さんたちも、おじいさん、そのお子さん、お孫さんもというように3世代にわたって通われている方も多く、長い時間軸の中でのお付き合いです。在宅医療は、患者さん、ご家族と信頼関係を築くことが大切であり大変なんですが、その信頼関係ができているところから診療を始められるのはありがたいですね。
診療で心がけていらっしゃることを教えてください。
患者さんの価値観を重視して診療を行っています。その患者さんの持っている人生観・価値観を大切にしながら過ごしてもらうために必要なことを、僕たちは提供していきたいと思います。それは医療に限らず、例えば終末期の患者さんの「孫の結婚式に参加したい」とか「昔働いていた職場にもう一度行ってみたい」という願いを実現するためにサポートをしていくようなことも含まれます。「この状態のまま家で過ごすのは難しい」と言われるような方でも、「家で過ごしたい」ということが一番大事な思いであれば、その思いをかなえられるようなケアを考えたいと思っています。そのためには、患者さんの話をじっくり聞くことが必要なので、対話を重視した診療を心がけています。
在宅医療ならではの時間の長さや世界観を大切にしたい
在宅医療ではご家族と接することも多いと思います。
そうですね。もちろん患者さん本人の意思や希望が第一ですし、それが優先されなければいけないと考えられていますが、日本の文化土壌を考えた場合、ご家族の思いをくみ取った意思決定をしていくことも同時に必要だと思います。ですから、時には患者さんとご家族の方とそれぞれ別にお話を聞き、僕たちがその折衷案を考えます。「どちらかを選ぶ」というように明確に「これ」と決めるのではなく、患者さんとご家族の思いの間で、僕らが緩衝材になりながら、なんとなくふわっとした形をつくりながらだんだん意思決定していくようにしています。在宅では、そういうふわっとした世界観が必要ですし大切にしたいですね。
一緒に訪問されるスタッフはどんな方ですか?
在宅医療を始めるにあたり、まず2人の看護師さんに声をかけ、お願いをしました。その方に声をかけた理由は「看護が好きで患者さんに優しい人」でした。これは在宅医療に限らずですが、患者さんと身近に接する仕事ですので、一緒に仕事をする上で大事にしたいところです。自分の仕事が好きでなければ良い仕事はできないですから。それから、在宅医療を行っている看護師さんたちはがん看護を得意分野としていますので、それは当院の強みの一つだと思います。
心に残っている患者さんとのエピソードをお聞かせください。
病院に勤めていた時の患者さんなんですが、ご本人に「家に帰りたい」という希望があり、奥さまもその希望をかなえてあげたいと考えていました。その思いをくみ取って、在宅調整をしました。在宅に戻られた後は在宅医療の先生に診ていただくわけですが、その医師が「この状態で在宅は難しい」と決め、病院に戻してしまいました。結局、その方は病院で亡くなられて、「終末期を家で過ごしたい」という希望はかないませんでした。その経験は、僕の中で心残りになっています。またこの経験を経て、在宅医療をする上でそれ相応の知識と技術が必要で、なおかつ覚悟を持って臨まなければならないと考えるようになりました。
地域コミュニティーになる空間の提供や情報を発信
さまざまな企画を考えていらっしゃるんですね。
これからやっていきたいこととしては、薬などによる治療以外の患者さんの抱える問題の解決策をつくっていきたいと考えています。例えば独居の高齢者が家にこもりがちになり、寂しさを感じたり、身体的な症状を強く感じたりして、その結果薬がどんどん増えてしまうということがありますが、これは薬だけでは解決できません。寂しい人に、人とのつながりをつくることで、気持ちが穏やかになり、症状が楽になってもらう。こういった試みを地域全体でできるといいなと思っています。また、「食べること」についてのケアも充実させていきたいと考えています。「どんなものを食べると良いか」といういわゆる栄養指導だけではなく、病気や高齢のため食べることが難しくなってしまった方への「食べる」ことへの支援もできるように整えていきたいと考えています。
歴史あるクリニックですが、これからも守っていきたいこと、また今後変えていきたいことを教えてください。
先ほど、患者さんとの対話を大事にしたいというお話をしましたが、父がずっとそういう診療をしています。患者さんの話をじっくり聞き、その方の背景を知り何を大切にしているのかを感知し、医療の提案をしているんですね。だからこそ患者さんから長年愛されるクリニックでいられるんだと思うので、それはこれからもずっと受け継いでいきたいです。一方で、変えていきたいと思うことは、電子化をして効率化を図りたいと考えています。電子カルテは既に導入していますが、今後はオンライン診療なども充実させることで、在宅医療の質をさらに向上させていきたいです。
最後に、地域の方や読者にメッセージをお願いします。
僕たちのコンセプトは、「どんな状況であっても、住み慣れた場所で過ごしたい方に、必要な医療の提供や支援をしていきたい」ということです。「今の病気の状況で家に帰るのは無理だろうか」と迷ったり悩んだりしている方は、ご相談いただくことでさまざまな提案ができると思います。在宅医療は、今まで当院の通院歴がなくても大丈夫です。また、健康不安など心配なことがあれば、まずはご来院ください。しっかりお話を伺い、少しでもお力になれるようにしたいと思います。