臼井 彰 院長の独自取材記事
臼井医院
(足立区/亀有駅)
最終更新日:2024/07/12

下町の風情が残る亀有の一角にある「臼井医院」。院内は、座り心地の良いソファーや家庭のリビングのような談話室などアットホームな雰囲気だが、先進の機器を備えた培養室を有する、不妊治療に特化したクリニックだ。長年にわたる診療実績と、日本生殖医学会生殖医療専門医の資格を持つ不妊治療に特化した医師である臼井彰院長のもとへ、近隣地域だけでなく遠方から受診する人も多い。そんな患者の負担を少しでも軽くしたいと同院では2024年5月にサテライトクリニックの開院を決めた。「1日でも早く治療を卒業できるように」とベテラン培養士たちと日々治療に奮闘する臼井院長に、診療体制や治療に取り組む人たちに伝えたいことを聞いた。
(取材日2024年4月8日)
原因に応じた適切な治療を適切なタイミングで行う
先生が医師になったきっかけ、専門を産婦人科に選んだ理由は何ですか?

もともとここは父の代から続くクリニックで、父は外科、母は小児科の医師という環境で育ちました。両親の背中を見て医師になろうと決めましたが、産婦人科に進んだのは、患者さんの笑顔がたくさん見られると思ったから。大変なこともありますが、やはり命の誕生に関われる喜びが大きく、やりがいを感じています。偶然にも不妊治療の進歩とともに学生時代を過ごし、私が卒業した1983年に母校の東邦大学で体外受精の研究が始まりました。その画期的な医療が産婦人科の新しい道を開くと感じて、大学の研究室で不妊治療の研究に従事したんです。その後、両親が築いたこのクリニックで産婦人科の診療を始め、内科・麻酔科の医師である兄とともに家族で力を合わせて診療を行ってきました。医師が私1人になったのを機に、専門としていた不妊治療に特化したクリニックとして再出発し、今日まで診療を続けてきたのです。
こちらの不妊治療の流れについて教えてください。
まず患者さんとパートナーの体の状態をしっかりと把握し、不妊の原因を突き止めるための検査を実施します。初めに卵巣内に残る卵子の数を調べるAMH(卵巣予備能)検査と、卵巣ホルモンと下垂体の卵巣刺激ホルモンの値を調べて卵巣の機能をチェックする血液検査を行います。次に、卵管の通りを確認し、もし閉塞などがあれば卵管鏡下卵管形成術(FT)の実施。パートナーの精子の状態も検査します。また、甲状腺刺激ホルモンの数値が高いと流産のリスクが高まるため、当院では甲状腺疾患のスクリーニングも重視。検査をするうちに排卵日が来るので、その段階でタイミング療法を取り入れます。タイミング療法や服薬を3ヵ月続けても変化がない場合は、人工授精、体外受精へ移行し、1年以内の「治療卒業」をめざします。ただし、精子に問題がある場合やAMH値が低い場合など、不妊の原因や体の状態によっては体外受精・顕微授精から開始する場合もあります。
体外受精にも力を入れているのですね。

はい。ベテラン培養士とともに日々研鑽を重ね、着床率向上をめざして、胚移植の際にはレーザーを用いたアシステッドハッチングという方法を導入して子宮への着床を補助しています。また、培養器には先進医療であるタイムラプスシステムを採用しました。カメラが内蔵されていて、胚の状態を見極める際に培養器から取り出す必要がなく、胚にかかる負担軽減につながっています。そして2024年1月には院内の一部を改装し、培養室を広くしたことで、より効率的に作業が進められるようになりました。ほかにも当院では体外受精の周期に行うさまざまな先進医療に積極的に取り組んでいます。
1日も早い目標達成のために手を尽くす
新たにサテライトクリニックの開業が決まったそうですが、その理由を教えてください。

2024年5月に、サテライトクリニックとして綾瀬駅前臼井クリニックの開業が決まりました。開業の理由は、不妊治療に取り組む方の多くが仕事を持っていて、治療により週に何度も通院しなければならないことなどで仕事に支障を来し、治療を中断してしまう方、諦めてしまう方がいるという現状をなんとかしたいと考えたからです。「通院の負担をなるべく減らして患者さんが治療を続けやすい環境を整えたい」という強い思いから、駅前という通院しやすい場所での開業を選びました。当院と連携して運営する体制をつくっています。
受けられる検査や治療について教えてください。
当院は培養室を備えていますので、不妊治療における基本的な検査や治療だけでなく、子宮卵管造影検査・卵管鏡検査などの検査、採卵や胚移植など体外受精に関わる治療までを行うことができます。また、卵管の通りを改善するための卵管鏡下卵管形成術(FT)にも対応しています。5月からは患者さんの都合や希望する診療に合わせて、当院とサテライトクリニックとでサポートすることができればと思っています。不妊治療はともすれば女性にばかり負担がかかりがちですが、昔と比べてパートナーの受診も増えつつあり、「不妊治療は二人で取り組むもの」という意識が社会に浸透しつつあることを感じています。当院とサテライトクリニックが連携することで、働く女性やパートナーがより不妊治療を受けやすくなることも期待しています。
先生が診療において大切にしていることを教えてください。

卵子の数には限りがあり、体のメカニズム上、年齢とともに妊娠率は下がっていきます。そのため「1日でも早く結果を出すこと」をめざし、個々の患者さんの状態を考慮しながら適切な治療の提案に努めています。同時に、必ず「今日は血液検査をします」「卵管のチェックをします」と説明してから診療に移る、患者さんの訴えを丁寧に聞き取るなど、安心して治療を受けていただくための環境づくりも重視しています。患者さんと一緒に同じ目標に向かって歩むことのできるこの仕事に、大きなやりがいを感じています。
先延ばしにせず、自分の体を知ることが最初の一歩に
こちらでは不妊治療を考えている人たちに向けて、オンラインガイダンスを開催していると聞きました。

不妊治療について十分に理解した上で臨んでもらうため、定期的にオンラインガイダンスを実施しています。初診の前に必ず受けていただき、当院の基本方針や不妊治療の流れ、各治療の詳細、生活上の注意点などをお話しします。これとは別に、体外受精に関するオンラインガイダンスも開催しています。こちらは当院で治療中の患者さんで体外受精にステップアップされる方や、体外受精のために当院への転院を希望される方を対象にしたものです。オンラインでの実施には、ご自宅でパートナーと一緒にリラックスして見ていただけるメリットもあるようです。受講後は皆さんからの質問にもお答えしていますので、不妊治療について不安や心配事がある方はぜひご参加ください。
妊娠を望む人は、どのようなことを心がけて生活するといいのでしょうか。
男性も女性も、健康的な体重・体形を保つこと、生活習慣を整えることが不妊治療の第一歩です。規則正しい生活を送る、暴飲暴食を避けてバランスの良い食事を取る、よく眠る、無理なダイエットをしない、肥満を改善するといったことを心がけましょう。健康でも長く喫煙を続けている人は不妊のリスクが高くなりますので、禁煙をお勧めします。また、リラックスした気持ちで過ごすことも大切です。治療にばかり向き合いすぎるとストレスになることもあると思うので、たまにはパートナーとおいしいお酒を飲みに行くなど、生活を楽しむ時間も持てるといいですね。そのようにして明るい気持ちで過ごすことで、治療が良い方向に進むことも見込めると感じています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

1人でも多くの方の手助けをし、1日でも早く結果を出すことを目標に、私たちは常に新しい設備をそろえ、良いと思える方法を取り入れていきたいと考えています。不妊治療が保険適用となったことで、最初の一歩を踏み出しやすくなった人も多いようで、最近は20代後半など若い世代の受診も増えてきています。ご自身の体の状態や不妊の可能性などを把握するために、30歳を過ぎて出産経験のない方には女性検診をお勧めします。妊娠を望む場合、35歳以降では、治療開始が1年遅れるごとに妊娠できる確率が変わります。なかなか妊娠できないと感じたら、先延ばしにせず早めに受診していただきたいですね。
自由診療費用の目安
自由診療とは【体外受精の周期に行う先進医療】
タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養/2万5000円、
子宮内膜擦過術(内膜スクラッチ)/1万円、
子宮内膜刺激術(SEET法)/2万5000円、
二段階胚移植術(新鮮胚移植)の2回目の移植/5万5000円(1回目は保険適用)、
二段階胚移植術(凍結融解胚移植)の2回目の移植/9万9000円(1回目は保険適用)
※先進医療は、保険診療と併用して受けることが可能