橋本 充弘 院長、後藤 美央 先生の独自取材記事
はしもとホームケアクリニック 小岩
(葛飾区/小岩駅)
最終更新日:2025/04/25

葛飾区細田に事務所を構える「はしもとホームケアクリニック 小岩」。同院は、訪問診療に20年以上携わってきた橋本充弘院長が、「人」を大切にする医療を実現したいとの思いで2024年に開業したクリニックだ。「人」とは患者であり、その家族であり、そしてスタッフたちや、院内外で関わるすべての人々なのだ、と橋本院長は語る。そして、橋本院長と以前同じクリニックで訪問診療に携わったこともある後藤美央先生は、深い信頼関係を築いてきた橋本院長とともに誠実な訪問診療の実践をめざしている。そんな2人に、訪問診療への思い等について聞いた。
(取材日2025年3月24日)
チームの力を結集し、一人ひとりの患者を大切に
開業以来、医療体制も拡充されましたね。

【橋本院長】後藤先生が加わり、現在、医師は2人体制となり、他に2人の看護師、医療事務、相談員、事務長が在籍しています。ありがたいことに開業当初から多くの患者さんを診療させていただいています。当院のスタッフは皆「一人ひとりの患者さんを大切に」という私の思いに賛同して集まってくれました。私が開業に踏み切ったのは、「人」を大切にする医療を実現したかったから。「人」とは患者さん、そのご家族、スタッフや院内外で関わるすべての方々です。現状が自分1人の力だと過信せず、周りへの感謝と誠意を持って進んでいきたいですね。当院は24時間体制ですが、私たちだけでは限界があります。そこで往診に対応する外部のプラットフォームと連携し、いつでも伺える体制も整えています。そちらの先生方もとても丁寧で私の求めるレベルの診療をしてくださり、信頼してお任せしています。
モットーとしていることはありますか?
【橋本院長】2つあります。1つ目はできるだけ自分の目で見ること。電話で相談を受けた際にも、可能な限り往診に行くようにしています。連携先の先生が診てくださった際も、その後に必ず私が訪問しています。2つ目はそれぞれの方の生活に合わせた対応をすること。2世帯で住んでいる場合とご年配のご夫婦だけの場合、さらにはお一人で寝たきりの場合など、状況は大きく異なります。それぞれの生活に合わせ、その方ができる範囲のことを考えていく必要があると思っています。
後藤先生はいかがですか。

【後藤先生】医師になり、専門科だけではなく、患者さんの全身を診られるようになりたいと思って診療にあたってきました。学生の頃、家族を自宅で介護し、看取りに立ち合いましたが、今思えば知らない事だらけでした。また、自宅介護がどれだけ家族の負担となるかも経験していますので、在宅での生活を送るうえで、医療的なことはもちろん生活についての困るであろう事について、できるだけこちらから説明をしたり聞き取りをして、患者さんだけでなく、ご家族の助けにもなれれば、と思っています。
患者と家族、両方の役に立つ医療を提供
これまでの経歴と専門について簡単にお話しください。

【橋本院長】中学生の頃、無医村で働く医師のドキュメンタリー番組を見て感銘を受け、医師をめざしました。日本医科大学卒業後は広く経験を積みたいと考え、日本医科大学付属病院の第3内科に入局しました。血液内科・消化器・内分泌と幅広い範囲を診る診療科でしたが、1年目の冬に白血病の患者さんを担当したことをきっかけに血液内科に専念するようになりました。非常に難しい病状の方で、いろいろなことを検討した結果、骨髄移植を行いました。血液内科では医療の原則的なことをみっちりと学べました。先輩からは、絶対に手を抜かない、そして患者さんとご家族に誠実に対応する姿勢を学び、その教えは今の診療にも生かされています。
訪問診療はどのようなきっかけで始めたのですか。
【橋本院長】勤務医時代、アルバイトで携わったことがきっかけです。たまたま紹介してもらった仕事だったのですが、それまであまり知らなかった分野でとても興味深く感じました。訪問診療と、先ほど挙げた「無医村で働く医師」のイメージとがなんとなく重なったのです。その後、大学病院が立ち上げた訪問診療のクリニックで深く学んだ後、2010年からは都内にある訪問診療のクリニックで院長として勤務してきました。
後藤先生もお願いします。

【後藤先生】私は大学卒業後、市立四日市病院での研修後、呼吸器外科を専攻し、肺がんや気胸などの手術に携わってきました。が、ある時手首をケガしたため外科医を断念。がん患者さんの診療を多くしていたこともあり、緩和医療を勉強しようと緩和ケア病棟に勤務しました。そこでは、患者さんの体調がいい時は、できる限りご自宅で生活してもらおう、と積極的に在宅診療を活用する方針でした。ただ在宅となるとご家族は初めてのことばかりになるので、不安でなかなか退院に踏み切れないことも多かったんです。その不安を払拭するため、医師、看護師、薬剤師、作業療法士、理学療法士、臨床心理士がチームとなって、退院前にあらかじめご自宅へ家屋調査に出向いたり、さまざまな準備や説明をしたり在宅診療への切り替えを進めていきました。この時、在宅医療に切り替えるための準備や知識がとても重要だと実感しました。
どのようなときにやりがいを感じますか?
【橋本院長】患者さんとゆっくりお話をしながら取り組めること、最期までお付き合いさせていただけることにやりがいを感じます。もちろん看取りをすることはつらさを伴いますが、その方が苦しむこともなく、ご家族に見守られながらきれいなお顔で旅立つことができたなら、幸せなことだと思います。良い看取りができると、皆さんの心に穏やかな達成感が残るもの。患者さんとご家族、両方にとってお役に立てる医療を提供していきたいです。
【後藤先生】自宅に他人が入ることを嫌がる方はいらっしゃり、最初は怪訝そうな表情の方もおられます。訪問していく中で、だんだん慣れてご自身の話をしてくださったり、「ありがとう」「また待ってます」と笑顔で言ってくださるとうれしいですね。また訪問看護師やケアマネジャー、ホームヘルパーの皆さんと連携をとり、患者さんの生活が安定していくことを実感できたときにやりがいを感じます。
抱え込まず、困ったときにはどのようなことでも相談を
診療の際、心がけていることをお聞かせください。

【橋本院長】まず患者さんの話をよく聞くこと。以前と同じ話をされたとしても、改めて耳を傾けます。次に丁寧に説明すること。こちらの説明を忘れてしまう場合もありますので、何回でも繰り返して丁寧にお話ししています。ほとんどの方がご高齢で人生の大先輩ですから、礼儀も忘れてはなりません。そしてご家族とのコミュニケーション。訪問診療では患者さんだけでなく、ご家族の気持ちに寄り添うことも重要だと思っています。
【後藤先生】わかりやすい説明をすること。当たり前のことですが、特に気を付けるようにしています。ご家族などから頂く情報だけでなく、ご本人からの訴えをしっかり聞き取りしようと思って診療しています。
患者さんのご家族に伝えたいことはありますか?
【橋本院長】介護は長く続きます。その介護を抱え込んでしまうご家族もいらっしゃいますが、ご家族にも仕事や生活がありますし、疲れ果ててしまってはどうにもなりません。「我慢せず、医療や福祉の力を借りてほしい」とお伝えしたいです。もちろんご家庭での協力をお願いする部分もありますが、医療や福祉がお手伝いできることは多いのです。抱え込まずにご相談ください。一緒に患者さんの人生を支えていきましょう。
【後藤先生】持病をお持ちの上での在宅での生活には不安が付きまといます。できるだけ負担なく在宅生活を送れるよう、こちらからいろいろとアドバイスできることもあります。困ったことがあれば何でも相談していただきたいと思います。
最後に、今後の展望をお願いします。

【橋本院長】開業して8ヵ月ほどですが、今は患者さんに十分な医療と対応を提供できるように機能しています。今後、患者さんが増えても同じ水準を保っていられるか。当院の真価が問われるのはその時でしょう。「数年後も今と変わらぬ医療と対応を」と前向きに頑張るスタッフたちと力を合わせ、努めてまいります。院長としてスタッフが生き生きと働ける職場環境づくりにも力を入れていきたいですね。
【後藤先生】橋本院長はじめスタッフ全員が、患者さんに対して私たちができる最善は何か、を常に考え日々診療に当たっています。これからも当院の訪問診療を通じて困っている方々の助けとなれるよう努めていきたいと思います。