染谷 康宏 院長、松野 泰彦 先生の独自取材記事
染谷メンタルクリニック
(北区/王子駅)
最終更新日:2023/12/28

東京・北区の王子駅のそばで2001年から診療している「染谷メンタルクリニック」。精神科・心療内科を掲げ、心の不調や病気に耐える患者に対して、心理カウンセリングや薬物療法を柱にじっくりと治療に取り組んできた。病の奥にある患者の人格までも見つめようとする染谷康宏院長と、患者が医療の外部でより良い環境をつくるためのサポートに徹する松野泰彦先生。アプローチは異なるが、仕事にかける静かな情熱はどちらも引けを取らない。新人時代の出会いから互いをリスペクトし合う2人に、これまでの歩みや診療について語ってもらった。
(取材日2022年12月18日)
友人同士の2人が診療するクリニック
染谷院長と松野先生はどのような経緯で出会われたのですか?

【染谷院長】大学を出た時に彼が山口から東京にやって来て、僕と同じ大学の医局に入ることになったんです。つまり医師になった後の“同級生”ということになります。僕が松野君をいいなと思ったのは、何よりその人柄です。例えばまだ新米医師だった時代、他の医師はみんな東京の有名な病院で働きたがるんですが、彼は全部周りに譲っちゃうんです。功利的な態度の正反対。損をしているように見えることも自然にできるところがすてきで、ぜひ友達になりたいなと。精神科医としても、僕にはない資質の持ち主だと思いますね。
【松野先生】院長は知り合った当時から優秀で、同期の中でもピカイチでした。きっと大学に残って業績を挙げるのだろうと思っていたから、開業すると知った時は驚きました。
松野先生は2011年からこちらのクリニックに勤務されているそうですが、何かきっかけがあったのですか?
【松野先生】以前勤めていた病院は、福島の原子力発電所から数キロの場所にありました。3月に東日本大震災があって福島を急きょ離れることになり、新たに東京の多摩地区にある病院で勤務する傍ら、院長に声をかけてもらったご縁で、このクリニックでも週に1日だけ外来診療を始めました。2022年の秋からは週4日担当するようになりました。
【染谷院長】震災の時はすぐに連絡を取ろうとしたのですが、3日ぐらい消息不明の状態でした。ようやく電話してきたと思ったら、すでに東京に来る話がまとまっていて、ああ良かったと安心しましたね。
院長が開業された動機と、松野先生が病院からクリニックでの診療にシフトされた理由を教えてください。

【染谷院長】尊敬する2人の師が相次いで亡くなり、その遺志を少しでも引き継ぎたいと思ったことが開業のきっかけです。それまで大学や都立病院で真っすぐなコースを歩んでいた僕にとっては転機でしたけれど、本来望んでいた「人が良く変わっていく過程」に関わる場として、クリニックがふさわしいと考えました。
【松野先生】震災後の10年は多摩の病院で多人数からなるチーム医療に携わり、有意義な経験をさせてもらいました。ですが、週1日の頻度でこのクリニックに通ううち、院長を中心とする“小さいチーム”がどのように治療をしているのか、だんだん興味が湧いてきたんです。患者さんも大勢来ているようだし、どうしてなのかなと。
アプローチの異なる医師のどちらかを患者が選んで
松野先生は病院のチーム医療からクリニックに移ってきたことで、診療についての考えに変化がありましたか?

【松野先生】チーム医療にはいろいろな専門性を持った医師の他に、看護師さんやリハビリテーションのインストラクターさんなど、大勢の人が関わります。患者さんは好きな看護師さんを選ぶこともできました。そのような手厚い医療と人間関係の中で、患者さんの心の病が少しでも癒やされていくように、私たちは努力を重ねていたわけです。つまり治療のための環境をこちらで用意することができたのですが、クリニックでそれはかないません。そこで患者さんご自身が医療の「外」で、それぞれの職場や生活の場で1人でもいい環境をつくっていけるように支援するにはどうすればいいか、という方向で自分の役割を考えるようになりました。簡単に言えば、患者さんが院外で自立するための診療というスタンスです。
染谷院長と松野先生の間で診療の役割分担はありますか?
【松野先生】特に分けてはいませんが、私には私の、院長には院長の医療に対する考えがあるので、患者さんとの向き合い方にもそれが反映されていると思います。先ほどカウンセリングの話が出ましたが、私は最初からズバリと核心に踏み込んでいいものかどうか迷うタイプで、問診票を見て質問しながら、少しずつ様子をうかがっていきます。
【染谷院長】役割分担は特になく、自分たちが患者さん一人ひとりに応じて担当を決めるよりも、患者さんが医師を選んでくれたらいいと思っています。僕らはそれぞれ良いところも良くないところもあると思うので、気に入ったほうを受診してほしいです。
精神療法と薬物療法を安全面に配慮しながら柔軟に適用
あらためて、こちらで行っている精神療法について教えてください。

【染谷院長】当クリニックでは精神療法と薬物療法を患者さんそれぞれの状態に応じて併用するようにしていて、精神療法の柱となるのは先ほども少しふれたカウンセリングです。病気の原因を探り当て、どう対処するのかを判断するための作業であると同時に、患者さんにとっての真の自由や自己実現をめざすものでもあります。真の自由とは何かを適切に説明するのは難しいですが、自分の本当にやりたいことや好きなことがわかっている状態と考えてみてください。人はしばしば、本当は好きなことからつい離れようとしたり、逆に嫌いな勉強もやっておいたほうが得だと思えば無理に頑張ったりします。そういう自分が縛られているかもしれない心理的な鎖のようなものを、カウンセリングを通して1つずつ外していきます。
薬物療法についてはいかがですか?
【染谷院長】どんな薬も副作用を心配される方が多いでしょうし、特に精神科で処方する薬は、依存性への懸念が大きいと思いますが、強い副作用はごく一部の薬に限られます。ただし、中には眠気が出たりするものもあるので、あらかじめよくご説明し、納得していただいた上でお出しするようにしています。今の精神科の薬はアルコールよりも依存性の低いものばかりなので過度に心配する必要はありませんが、少しでも依存のリスクがある薬を処方するときは、副作用と同様に患者さんの了解を得るようにしています。
【松野先生】精神科を受診したからといって必ず薬が出るわけではなく、診察だけで薬はなしという場合もあれば、漢方薬のみとなる場合も考えられます。患者さんに安心してお使いいただけるよう、もし飲んでみて副作用かなと感じたら、いつでも電話してくださいとお伝えするようにしています。
読者へのメッセージをお願いします。

【染谷院長】あまり慎重に構えず、ちょっとでもつらいと思ったら気楽に話しに来てください。親や家族に言いにくいことでも、他人には打ち明けられる場合もあると思います。僕らは患者さんに対する守秘義務を肝に銘じているので、ここでの会話は一切外に出ません。安心して、いつでもどうぞ。
【松野先生】私は無意識に生きるのが一番楽な生き方だと思っていますが、人生なかなかそうはいかないのが現実です。いつも考え込んでしまっている人は、もしかしたら精神科に相談したほうが良い状態になっている可能性があります。思い当たる方がいましたら、ぜひ受診してみてください。お待ちしています。