伊藤 緑 院長の独自取材記事
南池袋診療所
(豊島区/池袋駅)
最終更新日:2024/08/23
池袋駅東口から徒歩5分、オフィス街に建つビルの3階にある「南池袋診療所」。「阿佐谷すずき診療所」の分院として約30年前に誕生した、働く人も通いやすい透析クリニックだ。院長の伊藤緑先生が大学病院勤務を経て院長に就任したのは2016年のこと。以来、本院やもう1つの分院「高円寺すずきクリニック」の院長を務める兄たちとも連携し、数多くの透析患者の治療にあたってきた。透析治療だけではなく、専門としてきた腎臓内科での経験も生かし予防にフォーカスした診療にも力を入れている。透析ベッド19台とほどよくコンパクトなサイズだからこそアットホームな雰囲気が漂う院内で、診療にかける思いなどを詳しく聞いた。
(取材日2024年1月9日)
仕事をしながらの透析治療を支え続けてまもなく30年
まず、クリニックの歴史について教えてください。
当院は腎臓病専門クリニック「阿佐谷すずき診療所」の分院として1994年に開業しました。本院の初代院長である父は日本の透析治療システムの確立に尽力した人物で、東京女子医科大学の透析室長も務めていたことがあります。その後、患者さんにとってより身近な場所で透析治療をしたいという思いから本院を作りました。さらに、阿佐ケ谷のような住宅街の他にも、オフィス街での透析ニーズも高いのではと考え、ターミナル駅にほど近いこの場所に分院を立ち上げたそうです。父の想像どおり、現在も通勤の途中で足を運んでくださる方も少なくありません。
こちらではどのような患者さんが多いのでしょうか。
本院や2001年にできたもう1つの分院「高円寺すずきクリニック」と比較して患者さんの年齢層はやや若く、50代から60代のビジネスパーソンが多めなのが特徴ですね。私が当院の院長に就任したのは2016年ですが、わずか数年の間に患者さんから「退職を機にこれからの透析をどうしていくか」というご相談もずいぶん受けました。ご自宅に近い透析クリニックへの転院を希望する方には紹介状を書いて送り出します。透析はだいたい1日置きなので顔なじみの患者さんと会えなくなるのは寂しいですが、無理なく通院していただくのが一番ですからね。
腎臓内科がご専門で予防にも力を入れていると伺いました。
いつかは透析が必要になる可能性が高い方でも、そこに至るまでの時間の引き伸ばしを図ることはできます。生活習慣病も慢性腎臓病を悪化させる一因なので、まずは、高血圧、コレステロール、尿酸値などをしっかりと管理していきたいです。また、管理栄養士による栄養指導に力を入れているのも、日々の食事も透析までの時間を長くするためには見過ごせないからです。急に透析が必要になった方の中には「実は10年前に健診でわずかにひっかかっていた」という患者さんも珍しくありません。一度でも健診で異常を指摘されたら、できるだけ早く受診していただければと思います。
透析患者のシャントエコー検査やフットケアにも注力
こちらの透析治療の特色を教えてください。
透析ベッドは19台とこぢんまりとした規模でやっているのが一つの特色でしょうか。以前は25台ありましたが感染症対策のために減らしました。メインとしているのは高度に清浄化された水を大量に使用する血液ろ過透析という方法です。水を介した万が一の感染症や合併症のリスクがないよう水質に非常にこだわっています。やはり、患者さんには安心して透析治療を受けてほしいですからね。看護師長、透析関連装置の保守点検に携わる臨床工学技士長ともに勤続年数20年以上のベテランというのも当院の特徴です。透析を5年、10年と続けていくうちに患者さんにどのような問題が起こり得るか、どんなお悩みが出てくるのか熟知しているので、とても頼もしく思っています。また当院では、本院で勤務している栄養士が定期的にベッドサイドで栄養指導を行っています。患者さんに合わせてとても細かく指導してくれているので、その点も非常に助かっていますね。
スタッフとのチームワークも大事にしていると伺いました。
小回りが利く規模だからこそ、どんなささいなことでもお互いにすぐに声をかけ合うようにしています。大学病院に勤務していた頃は、質問したいことができても相手がどこにいるのか見つからないということもありましたが(笑)、そんな心配もありません。疑問点はすぐに解消し患者さんの情報をしっかりと共有しています。当院ではフットケアにも力を入れているのですが、これは看護師の1人が自ら講習会に出かけて他の看護師たちにもノウハウを広めてくれたんです。患者の手首に形成する透析の出入り口であるシャントの管理も透析治療では欠かせませんが、シャントエコー検査を本院にいる血管外科医師のもとで学んできてくれた臨床工学技士もいます。一人ひとりが患者さんを家族のように思い「もっとできることはないか」と考えてくれているのはうれしいですね。
診療にあたって大事にしていることは何ですか。
透析治療は誰にでも同じようにというわけにはいきません。つねに、その人らしさを大事にしつつ、一人ひとりにとって最良と思われる方法にブラッシュアップしていきたいと模索しています。基本的には週に3回、1回あたり4時間が目安ですが、最初のうちは透析を受け入れられない方も多く、まずは3時間を目標に進めていくことも時には必要です。透析時間が長いほど体内にたまった毒素も抜けやすくなり、食事制限の緩和につながることから、5時間透析を希望される人もいます。もちろん、当院でも対応できるのでご相談ください。透析期間が長くなれば心臓疾患、骨粗しょう症などの合併症の問題も増えるので、適切なタイミングで専門の先生を紹介することも心がけています。長い目で患者さんの人生に寄り添っていくことが何よりの願いです。
腹膜透析にも意欲。災害時マニュアルも患者ごとに作成
今後の展望についてお聞かせください。
現在は血液透析しか行っていませんが、将来的には腹膜透析もできたらいいですね。腹膜透析は自宅で行うので通院を月1回程度にでき、残された腎臓機能を守ることも期待できるのは患者さんにとっても大きなメリットではないでしょうか。さらに、災害時のための小冊子づくりも続けていきたいです。「緊急事態になっても、この薬だけは命に関わるので絶対に飲んでください」といったマニュアルを患者さんごとに内容を変えてお渡ししているのですが、これも看護師のアイディアから始まったことなんです。これからも、スタッフ一人ひとりが自由に発言できて、やりたいことをチャレンジできるような雰囲気を大切にしていきたいと思います。またその他、当院でも本院と同様に、運動療法を行っています。エルゴメーター、ゴムバンド運動などを透析中に行っていただいていますが、今後はもっと多くの患者さんに取り組んでいただきたいと思っています。
お忙しい毎日ですが休日はどうお過ごしですか。
子どもと過ごすことが多いですね。だんだん子どもも大きくなってきたので、そろそろ自分の時間も持てるといいなと思っています。でも、仕事柄、長期的な休みを取るのはどうしても難しいです。そう言えば、透析にたずさわっていた父と旅行に出かけた記憶はないですしね。父だけではなく、どのスタッフも長く休むことなく働いてくれていましたし、ご家族も協力してくださったからこそ成立してきたクリニックだとも思うんです。当院を支えてくれているスタッフはもちろん、そのご家族にもとても感謝しています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
小さな透析クリニックだからこそ、患者さん一人ひとりとの関わりは深いです。それぞれの個性をふまえて、一律ではない透析をしていきたいと考えています。小規模ながらシャントの詰まりがないかどうかエコーで緻密に見ていますし、つまりを解消する必要があれば本院でバルーンカテーテルを用いた手術も可能です。また今後は、より多くの患者さんにとって利用しやすい環境をお作りできるよう、送迎バスを強化していく計画もあります。一応、5km範囲内とはしていますがご希望が多ければ柔軟に対応できますのでご相談ください。当院は、何よりも患者さん思いのスタッフがそろっていることが自慢のクリニックでもあります。長く続けなければいけない透析治療はくじけそうになって当たり前です。スタッフ全員で全力でサポートしていきますので、どんな心配事も気軽にご相談ください。