松川 昇平 院長の独自取材記事
松川クリニック
(名古屋市天白区/原駅)
最終更新日:2024/06/13
名古屋市天白区土原にある「松川クリニック」。25台分の駐車場を備える同院は、県道沿いにあり、各方面からアクセスしやすい。3代目院長の松川昇平先生は、1960年に開院した歴史あるクリニックを継承し、小児科と内科の診療のほか、助産師による専門の外来、子どもの発達相談、小児科の訪問診療などを行っている。また、先代がつくりあげたキッズスペースや病児・病後児保育などを受け継ぎながら、新たな取り組みも展開し母子の健康をサポートしてきた。「祖父と父が築いたものを継続しながら、時代の流れに沿ってクリニックを変化させていきたい」と話す松川院長。診療への思いを語る姿から、子どもだけではなく、母親の心身の健康を願う気持ちが伝わってきた。
(取材日2024年2月26日)
外来診療・訪問診療・包括的ケアで、地域医療に貢献
2023年11月に院長に就任されたそうですね。これまでのご経験について教えてください。
藤田医科大学病院に勤務している頃から、週に2回、非常勤として父の診療を手伝っていました。2022年4月から常勤として働き始め、2023年11月に3代目院長に就任し現在に至ります。勤務医時代は、NICU(新生児集中治療室)で新生児医療に長く携わっていました。そこでは、治療を懸命に行う中でも、残念ながら救えなかったり、お子さんが呼吸や心臓などに問題を抱えたりするケースも多々ありましたね。また、NICU退院後に行う「フォローアップの外来」を経験したことは、お子さんの発達を促していくことの重要性を強く感じるきっかけになったと思います。現在は、勤務医時代以上にお子さんやお母さんと近い距離で診療できるようになりました。病気のことだけではなく、ご家族のこと、お子さんの将来のことまで相談してくださる方が多いですね。勤務医時代と比べ、より診療の幅が広がったと感じています。
小児科の訪問診療にも取り組まれています。始めたきっかけは何でしょうか?
新生児医療に携わっている時から、退院後のご家族のサポートをずっと続けていきたいと考えていたのがきっかけです。藤田医科大学病院でも障害があるお子さん、在宅医療が必要なお子さんが多いことを実感し、より在宅医療の必要性を感じました。そのような気持ちから「小児専門の訪問診療」を始める決意をし、藤田医科大学病院で小児の在宅医療について学ばさせていただきました。2022年4月から本格的に訪問診療をスタートさせ、現在は週に3回行っています。人工呼吸器を使用している、胃ろうをしているなど、医療的なケアが必要な、通院できないお子さんを診ています。訪問診療は私がやりたかったことの一つですので、日々やりがいを感じていますね。
外来診療と訪問診療でお子さんの健康を見守っているのですね。どのような症状の患者さんが多いですか?
外来では特に風邪、インフルエンザなどの感染症で受診される方が多いですね。また、食物アレルギーや皮膚炎などでお困りの方には、小児科とアレルギー科を専門とする父が対応しています。最近多いと感じるのは、診断がつかないようないわゆる不定愁訴のご相談や心の相談、発達の問題に関する相談です。私の担当する外来ではできる限り丁寧なカウンセリングを実施し、その子その子で個々に違う不調の原因を探っていくことに努めています。漢方医療などの考え方を取り入れたり、栄養の問題にアプローチして、体の不調だけでなく心の相談にも応じています。
「母子ともに健康に」をテーマに掲げ専門の外来を実施
こちらで対応されている、お子さんの発達に関する相談について詳しく教えてください。
当院では、「赤ちゃんの発達の外来」を設けています。そこでは、出生後から歩けるようになるまでの時期の赤ちゃんを対象に、発達を促す教室のような外来を行ってきました。例えば、出生後に呼吸や哺乳をしっかり行えるようになることは、発育・発達のための大きな土台になります。十分に体を動かして、いかに順調に発達させていくかが非常に重要な時期ですので、「赤ちゃんの時に大事なこと」をお伝えしながら発育・発達を促していけるよう注力しています。ほかにも、授乳のことや離乳食の進め方など赤ちゃんに関わることをトータルにアドバイスしています。
助産師による専門の外来について教えてください。
お子さんが健康であるためには、まずお母さんが健康でなければなりません。当院では、「母子ともに健康にしていく」を診療のテーマに掲げています。だからこそ妊娠期からのケアを大事にしたいと考え、助産師による専門の外来を開設しました。担当しているのは助産師である私の妻で、クリニックを継承する前から「小児科で助産師の外来を設けたいね」と話していました。この外来では妊娠中から産後のご相談をお受けしており、季節に応じた過ごし方のアドバイスや、腰痛や恥骨痛、逆子などでお困りの方のお悩みに応じています。私が担当している小児科の外来や、赤ちゃんの発達の外来、助産師の外来で連携することで、母子の健康をトータルにサポートできるようにしていきたい、というのが私の理想です。この連携体制は、より母子ともに支えていくための、大きな強みになると感じています。
お子さんだけではなく、妊娠中や子育て中の方もケアされているのですね。
「患者さん一人ひとりの体の力を最大限に引き出す」をモットーに治療にあたっています。その実現のために心がけているのが、薬だけに頼らないこと。確かに薬を服用すれば症状の緩和が期待できますが、ずっと飲み続けなければならなかったり、そもそも病気の根本的な治療にはなっていなかったりすることが多いのです。他院で処方された薬を服用している方から「いつまで飲めばいいの?」「飲み続けているのに、症状が改善しない」と相談されることもあります。もちろん処方が必要なこともありますが、まずは生活改善や食事内容の見直しが必要なケースもあるでしょう。そのことを患者さんにも知っていただきたいですし、一人ひとりに合った治療方法を提案していきたいですね。
患者の気持ちをくみ取る問診で、本音を引き出す
診療時に心がけていることを教えてください。
お子さんや親御さんの気持ちをくみ取り、本音を話していただける関係を築きたいですね。例えば、お子さんの発達や精神面に関する相談を受ける際、親御さんが「原因はこれなのでは?」と思い込みすぎてしまっていたり、お子さん以上にお母さんがナーバスになったりするのは、よくあること。時には誤った考え方や対応をされてしまっていることもあります。ただ、それを最初から否定してはいけませんよね。お子さんを心配していらっしゃるがゆえの親心なのですから。まずは、お子さんや親御さんの訴えやお気持ちを適切に捉え、私の考えをすべてお伝えするのではなく、患者さんに合わせて少しずつお伝えしています。そこから少しずつ患者さんに合った治療法を提案することが大切です。また、心の相談に関して小・中学生のお子さんと直接お話しする際、うまく気持ちを伝えられないお子さんには、診察に慣れてもらうことを優先しています。
時間をかけて問診するからこそ、本音が聞き出せるのですね。
そうですね。ですから、心の相談や発達相談だけではなく、風邪の症状で受診される方に対しても、必要に応じて時間をかけてお話を伺っています。特に親御さんとの信頼関係が築けると、「今日は下の子の相談で来たけれど、実は上の子の発達も気になっている」と相談されることも。また、お子さんの相談をしているようで、実はご自身の相談をされているケースも多いのです。診療のテーマに掲げる「母子ともに健康にしたい」との思いを大事にして、お母さんの気持ちをくみ取った診療をしていきたいと考えています。
60年以上の歴史あるクリニックの今後について教えてください。
2023年11月にクリニックを受け継いだばかりですので、これからコツコツと診療を続けていきたいですね。祖父と父が築いた医療を受け継ぎながら、私の経験を生かして時代の流れや患者さんの要望に沿った地域医療を提供していきたいと考えています。その取り組みの一つが、薬に頼りすぎないという診療方針です。もちろん、診療においては患者さんの意思が第一。患者さんの気持ちをくみ取りながらアドバイスします。また、助産師による専門の外来や赤ちゃんの発達の外来、小児科の訪問診療も「地域のかかりつけ医」として必要な活動だと考えています。妊娠中からお子さんとお母さんの健康に関わり、長いお付き合いをしていきたい。それが私の願いです。