小村 憲一 院長の独自取材記事
小村肛門科医院
(葛飾区/堀切菖蒲園駅)
最終更新日:2025/06/05

堀切菖蒲園駅から徒歩3分。駅前を南北に走る街道沿いを歩いていくと「小村肛門科医院」が見えてくる。待合室はアットホームな雰囲気で、看護師をはじめスタッフの親しげな対応が、緊張を解きほぐしてくれる。小村憲一院長は、穏やかな笑顔とやわらかな物腰が印象的で、肛門疾患に関する悩みを安心して相談することができそうだ。痔核(イボ痔)・裂肛(切れ痔)・痔ろう(あな痔)などを専門とし、日帰り手術も行うほか、肛門科の難病も診療している。「痔核は薬で改善をめざすことが多く、手術適応は2~3割くらいです。その手術も必ずやらないとけないわけではありません」という小村院長に、診療方針や治療方法、診療以外の活動について話を聞いた。
(取材日2025年4月17日/情報更新日2025年5月19日)
肛門科領域の難病にも対応する専門クリニック
クリニックの歩みと先生のご経歴を教えてください。

1935年に祖父が開業し、当初は小児科を標榜していました。当時、親戚の肛門科の医師が群馬県にいて、その方が体調を悪くしたことで祖父に手伝ってほしいという依頼があったそうです。手伝っているうちに診療の技術を身につけ、興味を持った祖父は小児科・肛門科に変えたと聞いています。私は兵庫医科大学卒業後、日本大学の消化器外科に入局し、日本大学大学院を修了しました。銚子市立病院などに勤務した後に大学を辞め、家業を継ぐために社会保険中央総合病院で大腸肛門病の経験を積みました。そして、2006年に当院の院長を引き継ぎました。
どのようなお悩みを持つ患者さんが多いですか?
痛い、血が出る、痒いといった主訴が多いです。疾患としては痔核(イボ痔)が最も多く、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)と続きます。ほかに、便が漏れる便失禁という悩みもあります。原因は肛門を締める力が弱いか、便がゆるいかのどちらかなので、便を硬くする目的で薬を使ったり、肛門括約筋を鍛えるためにトレーニングをしたりします。自分で鍛えられない内肛門括約筋に対しては、低周波電気刺激療法を用いることができます。また、見た目に痛い所がないように見受けられるのに強く痛みを感じる仙骨神経症候群や、過度に肛門が臭いと感じてしまう自己臭症といった難病にも対応しています。こうした難病を診てくれる医院は少なく、さまざまなアプローチで診療に取り組んでいます。
診療で大切にしていることを教えてください。

患者さんが何に困っていて、何を解決してほしいのかといった点を見極めることです。例えば、痔核の患者さんに対して、私は手術を受けるのが良いと思っても、痔が出っ張っているのには慣れているから特に困っていないという人もいます。その際は、手術を無理に勧めることはしません。気にならなければこのままでも良いと伝えます。もし「同じような症状の人はどうしているのか」と聞かれた場合は、「日常生活に支障を来すかどうかを判断の基準にしてください」と、アドバイスしています。痔核の場合、一般的に手術適応になるのは2割弱くらいです。ただ、当院には生活療法や薬物療法では改善が見込めなかったという患者さんも来ますので、手術を受ける人はもう少し多いと思います。
創意工夫を凝らすことで日帰り手術を可能に
予約システムについて詳細を教えてください。

当日の順番を予約するシステムです。ウェブで予約できるのは8時30分からで、直接来院する人は7時から受けつけています。直接来院して予約を取った人が15人いた場合、ウェブで最も早く予約しても16番目になるという仕組みです。一人ひとりの患者さんをしっかり診るために、曜日ごとに、40人、55人と、上限人数を決めています。予約は当日分だけで、すべてウェブ対応にしない理由は3つあります。ウェブ予約を開始すると数週間先まで予約で埋まることが予想され、緊急で診てほしい患者さんが受診できなくなってしまうのが1つ目。2つ目はウェブの操作に不慣れな高齢者や障害者でも予約を取りやすくするためです。3つ目は地域に対する思いがあるためです。おかげさまで、今では遠くから来院する患者さんも多く、ありがたいことなのですが、地域の患者さんたちのことを考えて、このようにしています。
初診ではどのようなことを行うのですか?
スタッフが患者さんの話を聞く問診から始めます。この時にいろいろなことを話すことで、患者さんにリラックスしてもらえるようにしています。診察室では必ず女性のスタッフが付き、台の上にお尻だけを出して横になってもらい、下半身にはバスタオルをかけます。診察では肛門の周りを見て、次に指を入れて、痛い部分や触れるような疾患があるかどうかを確認します。そして、デジタル肛門鏡という筒型の機械を肛門に入れて、中の様子を撮影したデータを電子カルテに取り込みます。その後、患者さんには服を着て椅子に座ってもらい、落ち着いてから説明をします。モニターに映した画像や資料などを活用し、患者さんの要望に沿いながら治療内容を決めます。
治療にはどのような方法があるのでしょうか?

痔核の場合、多くは飲み薬・座薬・注入軟膏などの薬で対処します。ほかには痔核を硬化させる注射を打つ四段階注射療法、痔核を切除する結紮切除半閉鎖術、そして注射と切除の併用と、3つの治療法があります。裂肛は初期段階だと薬だけの場合が多いのですが、裂肛を繰り返すと手術が必要です。その場合は裂肛部分を切除し、狭くなった肛門を広げる手術、裂肛根治術や肛門狭窄形成手術を行います。また、肛門の周りに膿がたまる肛門周囲膿瘍は、切開し膿を出して症状改善につなげますが、その半分は痔ろうに進行してしまいます。痔ろうの手術は膿の管をすべて切開する切開解放術、膿の管だけをくり抜き、括約筋を縫合する括約筋温存術、膿の管にゴムを通して徐々に切開するシートン法と主に3種類の方法で治療につなげていきます。これらを日帰りで行っていることが当院の強みですが、3~4ヵ月待ちの状態が続いています。
自身の入院経験から全員で患者を支える医療に取り組む
スタッフとの連携で気をつけていることはありますか?

診療理念は「患者さんが安心して納得されるよう、患者さんを家族や友人のように思い、寄り添う医療」で、朝礼では全員で唱和しています。よく話しているのは、患者さんを一人にしないこと。患者さんが診察室で待っている間は、必ず話しかけてほしいとお願いしています。これは過去に、私が原因不明の末梢神経麻痺で入院した際の経験がもとになっています。入院中の患者さんは孤独であり、病院スタッフの何げない言葉に深く癒やされることを実感したからです。積極的に話しかけることで、治療に結びつく情報が得られることもありますし、患者さん自身もリラックスできると思います。また、経験の浅いスタッフだと、医師である私に気を使ってしまうことがありますが、私ではなく患者さんに気を配ることを徹底してもらっています。
診療以外の活動にも注力していると伺いました。
葛飾区医師会の理事を務めているので、理事会に出席したり、勉強会を行ったりしています。勉強会では研究内容の発表も行っています。例えば、5年間で行った手術の内容を発表する場合は、改めてすべての手術を調べ直すことになり、自分自身へのフィードバックにもなります。最近はビデオで発表することも多く、30分の手術動画を5分に編集する際に、自分の手術の動きを客観的に見ることができ、これも診療に生かしています。あとは日本大学の消化器外科で肛門疾患の勉強会を行うほか、毎週水曜日は私が手術を行い、数人の後輩医師には手伝いながら学んでもらうなど、後進の育成にも力を入れています。私は日本大腸肛門病学会大腸肛門病専門医でもあり、これまでに指導した4人ほどが専門医資格を取っています。また、プライベートでは子どもと一緒に合唱団に入っていて、先日も発表会に出ました。患者さんも来てくれて、とても好評でした。
肛門疾患に悩む方へ、メッセージをお願いします。

気になることがあれば早めの受診をお勧めします。今はウェブ上でいろいろなことを調べることができ、自分はがんではないかと疑うなど、不安に悩まされている人が多いように感じます。早めに受診して適切な診断を受け、不安から解放されることを祈っています。痔核なら薬で治療するケースもありますし、手術適応でも、手術をせずに疾患と付き合っていく方法を考えることもできます。来て良かったと思える医療を提供できるよう努めていますので、安心してご来院ください。