松永 巌 院長、永田 健 先生、長岡 篤志 先生の独自取材記事
みんなの福岡クリニック
(福岡市南区/大橋駅)
最終更新日:2026/05/07
高齢化が進む中、新型コロナウイルス感染症の流行以降、在宅医療のニーズは一層高まっている。福岡市南区にある「みんなの福岡クリニック」の松永巌院長も在宅医療に情熱を注ぐ医師の1人だ。老々介護や独居老人の訪問診療も行うなど「慣れ親しんだ自宅で最期の時を迎えたい方は多いです」と松永院長。血液検査、腹部・心臓・頸部血管の超音波検査、心電図検査なども自宅で実施できるという。訪問は福岡市を中心に対応し、24時間365日体制で往診にも対応。患者が住み慣れた住まいで安心して療養できるよう、多職種連携による医療体制を構築。医師は松永院長と、法医学の現場での経験を持つ永田健先生、2026年4月からは脳神経内科で研鑽を積んだ長岡篤志先生も新たに加わった。専門分野を持つ3人の先生に、地域医療への想いなどを聞いた。
(取材日2026年4月7日)
心臓血管外科と法医学、脳神経内科から在宅医療の道へ
まずは2023年の院長就任の経緯からお聞かせください。

【松永院長】ここは、もともと関東の医療法人のクリニックが九州に進出するということで開院されました。前院長が自身のクリニックの開業のため退職されたことを機に、求人を通じて私が院長に就任させていただいたというのが経緯です。私の出身は長崎で、大学は大分大学、卒業後は東京の順天堂大学の心臓血管外科に入局。キャリアを重ねる中、さらなるスキルアップをめざし、アメリカのハーネマン大学(現:ドレクセル大学)病院心臓胸部外科でも勉強させていただきました。帰国後は、心臓血管外科がある福岡和白病院で勤務した後、在宅医療の道に進んだというのが私の経歴です。
永田先生、長岡先生のこれまでのキャリアを教えてください。
【永田先生】私は久留米市出身で、幼少期に小児科に通った経験から医師を志し、九州大学へ進学しました。卒業後は法医学を専門に、事件性の有無を見極める司法解剖などに従事。孤独死など、医療や行政の支援が届かず亡くなられた方と向き合うことも多く、その生活背景にふれ、現代社会の課題を実感しました。こうした経験から何かできないかと考え、在宅医療の道を志すようになりました。
【長岡先生】私は小学生の頃、祖父を病気で亡くしたことをきっかけに医療に関心を持ち、長崎大学医学部へ進学。手足から脳・内臓まで、体のすべてに走る“神経”に興味を持ち、全身を診られることにやりがいを感じて脳神経内科を専門に選びました。卒業後は大学病院や地域の中核病院で認知症やてんかん、パーキンソン病を中心に、呼吸筋まひを起こす珍しい症例のミトコンドリア脳筋症やアメーバ症による脳炎など、国内でも数少ない症例の診断・治療にも携わりました。
同じ医療の世界とはいえ、大きな方向転換をされましたね。

【永田先生】せっかく利用できるサービスがあるのに、そこにたどり着けない情報格差の問題。受けられるさまざまなサービスや支援と、それを必要とする人を結びつけるパイプ役になりたいと思い、在宅医療に方向転換しました。
【松永院長】私の場合は、心臓血管外科の医師として手術で病態改善に尽力する一方、高齢の方に侵襲的な手術を行うことにジレンマも感じていました。医師として将来を考え、先進の医療を追う道ではなく、積極的治療を行わない在宅医療に興味が湧いたのです。心臓血管外科での全身管理の経験を生かせると確信し、この道へ進む決意を固めました。
【長岡先生】病院の難病の外来で診療する中、生活環境を直接確認できないことで、アドバイスが一般的になりがちなことに、もどかしさや課題を感じていました。実際の暮らしを踏まえた診療をしたいと在宅医療を志し、そのタイミングでこのクリニックの紹介をもらい、入職を決めました。
患者の理想とする環境づくりと苦痛の軽減に力を尽くす
訪問診療での取り組みを教えてください。

【松永院長】私が今、在宅医療の中でも特に意義を感じているのが緩和医療の提供です。今後は多死社会になることが想定されますので、がん、呼吸器疾患、心不全などの終末期につらい思いをする方が増えることは避けられません。少しでもその方たちの苦痛を和らげることができたらと、取り組んでいます。侵襲的な治療を行わずに、いかに患者さんのお気持ちに寄り添い、さまざまな苦痛を和らげるサポートができるかを常に考えています。
【永田先生】まだ情報が行き届いていない方へ、行政のサービスや医療ケアなど、利用できるサービスの情報提供にも努めています。
【長岡先生】在宅療養の方には、神経疾患に気づかれていないケースが多いと感じます。例えばパーキンソン病は「年のせい」と見過ごされがちですが、早期発見により症状の緩和や、生活の質の向上が期待できます。適切な診断や紹介も行い、患者さんやご家族の支えになれればと思っています。
超高齢社会の今、病院完結型医療から地域完結型医療へとシフトしていますよね。
【松永院長】ご自宅で、がんや慢性疾患の終末期を迎えられている方が多く、以前であれば病院で過ごされていたであろう病態の方も、ご自宅での療養が可能な時代になりました。
【永田先生】本当は自宅で療養したくても、ご家族への負担を考えて入院を選ぶ方もいらっしゃいます。患者さんの本当の希望をかなえるには、ご家族の負担軽減と不安の解消が大切。各種サービスも活用しながら、理想の療養環境に近づけていきたいと考えています。
【長岡先生】神経難病については、わかっていない方も多いと思いますし、在宅医療を行う脳神経の医師は少ないので、日本神経学会神経内科専門医だからこそのサポートができればと考えています。
やりがいを感じるのはどのような瞬間ですか。

【松永院長】患者さんの苦痛の緩和につながり、穏やかな表情を見ることができたら、特にやりがいを感じると思います。在宅医療は医師だけでなく、訪問看護師、薬剤師、ホームヘルパーなど、多くの方との連携で成り立っていますので、皆と患者さんの願いに向かって協力し合えるのもやりがいの1つになっていますね。
【永田先生】私も患者さんの願いをサポートでき、穏やかな表情で旅立たれたり、ご家族が穏やかな気持ちでお見送りできたら、胸が熱くなります。
【長岡先生】患者さんの症状が良くなることがあれば、もちろんうれしいですし、何の病気がわからず不安を抱えていた患者さんの診断ができた時「わかって良かった」と言っていただくことができたら、やりがいにつながります。
在宅医療は医師も家族も余力を残しておくことが大切
福岡市を中心としたエリアが訪問対象ですね。

【松永院長】福岡市でも独居や老々介護のご家庭が増えていると実感しています。お考えはそれぞれですので、ご希望を尊重しつつ在宅療養を支えますが、ご家族が疲弊してしまう場合は無理をせず、適切な支援を考えることも大切です。
【永田先生】ご家族が「こうあるべき」と抱え込み過ぎず、余力を残すことが重要です。私たち医療者も同様で無理をしないことが良い医療の継続につながると考えています。
患者さんとそのご家族が幸せに過ごせるようにするために、重視されていることは何ですか?
【永田先生】アドバンス・ケア・プランニング(ACP)といって、最期にどのような医療を望むかを家族や医療者と繰り返し話し合うことを大切にしています。まだ認知が十分でないため、まず知っていただくことから始めています。訪問看護師、ケアマネジャー、介護ヘルパーなど多職種と連携し、患者さんの想いに寄り添いながらともに歩める点が在宅医療の魅力だと感じています。
【松永院長】とにかく患者さんとそのご家族とコミュニケーションを取ること。人の気持ちは常に変化していくものですから、小さな変化も取りこぼすことのないよう心がけています。
【長岡先生】患者さんが自分らしく生活できるよう、ご本人はもちろんご家族からも丁寧に話を伺い、多くの情報を得ること。現状だけでなく将来を見据えた助言にもつなげています。
読者へメッセージをお願いします。

【松永院長】在宅医療は、たくさんの人たちが一人の患者さんの心身と環境を支えていく医療。心臓血管外科時代は、救命を第一に取り組む日々でしたが、今はありのままを受け入れ、苦痛を和らげることに徹し、患者さんのお気持ちに寄り添う。これは、本来人間がたどるべき自然な流れなのではないかと感じています。人の命は限りがありますので、積極的な治療をしてもしなくても、最期の日は必ず訪れます。その上で、どう過ごしたいか。ぜひ大切な人とじっくり語り合ってみてください。

